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50 15歳 talk to セザール

アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。


『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。


「やぁ、部屋に花を飾ってくれたのは君かい?とても良い香りだ。ありがとう」

「い、いいえそんな。お喜びいただけて何よりです」

「君によく似た可憐な花だね。そうだ。後でお湯を少し頂けるかな?熱いのを」

「え、ええっ!。…あの、すぐにお持ちしますね」

「気を付けて。君の可愛い指が火傷しないように」

「は、はいっ」


おや?正面でメイドと楽しそうに談笑して居るあの色男は…


「セザール様、エントランスホールの見学ですか?見事でしょう?」


「これは…、麗しのレジナルド様ではありませんか。淡いライラックの髪が陽に透けて実に幻想的だ」


う、麗しのレジナルド様⁉


あ、ああ、そういえば彼の故郷ウルグレイス神王国は前世でいったらウィーンとかフランスとか、なんかそんな感じにアレンジされた少し芸術的な国だもんね。これくらいの歯が浮く台詞はあいさつ代わりってとこか。


…って、ちょっと!陽に透けてって何! まさか…う、薄…


サッサッ「…」


「僕の部屋は貴方がお選びくださったのかな?だとしたら素晴らしい洞察だ。この僕に敢えてあのような清廉な滝をお選びになるとは…」


「あ、え、ええ。そうです。私が選びました。審美眼に優れたあなたは分かりやすい躍動感よりもこういった繊細さを好まれるのではないかと。まるでシルクの様な美しさでしょう?木にかけられた天女の、いえ、女神の衣の様な滝、いかがです?」


滝とは何も躍動感だけが売りではない!


「とても気に入ったよ。だけど不思議だね。君と僕は初めて会うというのに何故それを?私はどちらかといえばいつも華やかにみられることが多いのだよ?」


「ゴホ……出会って数秒で分かりましたよ?あなたからは溢れ出る芸術性を感じます。これくらい至極当然…。むしろ一目でそれに気づかない人が節穴なんじゃないですかね?」


やばばばば。やばい。

彼が芸術をこよなく愛し、また一見軟派に見えて攻略者対象の中で一番繊細だってことはゲームでキャラ紹介を読んだ僕だけの知り得る事だ。失敗失敗。テヘ☆


「なんにせよ実に素晴らしい。心が洗われるようだ…」

「ふふふ。お疲れだったんですね。ぜひここで命の洗濯を。浮世の憂さはここに置いて行かれてはいかがでしょう」


「ありがたい。君も知っての通り僕はウルグレイスからの留学生。…だが留学とは名ばかりでここへは逃げ出してきたんだよ。」

「逃げ出す…?ああ…!」


たしかウルグレイスはエトゥーリア共和国の東、ゲスマン皇国からは南に位置する国。

そしてそのゲスマンとは…、戦争の真っ只中だ。はぁ…、どこもかしこも…


そういうクラレンス王国だって実はゲスマンの侵攻に備えている。…攻略対象者の成長クエストのためにだけどね。


ウルグレイス神王国はエトゥーリア、そしてこのクラレンスと国交を結ぶ、やはり貴族国家だ。そして貴族は魔法を使う。…じゃないとセザールがゲームで浮いちゃうからね。


因みに蛇足だが、ゲスマン、ナバテア、トラキア、と言った古の魔法使いをルーツに持たない国々は、魔力持ちの代わりに魔石を使って魔法を行使する。そして文明の利器となったそれらは時に、本物の魔法使いをも凌駕するのだ。


…って言っても、僕のフルスキルフルカンスト、レベル天井越えには何だって敵わないんだけどね。おっと…セザールが何か話してる。


「母は戦争が長引くようならクラレンスに骨をうずめてもいいと仰る。僕は気ままな三男だからね。だがそれは期待されていないという事の裏返しでもあるんだよ…」


「セザール様…?」


「すまない、初めて会った君にこんな事…。だが試練を乗り越え人生を切り開く君にはなんだか少し…、いやなんでも無い。忘れて欲しい。滞在中は全てを忘れて楽しませてもらうよ」


「…ぜひそうなさって下さい。ここは日常から離れて本能に身を委ねる場所ですよ?身も心も解き放たれては?」


「そうするよ…」


華やかな笑顔の裏に憂いを秘めたウルグレイスの貴公子…。彼もまた悩める思春期なのだろう…


だが彼はこのウエストエンドのスローガンどおり、息をするように庶民階級へも敬意を払えるできた少年だ。多少気障臭い所はあるけど。


「セザール様、僕で良ければお話しくださいね。気が向いたら是非…」


何も言わず笑顔で一礼しそのまま去ってゆくセザール。

彼の憂いがあの滝の流れと共に滝壺へと消えてゆけばいいのだけれど…



----------


自然の中に突如として現れたのは想像をはるかに超えた楽園。それがヴィラ・ド・ラビエル。


案内されたヴィラの一面を占める大窓、そこから聞こえてくるのは心を落ち着かせる水の音。そして時折鳥の声や木々のこすれる音が混じり得も言われぬハーモニーを奏でている。


まるで現実感の無い天国のような場所…。そうだ。ここにはライラック色の天使も居る。


狂魔力の継承者として国中から恐れられる不憫な子供。

その認識が吹き飛んだのはこの大自然を生かした類まれな造形美をこの目にしたからだ。

この夢幻を作り出したのが彼の負う狂魔力(おもに)であるなら、ここの全てはそれらを乗り越えた彼の強さではないか。

全てから逃げ出すだけの僕とは違う…


そう。僕は逃げ出したのだ。

それはゲスマンとの争いで揺れ動く国の現状だけではない。

学問、剣術、そして魔法と、全てにおいて兄上方と比較され続けることから。


家門を背負うに相応しい優秀な兄。それに引き換え全てが半端であり、またその立場さえも半端なのがこの僕。

責任を負うわけでなく、かと言って家門の恥になることも許されない。辛うじて人より秀でた芸術の才も両親の歓心を得るに至らなかった。


あそこに居たら自分を見失う。そう思い決めた留学だったがやはり心は晴れることなく時間だけが過ぎていく。

そんな中、殿下にお誘いを受け気晴らしになればと来たウエストエンドだったのだが…


ここに来たのは正解だった…


カタン…


「この花瓶は…」


テーブルに置かれた濃淡のライラックは優しい香りで僕の心を落ち着かせる。礼を言おうとメイドを追えばそこに居たのは小さな耳をつけたシマリスの少女。


獣人族…


この国で獣人は他国に比べ受け入れられている。とは言え彼らは高圧的な人間種を避け大抵は町を離れ山で暮らす。

なのにここでは人を恐れたりしないのか…


たわいもない言葉を交わす僕たちの前に現れたのは、ホールへとやって来たレジナルド様だ。



彼は不思議と、まるで見透かしているかのように僕のことを言い当ててゆく。彼には僕の何が見えているのだろう?


だが理解を得られるというのはなんという心強さか。

心の緩みからか思わず口を突いて出たのは心の憂い。それは彼の背負う業に比べれば何という事もない小さな悩み。鼻で笑われてもおかしくない程度のつまらない憂い…


「僕で良ければお話しくださいね。気が向いたら是非…」


なのに私にかけられたのはそんな慈しみの言葉だった。




毎日更新を目指しています。

お星さまをぽちっとしていただけると大変大変嬉しいです。作者の励みでございます(;^ω^)


この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)

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