29 13歳 to ナバテア帝国
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「レジナルド様。頼まれていた医者なのですが、どうも返事がどこかで遅れていたようで…彼らはとうにゲスマンを発っております。近々到着するでしょう」
その日の見回り、ニコニコと笑顔でそう教えてくれたのは薬師のイーサン先生だ。
ゲスマンからクラレンスへ、多国間の手紙の類は国ごとに受け渡され、まるでバケツリレーのように配達される。当然一方が雑然としていればそういう事も起こり得るわけで…、あのゲスマンだもの。納得だ。
むしろ無事手紙が届いただけでも御の字としよう。
僕は先生の助手に、お医者様の部屋を整えるようお願いしてからイーサン先生へと向き直った。
「それでそのお医者様はどんな方なの?よくこのウエストエンドへ来る気になってくれたよね?」
「彼らはとても善良な医者で…ですがその…、僕が居た当時も善良が過ぎて学会から追放されかかっておりましてね」
「追放?」
分かった事は二つ。
一つはここへ来るのがイーサン先生の知り合い一人でなく、医者の卵でもある彼の息子も一緒だって事。
そしてもう一つは彼らの事情。
善良ゆえに彼らは貧しい患者を見過ごせず、よく無償で治療をしていたのだとか。
そしてそれを良しとしないゲスマンの医学会から様々な妨害を受け、薬を買い入れるどころか日々の食事にもこと欠くほど困窮していたのだとか。
父親の方は貧しい人々を想い最後まで悩んだようだ。が、息子によって説得されたらしい。
気持ちはわかるが所詮自分たちの食料すら買えない有様では慈善すら施せない。
「人々を救う前に餓死しては元も子もない!」「不毛の荒野ウエストエンドこそ医者が必要だ!」と息子に諭されたらしい。
まったくその通りだ。
それにしてもなんという善良な医師なのだろう。
イーサン先生は彼らの状況を分ったうえで、ここで得た給金でキャラバンから小さな純金の金細工を買い入れ手紙に同封しておいたのだとか。小さくても純金だよ?それを換金して旅費に充てるように、と。
僕号泣…
「せ、先生…、う…グス…、小さな金細工って言っても安くなかったでしょうに…」
「いやぁ…ここへ来てから貯めた給金、全部使い切ってしまいましたよ。ですがあそこは遠いですからね。馬車を乗り継いでひと月と少し、二人分の旅費にはそれでも足りたかどうか…」
「それで来てくれなかったらどうするつもりだったんですか…?ひ、人が良いのにも限度ってものが…」
「そう言えばそうですね。いやぁ考えてもみませんでしたよ」
四人の助手がどうして先生を庇って奴隷商にまでついて行ったのか…、その理由が分かった気がする。
と言うか、たった今から僕もイーサンファンクラブに入会していいだろうか。とりあえず入会金は金細工のお代分で。
薬師と医者がここまで善良だとは。まさに僕のウエストエンドにはうってつけだ。いい人材に恵まれちゃったな。僕は果報者だ!
そして一週間後やってきたのは、想像を裏切り実に頑固そうで偏屈そうな痩せ細った中年のお医者さんだった。
反対に息子さんがとても温和そうで、その対比がなんだか面白い。
「ようこそ。よく来てくれましたドクター…」
「ザカーリだ」
「ドクターザカーリ。それから…」
「息子のラドリーです。その…思った以上に栄えていて驚いたと言うか…、ゲスマンで聞いていたウエストエンドはもっとこう…」
「ああ、不毛の荒野ってやつですね。実際そうでしたよ。一年前初めてここに来たときは。ねぇクラウス?」
「まさしく。よもや一年でここまで様変わりするとは…」
「言っておくけど序の口だから!」
僕は言った。ここの領民は貧民難民獣人族、不遇を乗り越えた人々なのだと。そして領民はこれからまだまだ増える予定で、建築ラッシュのウエストエンドでは随時怪我人多数だと。
「ザカーリ先生、ここの病院は公営ですので遠慮なく診てやって下さいね!必要なものがあればなんでも仰って下さい。期待してますよ!」
「ありがたい…。貴方は良い領主のようだ。ああ…わしは何もかもに裏切られたと思っていたが友には恵まれていたのだな。イーサン、感謝する…」
こうしてようやく病院が稼働を始めた。病院だけはね。
病院の横にはまだ正式稼働はしていないけど、実は学校用の建物を既に用意してあるのだ。
今はここに子供を集めて週に一回、読み書きの手習い教室を開いている。先生はメイドたちの持ち回りだ。
だけど大人に教えるにはちゃんとした先生が必要だと思っている。
人に、それも中途半端にものを知った大人に読み書き以上のことを教えていくにはそれなりに専門の人じゃないと。まぁ…課題の一つだよ。
そんな頃だ。ついにヴォルフがゴリラ獣人のドンキーさんを見つけ出した!
「ずいぶん時間がかかったよね。どこにいたの?」
「てっきりゲスマンの拳闘場で戦わされているかと思ったんだがな、…国外に居た」
「国外⁉ 」
ヴォルフの掴んだ情報は僕の怒りに火をつけた!
ゲスマンの闇奴隷商から、ゴリラを含めた何名かの大型獣人を買い入れていたのはナバテア帝国、隣国エトゥーリア共和国と大々的に戦争をしている武闘派の国だ。
この辺の国は乙女ゲーの域を超える血なまぐささで、ゲーム内でも近隣国として名前がチラッと出るだけの国。ジャンルが違う。
事実ジャンルが違うのだ。
ゲスマン、ナバテア、トラキアの三か国は魔法使いが産まれない国である。代りに彼らは魔石を使い魔道具を駆使して戦闘をする。
だが幸いにしてこのクラレンスとの間には魔のベルト地帯がある。
魔のベルト地帯がこのクラレンス王国とナバテア帝国、両国間に広がる限りナバテアがクラレンスに侵攻する事はあり得ない。これはクラレンス側にとって一つの安心材料だ。
ましてやナバテア帝国側では戦時中という事もあって、ナバテア側の山中では封印がかなり緩んでいるらしいのだ。
ベルト地帯を超え魔獣が出現するナバテアの樹海…。考えるだけで恐ろしい…
だが彼らはその危険な山中で戦術に使う魔石が採れることを知り、力の強い獣人奴隷たちを使い採掘させているのだとか。
「何て危険な事を…」
「危険なのは拳闘場も同じだがもっとたちが悪い」ギリ…
奴らは獣人が死にかけるたび、低レベルのポーションでギリギリ生かしながら今でも隷属させていると言う…
命をおもちゃにするなんて!許せない!
「ヴォルフ。彼らを助けに行くよ。ちょうど聖乙女の涙を2本手に入れたとこだ。どう考えても神様の思し召しとしか思えない!」
「それはいいが…どうする?いくら精鋭と言えど二十人足らずの騎士団を動かしたところでナバテアの軍隊には…」
「騎士団は動かせないよ。けど秘策がある。僕一人でいい」
「駄目だ!」
珍しく真剣な響きの制止。ヴォルフなりに心配してくれているのだろう。
「どうしてもというなら…俺だけでも連れて行け」
「…分かった。ありがとう…じゃあ一緒に行こう」
地震が来たときも台風が来たときも絶対側から離れなかった僕のリンク。
『何があっても守ってやる!』いつだってその眼はそう語りかけてきた。
クス…リンクと同じ…やっぱり君は僕の大事な心友だ。
大好きリンク。僕らはこれからもずっと一緒だよ!
毎日更新を目指しています。
お星さまをぽちっとしていただけると大変大変嬉しいです。作者の励みでございます(;^ω^)
この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




