26 12歳 move on ウエストエンド
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
夜目の利くというシャリムは代わりに昼間の視力が弱いみたいだ。
そこで思いきって、彼には屋敷の中で出来る仕事、このウエストエンド史の記録という大役を任せることにした。
これはオートでスクショやバックアップが残らないこの世界においてとても意義ある重要かつ必要な任務だ。
物事とは失敗も成功も、全て詳細に残す必要がある。早々に始めたいと考えていたのだ。
だけど屋敷外で文字が読み書き出来る者は…残念ながら皆無である。
かといって屋敷の者たちには各自仕事があり、そこから執筆時間を捻出するのは…どうかな?
騎士には領内の治安を守るという役目があるし、ジェイコブには僕の代わりに屋敷を切り盛りするという役目、ウィルには土地を測量し区画整備をするという役目、コリンにだって領民台帳をまとめるという仕事がある。
また、うちの中位使用人は遠縁筋が多い。つまり読み書き計算に不自由は無いが、それでもまだまだ発展途上なウエストエンド、家事労働の合間を縫って領史までお願いするのはブラック労働を強制するのも同然。
事務官不足のこのウエストエンドで、読み書きが出来、加えて母親の与えた本のおかげで様々な知識に長けたシャリムは貴重な事務方なのだ。ラッキー!
そうそう。白狼のヴォルフだけど…
孤高の狼を縛り付けるなんてこと…、出来ようはずも無いししたくも無い。
彼は勝手に屋敷の裏手にあった元貯蔵庫を陣取り自由気ままに過ごしている。
時に人型で、時にケモノ型でフラフラと姿を現す彼は、騎士たちと獣人たちの橋渡しともいえる立場だ。
因みに気が付いたら僕の専属SPみたいになってて騎士たちの怒りを買っていると言う…
本人は僕が獣人を虐げないか見張ってるって主張してるけどね。失礼な。
面白かったのはウィルとアーニー。
イヌ科の頂点であるヴォルフにトイプーみたいなウィルは早々子分に成り下がった。
その反対がネコ科のアーニー。いや人間だけどね。
彼は顔を合わすたび毛を逆立てて怒っている。打ち解けるには時間が必要かな?
そのウィルとアーニーはシャリムの前でだけ何故か意気投合する。
彼の身の上を知り表面的には何も言わないけれど、僕と連れ立っているシャリムを見ると二人そろってある種の緊張感を醸し出すのだ。
森の賢人フクロウの前で地上の生き物は何も言えなくなるんだろうか?不思議だ…
200に届かないとはいえこれだけ人が増えると領内はかなり領らしくなってきた。
農業地区ではキャラバンから買い入れた苗その他で、小麦エリア、野菜エリア、果樹園エリアが整然と区分けされ、また一部の獣人さんにお願いした放牧も始まり、それはもう牧歌的な、見るも美しい一帯となっている。
ああそうそう、家畜たちは野生の牛や豚を捕まえてきてもらった。流石獣人族、お手の物だ。
「ウィル…、よくここまで美しく整えてくれたね。君に任せて良かった。心底そう思うよ」
「レジー様…。そう言っていただけるだけで僕は本望です」
「ほぼ丸投げしちゃってごめんね。大変だったでしょ。ご褒美を上げなくちゃ」
「そ、そんな!でも、まさか……本当に…?」チラ
「ホントだよ。遠慮なく言ってごらん?」
「で、では西の山中に作った『天使の泉』、そ、そこに二人で…その散策に出かけたいです!あっ!いえ、すみません。僕ってばなんて図々しい…」
「ふふ。散策だね。いいよ。二人で行こうね」
図々しいどころかそんなことで良いなんて、逆に奥ゆかしいでしょ!いくら僕が恩人だからってほんとにウィルは何年たっても義理堅いんだから…
そして開発地区ではいよいよ僕の野望が動き出す。
「さあアーニー。ここからが本番だよ。これだけ人手が増えれば少しずつ手を付けられる。目指せジャングルリゾート!マンダパ・リッツ・カールトン!」
「なんだそりゃ。何するって?」
「ここにね、コテージ型の一大リゾート施設を作ろうと思ってる。その施設はね、目玉が飛び出るほどお高い、来るものを拒みまくる施設なんだ。」
「どう言う意味だよ」
「選ばれし一部の人しか泊まれないってこと。それは財力だけじゃなく人格とか品位とか日頃の社会貢献とか、全て含めての選ばれしもの、ここに宿泊できること自体がステイタスになるような、そう言う場所を作るんだよ」
「なんだよ!平等とか言って結局金持ちを優遇すんのかよ」
「違うよアーニー良く聞いて」
僕は言った。
誰でも受け入れる有楽街はにぎやかだし楽しい街になるだろうけど、必ず荒れる。
だって色んな人が入ってくるということは、雑多な思想が混在すると言う事だ。
このウエストエンドは『封鎖石』によって害意を持った人間は入れないようになっている。けれど、それは全ての人が敬意を持ち合える、と言う意味ではない。
「アーニー、ここに居るのは貧民難民獣人…みんなはぐれ者だ」
「ああ」
「害意はなくても見下す人はきっといる」
「そりゃぁな」
「僕は僕の作る楽園を領民の誰もが安心して暮らせる場所にしたい」
だからこそふるいが必要なのだ。
「わかんねー。金持ちは俺たちを馬鹿にすんだろ」
「それをする人は宿泊させない。その為のハードルだよ。宿泊客は選びに選ぶ」
「そうしたら商売にならねぇだろうが」
「だから目玉が飛び出るくらいお高いんじゃない」
「そんなんで人来るのかよ」
「それでも泊りに来たい!って思わせる場所を提供するんだよ!」
胡乱気なアーニーに僕は身振り手振りで力説した。
これは宿泊事業じゃない。社会事業なんだってことを。
この国の持つ裏と表、人を身分で差別するってことがどれほど卑しい行為なのか、僕はこの場所から浸透させていきたいと思ってる。
それには上級の文化人、富裕層から広めるのが一番手っ取り早い。それは前世で証明されている事だ。
欧米セレブの最新トレンド。それらは著名人やインフルエンサー界隈が目ざとく取り入れ、それがSNSやメディアに取り上げられると「乗り遅れるな!」とばかりに、次は一般意識高い系へと拡散していく。
そうしてその概念は気が付いたら当たり前の概念になっている。何度「いつからこれがデフォに?」って思ったことか。
動画配信に関わっていた僕はそれをつぶさに見てきた。
だからこそこの領内で一切の差別的な行いは認めないし許さない。
誰に対しても公平であり寛容であり慈しむ心があること、それこそが品位であり上流の振舞い、そう上位貴族やブルジョワ層を巧みに使ってここから発信するのだ。
「それにねアーニー、金持ちに踏みつけにされてきた君たちが金持ちから大金を搾取する…、それってちょっといい気分じゃない?」
「何だって?」
「宿泊代金だけじゃない。コテージの周りには当然商業施設が必要になる。もちろん彼らのステイタスにあったハイクオリティの商業施設だ。彼らはそこでも大金を落としていく。その大金は君たちを潤す。少しじゃないよ?たっぷり潤す。どう?」
「どうって…」
「僕はね、恨みつらみを抱えて生きるよりずっと健全な仕返しだと思うよ。少なくともここに来た子供たちには過去を引きずって生きてもらうのは嫌だ。だったら彼らの落としていくお金で子供たちは今までの分までうんと豊かになればいいんだよ」
「そうだな…そうかもな」
「アーニーは僕の相棒だ。その意志はいつだって共有していて欲しい。頼りにしてるんだからね」
「分かったよ、飼い主」
だからその言い方ヤメロってば!
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




