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16.5 アーニーの独白

アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。


『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。


生まれた時から俺に親なんか居ねぇ。でもそんなのここじゃ珍しくもなんともない。

親が居るのはここで生まれてここで育った奴。だけどここじゃぁ大抵赤ん坊のうちに死んじまうからな、そう言う奴は運がいいんだ。ここはそう言う場所だ。


王都の片隅、日の当たらない退廃地区。

王城の連中はここがどんなとこかも、いや、こんな場所があることすら知らないんだろう。

貴族街から先に俺たち平民なんか一歩だって足を踏み入れる事は出来ない、出入りの商人以外には。


この辺一帯はガンビーノ一味の縄張りだ。俺たちは奴らによって守られ、そして奴らによって食い物にされている。


場所代として一人につき月に五十銅貨、子供や病人まで含めてその頭数分となったら、それは俺たちにとって楽な金額じゃ無い。だけどな、それがなきゃここにすら俺らには寝ぐらがないんだ。


そんな場所で金を得る方法なんか真っ当なワケねえよな。けど俺はガキどもにだけは犯罪まがいのことをさせたくない。そんなの俺一人で十分だ。


だから俺はガンビーノの一味になんとか取り入って、ようやく気に入られてその場所代を免除してもらってんだ。

その代わり器用な手先で人んちの鍵を開けたり、通りでスリを働いたり、今はガキだからってんで見張り程度で済んでる荷馬車の襲撃なんかも…いつかはやらなきゃならないんだろうな…


意味もなく人を殺すのは気が乗らない…。でもそんときゃ仕方ねぇ…、あいつらを守るためだ…



その日もいつものようにボスの命令でどっかの倉庫の鍵を開けて、もらった僅かな銅貨でその日の飯を買い込みスラムへと戻った。

その俺の目に飛び込んできたのは、こんな俺たちでも受け入れてくれる救済の教会、その奥の割れたステンドグラスに描かれている、あの天使かと見紛うような子供だった。


ちっ!こんなところに騎士一人連れて何考えてやがる!どこのお坊ちゃんだ!


一味に見つかったらあっという間に攫われてどこかのエロじじいに売られるのが関の山だ。

俺にだって見りゃわかる。こんなキレイな子供にどんな高値が付くか。貴族の子供ん中でもここまでの奴は滅多に居やしねぇ。


ところが追い払おうとする俺に告げられたのは仰天の事実。

こいつがあの何度も王都を吹き飛ばしたって言う狂魔力の継承者だって?


それだけでも驚きなのにこいつは俺たちをここから連れ出すと、そう言うんだ。ここから…このすえた匂いのするドブ底から…



まさかな…何が飢えることも蔑まれることもない、誰もが平等で安全な場所だ…。けど夢みたいだな、そんな場所が本当にあるんなら…


「僕の掲げたのは夢じゃなく計画だよ。僕は領民を大切にするよ」


その言葉に反応したのはまだ7歳のエルだ。


「…ねぇアーニー。あたし行ってみたい…」

「エル!おまえ裏切んのか!」

「そんなんじゃない。でも今の話が本当なら…アイだってこんな暮らしから救ってやれる…」


三つ下のアイ…。女のこいつらはこのまま育てば行きつく先は一つ。

娼館…そこへ行ったら最後、終いには病気になってゴミのように死んでいくだけ。

男のガキも大差はねぇ。揉め事で死ぬか、監獄で死ぬか、どちらかだ。


「何処へ行ったって世の中は厳しい…だけど、屋根も壁もあるちゃんとした部屋に住んで、働いて対価を得て、お腹いっぱいご飯を食べて、また翌日汗をかいて働いて、友人と笑い合い恋人と家庭を持ち、そんな未来を描き明日を夢みられる生活。たとえ魔獣に怯える日々だったとしても…ねぇ、どちらがマシだろうか?」


人として生き人として死ぬ、そんな暮らしをガキどもにさせるためなら…明日の昼までに俺がすること、それは一つしかない。





「アーニーおめぇ、なぁに腑抜けてんだ。ガキどもをスラムから出すだと?分かってんのか!稼ぎが減るだろうが!そんなことしてどうやってその穴埋めるつもりだ!」


「あ、あいつらの分まで俺が稼いで来る!だから子供たちを行かせてやってくれ!あいつらには二度と無いような話なんだ!」


「馬鹿野郎!ガキはガキなりに使い道があるんだよ!何調子に乗ってやがんだ!」


「頼むよ!俺や大人はどうせもうここから出れねぇ…。けどあいつらはまだやり直せる!お願いだ!何でもする!荷馬車の強奪もこれからはやる!だから!」


「うるせぇ! …アーニーよぉ…。こう見えても俺はお前には期待してたんだぜ?馬鹿な奴だ。所詮子供ってことか、損得の勘定も出来やしねぇ」

「ボス…」


「おいお前ら!こいつを連れていけ!」


「ボスッ!頼む!頼むから!」


「いいんですかい?こいつはガキどものまとめ役じゃぁ…」

「ガキはジェイがまとめるとよ。おいアーニー。俺ぁ全部聞いてんだよ。ジェイの奴からな」


ジェイの奴が…?ああそういう事か。くそっ!


「連れてって可愛がってやれ!」

「死んだらどうします?」

「構わねぇ!」


分かってたさ…、ボスはそんなに甘くないって事はな…。けど何とかしてやりたくて…俺は一縷の望みに賭けたんだ。

はは…望みか…、そんなもん俺たちにある訳無いのにな。



それからの時間はよく覚えていない…。

殴られ、蹴られ、気を失っては水を掛けられ、正気に戻ればまた殴られる。

どれくらいそうしていたかすらもう分からない…


いつしか俺の視界からは…全ての光が…消え失せた…



ああ…死ぬってこういう事か…。魂が身体を離れようとしてる。

誰かが俺の腕を引っ張り上げズルズルと身体を引きずって行く。けどもう痛みすら感じない…

目を開けても何も見えないのは腫れた瞼が開かないからか、それとも俺が死にかけてるからか…



「アーニー!」


微かに聞こえるのはあのキレイな面した貴族の声。最期に聞こえた声が天使の声…、ハハ…悪くない……



俺がその時死んでたことは間違いない。動きを止めた俺の心臓。俺の目には横たわった俺自身の身体が見えてたんだから。


なのにあいつが身体に何かぶつけて、物凄い衝撃を受けたと思った瞬間、気が付いたら俺の魂は身体に戻ってやがった…。


嘘だろ?あいつは一体何をした!


なのに息の仕方も思い出せない無様な俺。情けない…するとあいつは何かを俺の中に流し込んできたんだ。


それは空気とか息とかじゃねぇ、もっと違う、もっと優しい何か。ずっと欲しかった温かな感情…


ちっ!この俺がこんな甘ったるいこと思うなんてな。


けど…しょうがないだろう?


目を開けた俺が見たもの、それは俺に唇を重ねる、ラベンダー色の天使そのもの。


汚いスラムの小悪党にその清浄な唇を合わせて息を吹き込むなんて…、頭がおかしくなきゃ何だってんだ。


信じられねぇ…嘘だろ?

だけどすべては現実で…そのうえこともあろうにあいつはこうも言いやがった。


「僕は下心があって君を助けた。だから感謝なんかしなくていい」


「アーニー、君は凄い人だね。僕はどうしても君をウエストエンドに連れて行きたくなったんだ」


「お金が払えないって?そうだ!払えない分は身体で払ってもらおうかな?嫌とは言わせない。これはお代だ」


何言ってんだこいつは…

身体で払えだと?そうか、俺はお前に買われんだな。その口づけで俺を縛り付け、俺の首に鈴をつけて飼うつもりなのか…


「…貴族の癖にセコイ奴…。いいぜ…、お前が満足するまで身体で払ってやる…」



こうして俺には甘い調教の得意なラベンダー色の飼い主が出来た。




毎日更新を目指しています。

お星さまをぽちっとしていただけると大変大変嬉しいです。作者の励みでございます(;^ω^)


この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)

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