16 12歳 to アジト
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
案内され向かったのは、商業地区の外れにあるえらく立派な悪党のアジト。そこは潰れた元商家のお屋敷なんだとか。
潰れただって?潰したんだろ?ひどい奴らだ…
「いい?外で待ってて」
エルとジーをクラウスに任せ僕は独りでその扉に手をかける。
動揺する子供たちとは違いクラウスは眉毛1本動かさない。うん。だんだん分かってきたようだね。
そして扉を開けたその入り口正面では厳つい顔の悪そうな男が、ひどく不似合いなシェルバックのアームチェアで下卑た笑いを浮かべていた。
お出迎えか…。気が利くじゃない。呼び出す手間が省けたよ。
「…思った以上に上玉じゃねぇか。あんなスラムのガキ一人の為に馬鹿なお坊ちゃまだ。おい!ジェイの奴に褒美をくれてやれ!まったく良い情報を持って来てくれたもんだ」
「裏切者…ね、スラムじゃ別に驚きもしない。で?僕を誰だか知っててこれ?いい度胸だ」
「狂魔力のお坊ちゃんだろ?俺が何の対策もしてねぇと思うのか。馬鹿め。『封印石!』」
ほっほ~う。僕を囲むように丸く立ち上がったのは僕が魔物の封印に使ったアイテムじゃないか。
そうそう市場に出回るもんでも無いって言うのに…さすが悪党、耳も動きも早い。
「何が狂魔力だ!これでお前は逃げられねぇ!そのまま呪印を刻んで意思の無い人形にしてやるぜ!さぁていくらで売れるかな…わはははっ!楽しみだな、おい!」
「ふーん…」
覚えているだろうか。この『封印石』だが、注いだ魔力量に封印の強さが比例すると説明した事を。
「なんだこれ?ベビーブルーじゃないか…」
どこの未熟者に注入してもらったんだか。
なにこの程度の封印でドヤってんの?ベビーの意味知ってる?赤ちゃんだよ!赤ちゃん!せっかくのレアアイテムなのに…
『封印石』にごめんなさいって謝れよっ!
ゲーマーの不条理な怒りが僕のゲージメーターを上げていく!
「こんな封印…、魔法を使うまでも無いっての!『魔力開放!』」
ボ!
「う、うわぁぁぁ!!!」
ほんのささやかな爆発でいきなり吹き抜けになる広間。
え…造りが柔いんじゃないの?
上だけじゃない。
その広間を囲む壁という壁がものの見事に吹き飛んで、あっという間にワンルームへDIY…
うん。風通しが良くなって良かったよね。
って、…あれ何だ…?
吹き飛ばされた扉の向こう、腰を抜かして泡を食う男の足元に居るのは…瀕死の…あれは黒髪…?
黒髪だって?
「アーニー!」
「こ、こいつはバケモンか!お前ら!全員でやっちまえ!いいか四方から切りつけろ!」
「売りとばすんじゃなかったんですかい?」
「馬鹿か!こいつが売りもんになると思うのか!死にたく無きゃ殺せ!殺られる前に殺るんだ!」
目の前に立ちふさがる悪党ども。ああもうっ!
「邪魔だー!!!『|ジャッジメント・サンダー!』」
雷鳴と共に発現したのは青白い稲妻、僕の怒りの産物だ。
それはまるで天罰のように奴らの頭上を各個直撃し、奴らはもう指1本ピクリとも…
「坊ちゃまー!なんですか今の音は!大丈夫ですか!」
「問題ないクラウス!瀕死で止めといたから!」
「いや、そう言う意味では…」
地響きのような雷鳴と直視出来ない閃光は、頼れる騎士団長からさえも冷静さを奪ったようだ。
驚いたクラウスは我を忘れて飛び込んでくる。もちろん子供たちも一緒にだ。
全員黒焦げになってるからいいようなものの…軽はずみだぞクラウス!
「それより今はアーニー!」
僕のアイルー、毛を逆立てた金眼の黒猫。
だけど彼は…誰よりも仲間想いの熱い心を持った少年。こんなところで死なせたりなんかするもんか!
ああだけど…これはもう…、瀕死だって…?いや違う…、彼の鼓動は…
「やだぁぁぁ!アーニー!アーニー!」
「死なないでぇぇ!貴族さま!アーニーをどうにかして!」
出来るものならとっくにやってるっての!そんな目で見ないで…誰よりも悔しいのはこの僕だ!
「くそっ!エル退いて!」
コンマの差で灯の消えた彼には、もう回復薬もヒールも効きはしない。今の彼を助けられる物があるとしたら…、それは『エリクサー』だけだ!
限りなくコンプに近い僕のアイテム。けど、どうしてもまだ手に入れられていない物がある。その一つが『エリクサー』。神の奇跡とも言われる蘇生薬、SSSダンジョンのSSRアイテムだ。
『奇跡のダンジョン』と言われるあのSSSダンジョンでは聖魔法以外の全属性魔法およびスキルフルコンプフルカンスト完遂で『身代わりの木偶人形』や『聖乙女の涙』といった希少なアイテムをゲットできる。
その中において更に希少なのが死者さえ復活させる『エリクサー』。
だけどこの『エリクサー』だけは…、聖魔法を含めた全属性魔法およびスキルフルコンプフルカンスト完遂が必要となる。
つまり…聖女にしか手に入れる事の出来ないアイテム…。ほら、ゲームの中でプレイヤーは聖女だったから…
ああ!今の僕では絶対に手に入れられないアイテム…!
くそ!くそくそくそ!
彼の身体はまだ温かくて…、ヒールと回復薬で小傷まで治した彼は今すぐにだって目を開けそうなのに!
温かい…?温かい…、まだ時間がたってない?…そうかあれだ!あれなら!
バッ!
「『身代わりの木偶人形!』彼の心肺停止を引き受けろ!」
投げつけたのは一体の木偶人形。それは彼に当たると眩い光を放ちながら木っ端みじんに砕け散った。
『身代わりの木偶人形』
それは一体につき一度だけ、目的の人物から何かを身代わりに引き受ける…っていう特殊なアイテム。
アーニーの鼓動が止まったのが五分以内ならきっとまだ間に合う!
うっすらと鼓動を取り戻す薄い少年の胸。…間に合った…
なのにまだ息をしないなんて…どういう事だ!
人工呼吸、心臓マッサージ、AED、授業でやったいざという時の為の救命講習、そのいざという時がまさにこれだ!
鼻をつまんで気道を開いて呼気を二度ほど送り込むと…
ピク「……」
その瞼はピクリと震えようやくあの神秘的な金眼が現れた。
お帰りアイルー…
「お…お前が俺を助けてくれたのか…」
「隠す必要も無いよね。そうだよ、僕が助けた」
彼の身体は意識さえ戻ってしまえばヒールですっかり回復している。
アーニーは戸惑いながらも全身を見回し、傷一つ無いのを確認すると目を逸らしながら口を開く。
「俺は…感謝なんかしない…。回復薬とか…何かすげぇのとか…金なんか払えねぇ…、いいか、これはお前が勝手に…」
「そうだよ。僕は下心があって君を助けた。だから感謝なんかしなくていい」
「下心だと…?」
そう。特大の下心だ。
「アーニー、君は凄い人だね。僕は君の心根に感動して…どうしても君をウエストエンドに連れて行きたくなったんだ。子供たちを連れて行くにしたって君が居たほうが良いに決まってる」
「え…」
「お金が払えないって?それは大変!君を蘇生したあのアイテムはものすごく希少で…たった一つしかない貴重なものだったのに。そうだ!払えない分は身体で払ってもらおうかな?嫌とは言わせないよ。これはお代だ」
「…貴族の癖にセコイ奴…。いいぜ…、お前が満足するまで身体で払ってやる」
こうして僕の元には飼い猫のアイルーが人型になって戻ってきた。
毎日更新を目指しています。
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




