142.5 兄弟水入らず
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
王家主催の晩餐会を明日に控え、「ヴォルフと下町観光してくるね」と偽装ポーションをあおって街に出たレジー。
彼を見送った僕に、兄二人は椅子をすすめお酒の入ったグラスを手渡してくださった。
こうしてゆるりとした時間を過ごせるのもレジーが僕の劣等感を払しょくし、そしてウルグレイスに終戦と言う平和な時間を届けてくれたからに他ならない。
「セザール、それで…、彼に胸の内を打ち明けては見たのかい?」
「ギー兄さん…。いいえ。それは彼を困らせるだけですから」
「だがセザール、伝えて見なければ分からないだろう?彼の婚約はあくまで互いの立場あってのもの。私が聞いた彼の気持ちは…」
「兄さん。もうおよしになってください。例えアルバート殿下との婚姻が王の意思によるものであったとしても…、どちらにせよ彼には僕よりも大切なものがある」
「ウエストエンド領のことだね。彼が手塩にかけたという…」
「ヴィクトール兄さん、それだけではありません。そこに住む領民全てと…、それから、ああ…、なにより彼と共に手を携えあそこを作ってきた彼らが居る。彼の言葉が示すように…僕は決して彼らには敵わない。これからどれ程の時を彼と共に過ごそうと…そう、積み上げる時間は彼らも同じ」
先日の夜会でレジーと話したというギー兄さん。いつまでも子ども扱いなのには困ったものだが、その兄がレジーから打ち明けられたという彼の想い。
伝えられた真っすぐな彼の気持ちは不思議なほど僕の心にストンと落ちた。
「セザール…後悔するよ?」
「そうとも…それでお前の想いは何処へ行く」
「いいえ兄さん。僕は落胆もしていなければ焦燥もしていません。彼が教えてくれました。揺るぎないものがあれば…、たった一つでいい、貫き通せる想いがあれば、そうすれば他者と自分を比べたりしないのだと」
思えば僕はいつでも他人と比べることで自分自身を計っていたのだ。
だから何度でも揺れ動く。どれ程自分にこれでいいのだと言い聞かせても、常に人より劣る気がして…だが本当に計るべきは己自身のひたむきさであったのだ。
「彼はそうして乗り越えてきたのです。狂魔力の継承者と言う、他者から忌避され排除される言葉に出来ぬほどの苦難を」
「むごいことだ」
「だが制御が叶わなければ脅威でしかなかった力だ…、誰を責められよう」
「ようやく理解したのです。僕が抱えた彼への想いは本物で…、それは誰かと比べてどちらが劣るとか優れているとか、そういったものでは無いのだと。僕は彼を愛している。それは彼が誰を愛そうとけして変わらない。大切なのは自分の想い。誰が一番彼に愛されているかなどと…、くだらないことだ。僕の想いに序列は存在しない」
ああそうか。彼が言ったことはこういう意味だったのだ。芸術に優劣をつけてはいけない。人の感性に、人の想いに優劣などつけられるはずがないのだ。
そこにあるのはただ心から湧き上がる情熱だけ。アーニーが、ヴォルフが彼にどれほど近しかろうが、一体それが何だというのか!
「一方通行で良いのかい?」
「見返りを求めるのが愛でしょうか?ヴィクトール兄さんは愛してやったのだから愛せ、とそう仰いますか?」
「いや…」
心の全てが明瞭になっていく。
いつも何でも彼には教えられてきた。あれも。これも。悩める僕の側にはいつでも彼が居た。
芸術に見返りを求めてはならない。心を豊かにするもの、それが芸術であるなら愛情もまたしかりだ。
彼への愛は僕を豊かにする。そこに見返りは必要ない!
「ギー兄さん、少なくとも彼はあれだけ尽力しながらエトゥーリアの問題になんの見返りをも求めなかった。たった一人で解決したゲスマンの問題においても差し出された国土の一部をあっさり王家に渡してしまった。でしょう?」
「簡単には出来ないことだ」
「ふふ、今はそんな彼を想える自分自身がとても誇らしい」
偽りなく本心からそう思う。僕はようやく不変の愛を見つけたのだ。
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




