第九話 白妙(しろたえ)
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刀を依頼してから、丸一日が経っていた。
小さな鍛冶屋。
色あせた看板の下で、炉の匂いが朝の空気に混ざっている。
扉を開けると、
中は妙に静かだった。
「……おう」
奥から、低く掠れた声がする。
ドロンゴが、
腕を組んで立っていた。
「来たか」
「できとるぞ」
その一言だけで、
ゼンの目が一気に輝いた。
「……本当に?」
「当たり前じゃ」
「わしを誰だと思っとる」
ドロンゴは一歩だけ横へずれ、
奥の台を示す。
そこには――
白い布が、静かに掛けられていた。
「……なんだか、神聖」
ルルが小声で言う。
ゼンは無言のまま、
布へと手を伸ばした。
そして――
そっと、持ち上げる。
白。
鞘も、柄も、
すべてが白だった。
そして、
柄の根元から、細い白い布が結ばれている。
ゼンがわずかに動かすと、
その布が、ひらりと揺れた。
「……これが」
ドロンゴは短く言った。
「わしの最高傑作じゃ」
白い刃を、少しだけ抜く。
「無属性鉱石を芯材にし、
ミスリルと魔鉄を重ねて打ち鍛えた」
「鉱石を使うことでな」
「持った者の魔力を、増加させつつ安定させる」
「余計な癖は出ん」
「ただ――」
「切れる」
それだけ言って、
刃を納めた。
ゼンは、
白刀の柄に手を添える。
刃を抜く。
白い刃が空気を裂き、
周囲の魔力が、静かに揺れた。
細く、鋭い感触。
「完璧だ」
「ドロンゴさん、ありがとうございました」
「もう来るなよ」
「また来ます」
「来るな」
そう言い合いながら、
ゼンとルルは鍛冶屋を後にした。
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「次は、どこの街に行くの?」
「へへ、次は楽しいぞー」
野を越え、道を渡り、
夜を二度越えたころ。
目的の街が、視界に入った。
そのときだった。
街の方から、
ものすごい勢いで走ってくる影がある。
メイド服の少女。
「ゼーンさまぁぁぁ!!」
次の瞬間、
ゼンに飛びついて抱きついた。
「おっと……」
「もう着いてたのか。シノ、早かったな」
「は、はい!」
「文を受け取ってから、急いで出てきました!」
ルルが、少し首を傾げる。
「……シノさんって」
「魔力がないから、置いてきたんじゃなかったかしら?」
「なくはない」
ゼンは即答した。
「少しだけある」
「それで十分だ」
ゼンは、楽しそうに胸を張った。
「この街じゃな、
大魔獣狩猟祭が開かれる」
「年に一度、
魔物が大量に湧く専用フィールドで」
「どれだけ狩れるか、
チームで競う大会だ」
一拍置いて、にやりと笑う。
「しかも」
「最大三人パーティで出場できる」
「……な?」
「三人で行くしかないだろ」
そう言って、
ゼンはで巨大な岩を出現させる。
「シノ」
「斬ってみろ」
白い刀が投げ渡された。
「は、はい……」
受け取った瞬間、
表情が、すっと消える。
次の瞬間――
一閃。
それは、
雪が音もなく舞い落ちるような動きだった。
白い軌跡が一度だけ走り、
時間が、ほんの一拍遅れる。
巨大な岩が、
静かに――真っ二つに割れた。
切断面は、
磨かれた雪原のように、ただ真っ直ぐ。
シノは迷いなく刃を納める。
擦れる音すらなく、
白い刃は光の中へ消えた。
白いメイド服。
白い刀。
そこにあるのは、
最初から決まっていたかのような調和。
ゼンが、はっきりと言う。
「シノは刀を握らせたら、誰よりも上手い」
「天才ってやつだ」
そして、静かに続けた。
「この刀の名は――」
「白妙」
ルルは、
思わず息を呑み、そっと微笑んだ。
「……ステキ」
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白い刃が振るわれたとき、
何が起こるのか。
それを、
まだ誰も知らない。
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第九話 完
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回はお祭りの街が登場します!




