第八話 伝説の鍛冶師
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朝の光が、窓から差し込んだ。
「ゼン、あさだよー」
「朝ごはん、できてるよー」
布団の中で、ゼンは小さくうめく。
「……おはよ……」
目を開けると、天井は高く、空気は暖かかった。
床はほんのり温く、体が驚くほど軽い。
(……疲れ、残ってないな)
新しく作ったこの家は、想像以上に快適だった。
リビングに出ると、ルルがすでに動き回っている。
床を軽く掃除し、テーブルには朝食が並んでいた。
「昨日、ぐっすり眠れたよ」
「体の疲れも、すっきり!」
「……よかった」
「えへへ」
ルルは嬉しそうに笑い、くるっと一回転する。
「ところでさ」
少し照れたように、こちらを見る。
「この服、どう?」
落ち着いた色合いの新しい服は、よく似合っていた。
「おお」
「すごくいいね」
「やったー!」
朝からにぎやかな様子に、ゼンの表情も自然とゆるんだ。
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食後。
ルルが、ふと思い出したように首を傾げる。
「……そういえば」
「この家、どうするの?」
「ここに置いていくの?」
ゼンは、にやりと笑った。
「はっはっは、甘いねルル君」
「ちょっと外に出たまえ」
「なによ」
二人で外へ出る。
ゼンは家の壁に手を当てた。
「家、収納」
静かな光が走り、
次の瞬間――家が、まるごと消えた。
「えええ!?」
「家……入っちゃうんだ……」
「はっはっはー」
ゼンは少し胸を張って笑う。
明らかに、自慢げだった。
「慣れると、これが普通になるよ」
ルルは呆然としたまま、ぽつりと呟く。
「……ほんと、反則級……」
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街は、いつもよりにぎやかだった。
「なんか騒がしいね」
「昨日の鉱山の噂、もう広がってるみたい」
まず立ち寄ったのは、街外れの古い店だった。
色あせた看板には《魔法書店》と書かれている。
「……ここ?」
「そう」
中に入ると、紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。
「いらっしゃい」
現れたのは、白髪の魔女――
いや、どう見てもおばあさんだった。
「ああ、お嬢ちゃん」
「できてるわよ」
差し出されたのは、分厚い一冊。
「……魔導書?」
「そう。空白の、新品」
「今はもう、作れる人がほとんどいないからね」
値段を聞いて、ゼンは目を丸くした。
「……百、万?」
「高いよね」
ルルは一瞬だけ迷い、
それから、はっきり頷いた。
「ずーっとほしかったの!」
「ちゃんと残すために必要だから」
「この店でいちばんの逸品さ」
ルルは満足そうに笑った。
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続いて向かったのは、冒険者ギルド。
「ゼン様、ルル様!」
「ギルドマスターがお呼びです!」
執務室には、
ギルドマスターと領主が同席していた。
「改めて、礼を言おう」
領主は深く頭を下げる。
「鉱山の件、そして闇ギルドの一件」
「街と、私の家族を救ってくれた」
そのとき、
領主の隣に立つ少女が一歩前へ出た。
「……え?」
ルルが目を見開く。
「ミリアさん?」
「はい」
Eランクパーティ《山脈の楔》のミリアは、
少し緊張した様子で頭を下げた。
「あの時は、ありがとうございました」
ミリアは、少しだけ視線を落としてから続けた。
「この街で起きていた異変が、気になって……」
「領主の娘という立場では、
表立って動けなかったので」
「冒険者のふりをして、
闇ギルドを調べていました」
一瞬、苦笑する。
「……でも、甘かったです」
「……あのガルバさんが、
闇ギルドの人だったなんて」
声が、わずかに震えた。
「あの時、
お二人が来てくれなかったら――」
そこで、言葉を切った。
それ以上は、言わなくても分かることだった。
領主が、静かに口を開く。
「この娘は、私の一人娘だ」
「父としても、
領主としても――」
「礼を言わねばならん」
ゼンは、少し照れたように頭をかいた。
「いえいえ」
「こちらも、だいぶ儲けさせてもらいましたし」
場の空気が、少し和らぐ。
そのとき、ゼンが一歩前に出た。
「あの……」
「ひとつ、お願いがあります」
領主が目を向ける。
「武器を作りたいんです」
「腕のいい鍛冶師を、
紹介していただけませんか」
領主は少し考え――やがて頷いた。
「……一人いる」
「名は、ドロンゴ」
「街外れのドワーフ鍛冶師だ」
「あいつの武器を持った冒険者は、
必ず名を残す」
ギルドマスターが肩をすくめる。
「ただ一見客は断る、頑固者じゃ」
領主は静かに続けた。
「だが、
私の頼みなら話は聞くだろう」
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案内されたのは、街外れの鍛冶屋だった。
その前で、怒鳴り声が響く。
「くそっ!また断られた!」
冒険者が詰め寄ろうとした瞬間。
「やめなよ」
ゼンが前に出る。
一瞬で距離を詰め、
放たれかけた魔法を打ち消す。
「迷惑だよ」
冒険者は舌打ちし、逃げていった。
しばらくして、
鍛冶屋の中から影が出てくる。
低い背丈。
年季の入った作業着。
そして、
胸元まで垂れた、立派な編み込みの髭。
女ドワーフだった。
「……女」
「わしはドロンゴじゃ」
ゼンは深く頭を下げる。
「領主様に紹介していただいて来ました」
その言葉に、
ドロンゴの動きが一瞬止まる。
「……ほう」
「一見客は断っとる」
「だが――」
鼻を鳴らす。
「領主様の頼みなら、聞いてやろう」
「それで?」
「何を打てと言う」
「刀です」
「剣じゃない」
「斬るためだけの刃です」
アイテムボックスを開く。
ミスリル。
魔鉄。
属性鉱石。
図面を見たドロンゴの目が変わった。
「……面白い」
「作ってやる」
炉に火が入る。
ごう、と炎が立ち上がった。
「……よし」
「至高の一品を、打ってやる」
こうして――
この世界に存在しなかった刀が、
生まれようとしていた。
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第八話 完
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回は至高の刀、新しい仲間が登場します!




