第六話 ミスリル鉱山と闇ギルド
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鉱山街グラードの朝は早い。
夜明け前だというのに、通りには人の気配があった。
荷車の軋む音。
鉱石を積み込む掛け声。
坑道へ向かう坑夫たちの足音。
「……村とは、全然ちがうね」
「ここは鉱山で生きてる街だ」
「掘れる時間が、そのまま稼ぎになる」
街を抜け、山道を進む。
やがて、切り立った岩肌の奥に――
大きく削り開かれた坑口が現れた。
「……あれが、新しく見つかった鉱山か」
入口の時点で、空気が重い。
肌にまとわりつくような違和感。
ルルが眉をひそめる。
「……魔素、濃いね」
AI:
――環境解析
――魔素濃度:高
――自然発生域を大幅に超過
「ダンジョンじゃないのに、ここまで溜まるのか」
「だから調査依頼、ってわけね」
今回の鉱山調査には、他の冒険者も集まっていた。
その中で目立つのが、
Bランクパーティ《黒鉄の牙》。
重装備。
荒っぽい物言い。
明らかに場慣れした連中。
その後ろに、ひとり。
穏やかな表情をした、黒髪の男がいた。
「……あ」
ルルが小さく声を上げる。
「ガルバさん?」
男は軽く手を挙げた。
「また会ったね」
「ここでも臨時参加なんですか?」
「うん。固定がなくてね」
《黒鉄の牙》のリーダーが吐き捨てる。
「おい、ガルバ」
「荷物持ちは後ろだ。前に出るな」
「分かってます」
そして、こちらを見る。
「Fランクが鉱山に来るな」
「邪魔なだけだ」
そう言い残し、《黒鉄の牙》は先に坑道へ入っていった。
「……別ルート行こう」
「賛成」
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坑道の内部は広く、複雑だった。
削られた岩壁。
枝分かれする通路。
奥へ進むほど、魔素が濃くなる。
AI:
――魔素分布解析
――最奥部に極端な集中を確認
進むたび、魔獣が現れる。
AI:
――ロックボア
――危険度:E
AI:
――ストーンインプ
――危険度:E
「同時に来る!」
「分ける!」
俺は詠唱に入る。
「――火よ、形を持て。
奔流となり、進路を断て」
炎が走り、突進を止める。
間髪入れず、
「――風よ、流れを変えろ。
衝撃を散らし、道を開け」
風圧が横から叩き、体勢を崩す。
だが――
「っ……!」
死角からの爪が、肩を裂いた。
「ゼン!」
「浅いから大丈夫!」
一体一体は弱い。
だが数が多い。
ルルの光が、影だけを正確に削る。
動きが止まる。
派手じゃない。
だが、確実だった。
進むたび、魔獣が現れた。
岩陰から飛び出すもの。
天井から落ちてくるもの。
魔素に当てられ、明らかに性質が変わった個体もいる。
AI:
――魔獣鑑定、継続
――登録可能個体、複数確認
倒しては進み、
進んでは、また倒す。
数は多いが、質はEランク帯。
連携を崩せば、脅威ではない。
気づけば、
討伐した魔獣は二十種を超えていた。
「……この鉱山、異常だな」
「うん」
「こんなに魔獣が密集するの、普通じゃない」
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坑道の最奥。
空気が、明確に違う。
AI:
――高魔素反応
――最奥部に集中
崩れた岩壁の向こうに、
広大な空間が現れた。
岩肌に深く食い込んだ鉱脈。
淡く輝く属性鉱石。
その奥には、ミスリル鉱石が大量に露出していた。
「……すごい、さすが新しい鉱山ね」
「掘られてない分、全部残ってる」
魔素が満ちていた理由は明白だった。
その中央。
巨大な影が、ゆっくりと動く。
AI:
――魔獣確認
――コロッサススパイダー(変異)
――危険度:Dランク相当
――ミスリル鉱石由来の魔素を長期吸収
――身体能力・硬度・糸強度:異常上昇
「……主だ」
糸が走る。
岩を抉り、地面を砕く。
回避が間に合わない。
「ぐっ……!」
衝撃で身体が吹き飛ぶ。
「ゼン!」
「まだ……いける!」
「――水よ、流れを束ね、
刃となれ」
凍りついた糸が脚を削ぐ。
続けて、
「――地よ、支えとなれ。
崩れ落ちよ」
足場を崩し、巨体を傾かせる。
ルルの光が、装甲の隙間を正確に照らす。
「今!」
渾身の一撃。
蜘蛛は悲鳴を上げ、
巨体ごと崩れ落ちた。
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「……終わったな」
背後から、足音。
振り返ると、ガルバが立っていた。
息を切らし、血に濡れている。
「助けてくれ……」
「パーティが、全滅した……」
「え……?」
ルルが、駆け寄った。
「大丈夫ですか――」
その瞬間。
ガルバの表情が、すっと消えた。
次の刹那、
袖の内から細身のナイフが滑り出る。
狙いは――ルルの腹部。
踏み込みは迷いがなく、
躊躇もない。
「――っ!」
俺は反射的に声を絞り出す。
「光、遮断せよ!」
瞬間、
透明な結界が弾けるように展開された。
きぃん、と乾いた音。
ナイフが弾かれ、
ガルバの動きが止まった。
「……ちっ」
一瞬の舌打ち。
それから、薄く笑う。
「反応、早いな」
そして、はっきりと言った。
「おれは闇ギルドだ」
空気が、一瞬で凍りつく。
「……闇、ギルド?」
ルルの声が、震えた。
結界の内側で、
彼女の魔力が――明らかに揺れた。
次の瞬間――
彼女が、魔力を解放した。
「許さない……!」
光が刃のように収束する。
「待て!」
俺は即座に前に出た。
ルルの肩に、軽く手を置く。
「……落ち着け」
ルルは、小さく息を吐いた。
荒れていた魔力が、
ゆっくりと引いていく。
「……ごめん」
視線を伏せたまま、そう呟く。
さっきまでの張りつめた気配は消え、
理性が、確かに戻ってきていた。
ルルの肩が大きく上下する。
明らかに、様子が違う。
俺は一歩前に出た。
「ここは、俺がやる」
ガルバが舌打ちする。
「チッ……」
次の瞬間。
刃が閃く。
速い。
正確。
迷いがない。
腹部に衝撃。
「ぐっ……!」
「ゼン!」
「来るな!」
完全に“プロ”の動きだ。
一撃一撃が、確実に急所を狙ってくる。
刃が、視界を掠めた。
「……っ!」
このまま続ければ、
どちらかが死ぬ。
――だから。
俺は、深く息を吸った。
「――闇よ」
短縮詠唱。
「沈め」
周囲の光が、
一瞬だけ、歪んだ。
次の瞬間、
ガルバの動きが止まる。
「……な……」
視線が、泳ぐ。
闇は、形を持たない。
だが、確実に――“意識”に触れる。
恐怖。
圧迫感。
逃げ場のない閉塞。
精神そのものを、
底へ引きずり込む感覚。
「……く、そ……」
ガルバの膝が、崩れた。
刃を握る指が、震え、
ついに、ナイフが床に落ちる。
「――縛れ」
追撃の拘束魔法。
魔力の鎖が絡みつき、
ガルバの四肢を確実に封じた。
「闇ギルド、ガルバ」
「お前は――ギルドに引き渡す」
「鉱山のことも、全部報告する」
ガルバは、無言で睨み返した。
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属性鉱石。
ミスリル鉱石。
それが生んだ異常な魔素。
魔獣の増加。
闇ギルドの介入。
この鉱山は、ただの資源じゃない。
俺は、鉱石で満ちたアイテムボックスを見下ろした。
「……この鉱石は、当たりだったな」
ルルは、俯いたまま答えない。
その背中が、わずかに震えていた
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第六話 完
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回は鉱石錬金術によるクラフト回になります。




