第五話 初ダンジョン攻略
⸻
森を抜けた先で、
岩が不自然に重なった地形が現れた。
奥へと続く、暗い割れ目。
「……ここは」
ゼンは足を止める。
「ダンジョンだ!」
「えっ!?
ちょっと、聞いてないんだけど!」
「言ってないからな」
「言いなさいよ……!」
「街に行く前に寄る予定だった」
「低層で、比較的攻略しやすい」
「……ダンジョンを寄り道扱いするの、ほんとどうかしてる」
そう言いながらも、深く息を吸う。
「短時間で終わらせるわよ」
「後ろは任せて」
⸻
中へ入った瞬間、
外の光が完全に途切れた。
湿った空気。
低い天井。
足音がやけに響く。
「暗いわね……」
ルルは自然な動きで杖を構える。
「こういう場所なら――」
詠唱は、丁寧で正確だった。
「――光よ、応えなさい。
闇を拒み、道を示し、
この場を照らす灯となれ」
洞窟の奥から、やわらかな光が広がる。
まぶしさはなく、影だけを薄く溶かすような、落ち着いた明るさ。
「……おお、すごい。きれいだ」
思わずそう口にすると、
ルルは少しだけ口角を上げた。
「私、魔法適性が光なの」
「本当は、結構珍しいのよ」
(じゃあ……)
俺も試してみる。
AI:
――光属性魔法・照明
――短縮詠唱を提示します
「――光よ、灯れ」
ぱっと、白い光が弾けた。
「うわ、まぶし……」
光が強すぎて、影が逆に濃く浮き上がる。
「……ちょっと眩しい!」
「……確かに」
俺が魔法を消すと、
洞窟には再び、ルルの光だけが残った。
同じ“光”なのに、
空間の見え方がまるで違う。
「全然違うんだな」
「当然よ」
歩きながら、さらっと言う。
「全属性簡単に使える人なんていないんだから」
「それに――」
少しだけ、声に力がこもる。
「光魔法は、奥が深いの」
「ただ明るくすればいいってものじゃない」
「どこを照らして、どこを残すか」
「それで、見える世界が変わるんだから」
「……理論か」
「そう、理論」
「光の広がり方、反射、距離」
「全部、組み立ててるの」
ルルは魔法そのものへの理解と知識は、別格だ。
どういう魔法が、
どういう場面で、
どういう結果を生むのか。
感覚じゃない。
全部、考え抜いた上で使っている。
(……すごいな)
魔力量だけが強さじゃない。
そう、改めて思わされた。
⸻
羽音。
AI:
――魔獣確認
――ブラウンバット
――危険度:E
――暗所で群れ行動
続けて、奥の通路。
AI:
――魔獣確認
――フォレストウルフ
――危険度:E
――集団連携型
「来るわね」
ルルが一歩前に出る。
「このダンジョン、光に弱い魔獣が多い」
「ここは私が抑える」
光が走る。
影が消え、魔獣の動きが止まる。
短く、確実に。
抵抗する間もなく、影は霧のように散った。
「……戦えるんだな」
「当然でしょ」
⸻
最奥の広間。
足を踏み入れた瞬間、
空気が変わった。
AI:
――魔力反応
――警戒を推奨
岩陰から現れたのは、
通常より一回り大きいゴブリン。
石の盾。
重心の低い構え。
AI:
――ストーンゴブリン
――危険度:E
――高防御個体
――ドロップ:石盾、粗鉱石、魔獣石(小)
その背後には、倒れている冒険者たち。
「……やられてる」
「視界、奪うわ」
ルルが即断する。
詠唱。
「――光よ、集え。
視を縫い、影を断て」
収束した光が、一直線に走る。
ゴブリンの目を正確に捉えた。
「――ギィッ!?」
動きが止まる。
「今だ!」
AIが最適解を示す。
俺は踏み込み、確実に一撃。
巨体が、音を立てて崩れ落ちた。
⸻
ダンジョンの核が砕け、
簡素な宝箱が現れる。
中身は、回復薬と小銭。
大したものではない。
「まあ、こんなもんか」
「簡単なダンジョンだしね」
冒険者たちが、次々と目を覚ます。
「助かった……」
「不意打ちを食らって……」
「ありがとう、助けてくれて」
軽く頷き、
俺たちはダンジョンを後にした。
⸻
山道を下ると、
谷あいに町が見えてきた。
切り立った岩肌に囲まれた、
石造りの家々が連なる集落。
屋根は低く、壁は分厚い。
派手さはないが、どれも頑丈そうだ。
荷車の軋む音。
鉱石を運ぶ掛け声。
坑夫と冒険者が、同じ通りを行き交っている。
「ここが、鉱山街グラードだ」
⸻
夜。
冒険者ギルド併設の食堂で、
俺とルルは、助けた冒険者たちと同じ卓についた。
素朴な煮込みと黒パン。
歩いた後の腹には、ちょうどいい。
「改めて、ありがとうな」
剣を腰に下げた青年が言う。
「俺がリーダーのバルドだ」
「弓のミリアです」
「盾役のグロウだ」
その少し後ろで、
黒髪の男が軽く会釈した。
「ガルバです」
「このパーティには、臨時で参加してました」
「ゼンです」
「ルルです」
しばらく食事を進めていると、
ルルが周囲を見回した。
「……なんか、ギルドあわただしくない?」
「ああ、それな」
バルドがスプーンを止める。
「さっき聞いたんだけど――
どうやら新しい鉱山が発見されたらしい」
「まだ発掘前で、鉱石がかなり残ってるって話だ」
「でも、魔獣が大量発生してる」
「この辺りじゃ珍しいらしい」
「鉱山採掘職人は冒険者じゃないから、入れない」
「だから調査も討伐も、冒険者任せだ」
俺は、自然に言った。
「この鉱山地帯には、欲しい鉱石があるんだ」
ルルが、ちらっとこちらを見る。
「だから――」
俺ははっきり言う。
「絶対行く」
一瞬の沈黙。
そして、ルルはため息をついた。
「……やっぱり、そう言うと思った」
こうして、
新しい次の目的は――鉱山制覇。
だが、
その背後で、
誰かの視線が、確かにこちらを捉えていた。
まだ、
俺たちはそれに気づいていない。
⸻
第五話 完
⸻
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は大量の鉱石をゲットします。




