第四話 魔法オタク、ルルの夢
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門を出る。
背後で、
村の音が少しずつ遠ざかっていく。
畑を渡る風。
土の匂い。
のどかな景色。
村を背に、
世界へ向かう。
俺とルルの旅は、
ここから本当にはじまった。
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しばらく歩いて、
ルルがふと思い出したように言った。
「ねえ、ゼン」
「なに?」
「さっきの……シノってメイドの子」
「ちょっと寂しそうだったね」
「ああ」
「シノは幼馴染だからな」
「魔力はほとんどないから、旅には連れていけないけど」
「そうなんだ...」
ルルがくすっと笑う。
「ゼンの小さいころ想像しただけで、恐ろしいね」
「ひどいな」
「だって、今でこれでしょ?」
否定できなかった。
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森に入ると、
空気が少しだけ変わる。
木々の間を抜けながら、
俺は頭の中で問いかけた。
――この辺りに出る魔獣。
AI:
――対象確認。
――ホーンラビット。
――ロックボア(若個体)。
――危険度:F〜E。
――素材回収可能。
「……よし」
「なに?」
「今日は魔獣肉でごはんだ」
「え、魔獣食べるの?」
「うさぎとか、イノシシはうまいぞ」
「そ、そうなんだ……」
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茂みが揺れる。
飛び出してきたのは、
小さな角を持つホーンラビット。
詠唱は短く。
「――止まれ」
一瞬の拘束。
そのまま、一撃。
続けて、
突進してきたロックボアの若個体も処理する。
魔獣石を回収し、
肉だけを丁寧に切り分けた。
「……手慣れてるね」
「旅の基本だ」
そう言って、
俺は切り分けた肉を手に取った。
次の瞬間。
すっ、と
肉が消えた。
「……え?」
ルルが、動きを止める。
「今の……なに?」
「ああ、今しまった」
「しまったって……」
「アイテムボックス」
一拍、沈黙。
「……」
「……えっ?」
「い、いま消えたよね!?」
「うん」
「どこに!?」
「ボックスに」
ルルは一度、俺の手を見る。
次に、地面を見る。
「……ずるいー」
「なんで?」
「それ、旅の難易度下がりすぎでしょ!」
文句を言いながらも、
どこか楽しそうだった。
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少し進んだ先で、
開けた場所を見つけた。
「ここで休もう」
「賛成」
焚き火を起こし、
腰を下ろす。
しばらくしてから、
俺は再びアイテムボックスに手を伸ばした。
さっきの肉と、
野菜が現れる。
「……ほんとに出てくるんだ」
「便利だろ」
「ずるい」
また同じことを言っていた。
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「じゃあ、私も手伝う」
「野菜切るね」
包丁を受け取り、
ルルが刻み始める。
トントン、という音。
「……見てたら、お腹すいてきた」
「もうすぐだ」
俺は鍋に肉を入れ、
粉末を取り出す。
「それ、なに?」
「ゼンの粉末」
「……何それ、大丈夫?」
「問題ない」
鍋に、じゃじゃーん、と投入。
ぐつぐつと煮え始め、
湯気と一緒に香りが立ち上る。
「……いい匂い」
ルルが、思わず鼻をひくひくさせる。
「なにこれ……」
「お腹鳴りそうなんだけど」
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しばらくして、
器に盛る。
「どうぞ」
「いただきます」
一口。
「……」
ルルが、目を見開いた。
「……おいしい」
「え、なにこれ」
「本当においしい……!」
「このだし……反則じゃない?」
「まあ、いろいろ試した結果だ」
「ゼンって、料理できるんだね」
「そりゃ、旅の準備は万端だ」
ルルは夢中で食べていた。
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食後、
焚き火の前で並んで座る。
火を見つめながら、
ルルが静かに話し始めた。
「ねえ、ゼン」
「私ね……」
「将来、魔法の先生になりたいの」
「先生?」
「うん」
ルルは、少しだけ言葉を選ぶ。
「この世界ってね」
「詠唱も、限られたものしか残ってない」
「理論を学べる場所も少ないし」
「魔力量は、魔法を使っていかないと成長しない」
焚き火が、ぱちりと鳴る。
「そもそも、魔法をきちんと教われるのは貴族だけなの」
「平民は、独学か、師匠探し」
「才能があっても、学ぶ機会がない」
「だから私は――
魔法を、誰でも平等に学べる世の中にしたい」
俺は、素直に頷いた。
「いい夢だ」
「協力できるなら、する」
ルルは、安心したように笑った。
「ありがとう、ゼン」
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少し間を置いて、
ルルがふと思い出したように言った。
「……ねえ、ゼン」
「詠唱って、どれくらい知ってるの?」
「詠唱?」
「うん。使える数」
「普通の魔法使いなら、十もあれば多い方なの」
俺は少し考えて、曖昧に答えた。
「……七十くらい、かな」
「……は?」
ルルは、完全に動きを止めた。
「待って」
「冗談じゃないよね?」
「うん」
「ちゃんと数えたわけじゃないけど、そのくらい」
しばらく、焚き火の音だけが鳴った。
「……今ね」
ルルは、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「この世界で“確認されてる詠唱”って、五十ほどしかないの」
「研究機関やギルドが把握してる分だけで、ね」
「それ以上は、断片か、失伝か、再現できないもの」
「なのに……」
俺を見る。
「ゼンは、それを普通に使ってる」
小さく、でもはっきりとした声で言った。
「ねえ」
「その詠唱、教えてくれない?」
「……え?」
「記録したいの」
「正確に残したい」
「失われる前に」
少し照れたように、でも真剣に。
「お願い」
俺は一瞬だけ考えて、すぐに答えた。
「え、全然いいよ」
ルルの目が、ぱっと輝いた。
「……ありがとう」
「どういたしまして。魔法オタクさん」
「ちょっと!? ひどくない!?」
そう言いながらも、ルルはどこか嬉しそうに笑った。
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焚き火を消し、
再び歩き出す。
森の向こうに、
岩が重なった影が見えた。
ぽっかりと、
口を開けている。
俺は足を止め、
その影を見つめる。
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第四話 完
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次回は初ダンジョン攻略です。




