第三話 魔法の七属性と三要素
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朝の光が、宿の部屋に差し込む。
「おはよう! ゼン、起きて!」
「……おはよう……」
ベッドから半分落ちかけたまま、ゼンは体を起こした。
「朝ごはん、パンだけど用意したよ」
「ありがとう……」
眠気の残る頭でかじるパンは、やけにうまい。
「ゼン、朝弱すぎ」
「ルルは朝から元気だな……」
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食事を終えると、ルルが腰に手を当てた。
「それで、今日はどうするの?」
「一度、家に帰る」
「それから、本格的に旅に出るつもりだ」
「いいよ!」
即答だった。
「ゼンの家、見てみたい!」
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村へ戻る道すがら、
Fランクの依頼をいくつかこなした。
薬草集め。
小型害獣の駆除。
(この辺に生えてる?)
AIに聞くと、
場所も見分け方も、すぐ分かる。
便利だった。
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森の中。
枝の上から飛び降りてくる、ウッドバード。
地面から姿を現す、キノコゴブ。
川辺では、水を跳ねさせるカッパカエル。
ゼンは立ち止まり、短く詠唱する。
どれも初級魔法とは思えない威力だった。
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「……ちょっと待って」
ルルが足を止めた。
「おかしい」
「何が?」
「全部よ」
倒れた魔物を指差す。
「火だけじゃない」
「水、風、地……使ってる属性が毎回違う」
「ゼン、火が適性って言ってたよね?」
「……うん」
「じゃあ、何属性使えるの?」
少し考えて答える。
「……七、かな」
一瞬、沈黙。
「それ――」
ルルが声を上げた。
「全属性じゃない!」
「……やっぱ、そうなんだ!」
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ルルは一度、深呼吸してから説明を始めた。
「魔法はね、七属性と三要素でできてるの」
「七属性は、
火・水・風・地・光・闇・無」
「三要素は、
詠唱・理論・魔力量」
「詠唱は起動」
「理論は形と安定」
「魔力量は威力と持続」
「この三つが揃って、魔法になる」
ゼンを見る。
「普通は、
魔法適性に合った属性しか安定して使えない」
「なのにゼンは……」
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「七属性を、全部同じ感覚で使ってる」
「理論は追いついてないのに、
詠唱と魔力量だけで成立させてる」
「……完全にゴリ押し」
「普通なら、途中で必ず暴発する」
「生きてるだけで、おかしいレベル」
少し困ったように笑った。
「ゼンってすごい魔法使いなのに、
魔法のこと全然知らないよね」
「……そうかも」
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村の門が見えてきた。
「ただいまー」
門をくぐった瞬間、
ルルが固まった。
「……え?」
屋敷。
使用人。
門番。
「ここ……ゼンの家?」
「うん」
「辺境だけど」
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「ゼン様、お帰りなさいませ」
声をかけてきたのは、
メイド服の少女だった。
「……同い年くらい?」
「はい。シノと申します」
ルルが小声で言う。
「領主の家の子だったのね……」
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その日の夕食は、賑やかだった。
「ゼンは小さいころから、落ち着きがなくてね」
母が、くすっと笑う。
「庭で一人、何かしてると思ったら」
「急に、光ってな」
父は肩をすくめた。
「え、何をしたんですか?」
ルルが、身を乗り出す。
「魔法の練習よ」
「誰にも教わってないのに」
「倉庫が吹き飛んだ」
「使用人が、全員固まってたよ」
「ちょっと待ってください」
「それ、普通じゃないですよ!?」
両親は顔を見合わせて、
昔話でもするように、楽しそうに笑った。
ゼンは、
恥ずかしそうに食事を続けた。
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夜。
屋敷の裏手にある、小さな墓の前。
ゼンは、静かに手を合わせる。
風が、木々を揺らしていた。
「……行ってくる」
それだけ言って、
踵を返した。
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翌朝。
荷物は、少ない。
門の前で、
シノが立っていた。
「ゼン様……」
「シノ、頼むぞ」
「はい」
「行ってらっしゃいませ……」
少しだけ、
目が潤んでいた。
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村を背に、歩き出す。
「行こう、ルル」
「うん!」
帰る場所は、ある。
だからこそ、
安心して進める。
魔獣図鑑を埋める旅は、
ここからが本当の始まりだ。
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第三話 完
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回から本格的に旅が始まります。




