第二話 空白の魔獣図鑑
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十歳になった。
それは、この世界で冒険者ギルドに登録できる年齢でもある。
ただし、
ゼンの住むミルナ村にはギルドがない。
登録のためには、隣町の少し大きな街まで行く必要があった。
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馬車で一日。
石畳の道。
人の多さ。
武器を背負った冒険者たち。
交易と宿場の街、リンデールは、
ミルナ村とは空気そのものが違っていた。
街の中心に、
誰が見ても分かる建物がある。
――冒険者ギルドだ。
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中は騒がしかった。
酒と鉄と汗の匂い。
依頼掲示板の前で声を張り上げる冒険者たち。
順番が来て、受付に立つ。
「冒険者ギルドへようこそ。
本日は登録ですか?」
「はい」
「では、こちらに記載をお願いします」
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名前:ゼン・ヴォイド
年齢:10歳
出身:ミルナ村
魔法適性:火
目的の欄には、迷わず書いた。
――魔獣図鑑をすべて集めること。
受付の女性は、少しだけ目を丸くした。
「……すごい目標ですね」
「でも、応援してますよ」
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「では最後に、
簡単な適性の魔法を見せてください」
一歩前に出る。
(火でいいか)
頭の中で声がした。
AI:
――推奨:火炎球(初級)
――詠唱文を提示します
ゼンは、短く息を吸い、
迷いなく詠唱した。
「――火よ、集え」
掌に、小さな火炎球が生まれる。
「……はい、結構です」
受付はそう言ったが、
一瞬だけ視線が止まった。
少し離れた場所で、
ゼンと同じ年くらいの少女が、こちらを見ていた。
(……あれって短縮詠唱?)
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「登録は以上です」
金属製のカードが差し出される。
「こちらが、ゼン様のギルドカードになります」
「討伐した魔獣の魔獣石は、
こちらの鑑定装置に入れてください」
「カードをセットすると、
ゼン様専用の魔獣図鑑に記録されます」
表示された図鑑は、
すべて空白だった。
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受付は説明を続ける。
「冒険者ランクは、
討伐した魔獣の“種類数”で評価されます」
「10種類でFランク」
「30種類でEランク」
「50種類でDランク」
「100種類でCランク」
「150種類でBランク」
「200種類でAランク」
「250種類以上で、Sランクです」
「魔獣図鑑はですね」
受付は、少し誇らしげに続けた。
「討伐した魔獣の情報を集約した、
世界共通の公式データです」
「登録された情報は、
商会、研究機関、工房など、
世界各地で活用されています」
さらに、隣の設備を指さす。
「討伐後の魔獣は、
隣で素材の解体・買取も行っています」
「依頼報酬とは別に、
素材として換金できますよ」
そして、付け加える。
「このギルドで受けた依頼は、
他の街の冒険者ギルドでも
報告・換金が可能です」
「移動中に達成しても問題ありませんので、
気軽に受けてくださいね」
(……なるほど)
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そのとき、
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「大変だ!」
「町外れで魔獣同士が争ってる!」
「でかいのが二体だ!」
「熊型と、蛇型!」
受付の表情が変わる。
「……縄張り争いですね」
「このままでは、街に被害が出ます」
冒険者たちが動き出す中、
ゼンは何も言わず、走り出していた。
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町外れ。
二体の魔獣が、
地面を抉り、木をなぎ倒しながら争っている。
膨れ上がった
巨大な猪熊が、
怒りのままに突進する。
AI:
――魔獣確認
――パフボア
――危険度:E
その正面。
地面と同化していた「木」が、
ずるりと起き上がる。
幹のような胴体。
絡み合う蔦の鱗。
AI:
――魔獣確認
――スネークウッド
――危険度:E
縄張り争いだ。
このまま続けば、
町まで来る。
(……ここか)
一定の距離まで近づき、立ち止まる。
そして――
はっきりと、詠唱した。
「――火よ、燃え上がれ、天を貫け」
次の瞬間。
二体の魔獣をまとめて呑み込むように、
巨大な火柱が天へと立ち上がった。
炎が消えたあと、
そこには黒く焼けた大地だけが残っていた。
ゼンは魔獣石を拾い上げる。
(よし)
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「……うそ……」
「……失われた魔法……?」
声がした。
ゼンは、振り返る。
「え……君は誰?」
少女は、
その場に立ち尽くしていた。
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ギルドに戻る。
「町外れの魔獣が……消えた?」
「二体まとめて……?」
受付は静かに頷く。
「……討伐、確認しました」
魔獣石を鑑定装置に入れる。
光とともに、
魔導表示が展開された。
パフボア。
スネークウッド。
空白だった図鑑に、
二匹の魔獣が刻まれていく。
「……色んな情報が記録されるんですね」
「魔獣石から解析しています」
「登録、完了です。
初登録、おめでとうございます」
カードが、わずかに熱を帯びた。
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「あ、あの……!」
先ほどの少女が、慌てて頭を下げる。
「私は、ルル・クリスティアです」
「失われた魔法を研究していて……
さっきの詠唱……
あなたみたいな人を探していたんです!」
「俺は、ゼン・ヴォイド」
「魔獣図鑑を集めるために、冒険者になった」
ルルの目が、輝いた。
「……あの」
「私を、旅に連れていってくれませんか?」
「まぁ、いいけど」
「ほんとですか!?」
受付が、微笑んで言った。
「あの、よろしければ……
お二人でパーティを組まれては?」
「冒険者への依頼は、
二人以上前提のものが多いですし」
ルルが、ちらりとゼンを見る。
「ゼンさん……いいですか?」
「おう。おれはゼンでいいよ」
「うん、私はルルって呼んで」
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こうして、
魔獣図鑑に一ページ目が刻まれた。
空白だらけの図鑑は、
これから少しずつ、
確実に埋まっていく。
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第二話 完
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は、ゼンが全属性魔法使いと判明します。




