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怪獣退治のお仕事 ー怪獣対策研究省怪獣災害対応統括官

作者: 頭ハジメ
掲載日:2025/12/31



 11時32分 長野県小山市桃山地区山中にて住人から怪獣発見との通報(長野県警察)


 11時38分 現地警察官、桃山地区栄蔵山南東部から、南西部の地点に怪獣を視認。二足歩行型。目測50メートルと推測(長野県警察)


 11時39分 長野県小山市に怪獣出現情報(怪獣対策研究省)


 11時45分 怪獣対策研究省ヘリ、怪獣を視認。陸上活動型。二足歩行。目測推定50メートル(怪獣対策研究省)


 11時46分 小山市に怪獣出現警報、長野県中部に怪獣出現注意報(対象市町村略)(怪獣対策研究省)




 あたし、三隅葵は怪獣対策研究省怪獣災害対応統括官として、長野県小山市に派遣された。


 スーツに、灰色を基調に、背中上部は赤く塗られ、黒字で「怪獣省」と書かれたジャケットを見て、立川の本省から輸送機で必要機材とともに揺られた。

 現地に到着し、現場の陸上自衛隊から指揮命令統括権を委譲されたのは、12時57分のことだった。





 怪獣対策研究省―――怪獣省は昭和29年に設立された怪獣災害、怪獣の調査と研究を行う中央省庁である。


 あたしの肩書きである怪獣災害対応統括官、略して統括は怪獣が出現してから被害を最小限に食い止め、怪獣の駆除など、怪獣災害の危険性が低下するまで、国の機関から民間まで一切に指示、指揮、命令を行う権限を持つ。


 これは怪獣災害対策基本法に定められている事で、有事に統括の命令に背けば民間人でも罰則がある。





「三隅統括」


 怪獣省用に改造された82式指揮通信車で、統括専用座席に座っていたあたしに、妙に顔のいい女が声をかけてきた。

 統括補佐の檜山優子は、同じジャケットをみて横でその冷たい美貌をノートパソコンの画面を向けながら、あたしに話しかけた。


「陸自が、怪獣に攻撃し続けてよいか、指示を乞うています」


 あたしはノートパソコンに写った、地上から撮影された怪獣の画像を見た。


 茶色くごつごつした肌、細い目、牙の生えた口、ほぼ顔と一体化した首、胴は長く、逞しい。

 背中には大きな水晶のようなヒレのようなものが首から長い尻尾までついている。2本の足は太く、怪獣を支えるに足りうるのが目で見てわかる。


「自衛隊は怪獣の移動を阻止する目的で、攻撃を続行するように伝えて。土井君」


 はい、と、少し背の高い、若く、やんちゃな子供のように童顔な土井統括補佐は返事をする。


「本省の資料局によると、今回の怪獣73号に画像での一次照合で、過去に出現した怪獣の情報と合致せず。現在、部分情報検索を行います」


「怪獣73号ね……」


 あたしは呟いた。今日は12月29日。今年は怪獣の当たり年だ。


 数字は今年現れた日本国内に現れた怪獣の数字を示すが、いつもなら40~50程度だ。


 今年は怪獣の対処方法もやたら議論となる年であったし、今年の世相を表す漢字一文字が『怪』になったくらいだ。


「三隅統括」


 檜山さんが声をかけてきた。


「陸自が攻撃を再開しました。ライブ映像を送ります」


 ノートパソコンに、陸上自衛隊の映像伝送班や普通科隊員のボディカメラなどから撮影しているライブ映像が複数個が送られてくる。


 一つ目をあけると、遠方から怪獣を撮影した映像が送られてくる。

 地上から光跡が見える。戦車の砲撃だろう。


 二つ目は陸上自衛隊普通科隊員のボディカメラ。20式小銃を構えて、怪獣に目掛けて撃つ。

 怪獣は少し動きを止めている。

 その隙に、横から大きな爆発音。10式戦車による砲撃。これはきいたみたいで、悲鳴に似た声を上げて、青い血を流している。


 これは有効かも……と私は思った。


 戦車の砲撃一撃で割と効果は出ているようだ。陸上自衛隊の砲撃やミサイル攻撃、あるいは航空自衛隊の空爆でやっつけられそうだ。


 私の頭の中では、怪獣対策は、その終結の仕方をどうするか、というところに思考が回っていた。







 だいたいの怪獣災害は、大きく3通りの方法で終結するといわれている。


 1,駆除

 怪獣の息の根をとめる。砲撃や怪獣省の特殊装備で駆除をする。

 概ね一番取られる方法。


 2.捕獲

 怪獣を捕獲する。怪獣省の特殊装備で眠らせたり、保護区域に輸送させ、今後の動向を監視、研究対処とする。

 怪獣省内の怪獣研究所が今後研究していく。保護する必要や撃退すると広範囲に悪影響があるなどした場合、行われる


 3、静観

 怪獣の動向を監視しながら、居住地に接近した場合は誘導させ、ある一定の期間まで静観する。

 先ほど出た例のように撃退が困難な場合、捕獲も難しい、或いは人畜無害だったり、撃退したらむしろ生態系などに悪影響を与えかねない場合行われる。

 正直、一番手間のかかる方法だ。


 実際はこの3通り以外の方法だったり、混合のような方法がとられるケースもあるので、一概にこの3つの方法に当てはまるとはいえない。







 しかし、今回はどうも攻撃で抑えられる相手のようだ。


 なら、話は簡単。


「檜山さんは自衛隊に特科(砲兵)部隊、機甲部隊の火力集中攻撃の準備を行うよう伝えてください。また、航空自衛隊のF2戦闘機数機に爆装させ、上空待機をするようにも伝えてください」


「わかりました」


 檜山さんはできる女っぽく、陸自にメッセージを送ったり、電話で連絡をとったりしている。


「統括」


「土井君、どうしたの?」


「今回の怪獣73号、名前はどうしよかって資料局がいってきてます」


「あー」


 忘れていた。統括には怪獣の命名権があるのだ。


 つまり、過去に出現した怪獣ではない限り、統括が怪獣に名前を付けなけれならない。


 一応政令で大まかなルールはあるけど、それよりも暗黙のルールも多い。


 土地の名前は避けよとか、他の動物の名前と被るようなものはやめよ、とか。


 最終的には資料局が過去の怪獣名と同一名がないか、検索して、最終的に決定する。


 私は腕を組んで、しばらく悩んだ。


 怪獣もあまり特徴がない……強いてあげるとすれば……水晶のような尾ひれ……


「スイショウオヒレンとか」


「了解しました。資料局に問い合わせてみます」


 土井君はノートパソコンのキーを叩いた。


 なんか花の名前みたいだ、と言った後にあたしは思った。





 13時30分 令和7年怪獣73号について、『スイショウオヒレン』と呼称する(怪獣対策研究省)





 14時15分


 スイショウオヒレンの周りには火力の強い自衛隊部隊が展開していた。


 1個戦車大隊。1個特科大隊。そして上空には航空自衛隊8機の、JDAM爆弾を満載したF2戦闘機。


 スイショウオヒレンは小山市郊外の猿鐘地区を進んでいる。周囲は人口密集地だが、ここには田畑が並ぶところだ。

 家屋も少なく、攻撃しても被害が少ない。


「檜山さん、自衛隊現地司令部に、そちらのタイミングで攻撃を開始して、と伝えてください」


「わかりました」


 檜山さんは無線を使って、自衛隊現地司令部に命令を伝える。


 あたしは一つ安堵のため息をついた。これで怪獣は撃退できる。任務は終了だ。かえって、当直から解放されて、帰宅だ。


 ノートパソコンで、遠方から自衛隊映像伝送班が撮影しているスイショウオヒレンの映像を見ながら、帰宅後のスケジュールを考え始めていた。


 その時だった。


「三隅統括!」


 土井君が焦ったように声をかけてきた。


「先ほど怪獣が進行していた、木地屋地区の警察官数名が体調不良を訴えているそうです。現場から腐卵臭がするとのこと」


 私は一気に冷や汗をかいた。それって……


「硫化水素……?」


 思わず檜山さんも言葉を漏らした。


 上空から航空機の爆音が聞こえる。


 やばい。スイショウオヒレンは硫化水素を体内にもっているかもしれない。


 有毒で、可燃性のガスだ。もし攻撃したら、今その周囲に人がいなくても、広範囲でどんな被害ができるか想像がつかない。」


「檜山さん、緊急命令。自衛隊は攻撃中止!」


「了解」


 檜山さんは無線で口頭で内容を伝えた。


 航空機の爆音が、急に遠ざかっていく。


 映像でもスイショウオヒレンに何ら変化はない。遠くに、航空自衛隊のF2戦闘機の機影が豆粒みたいに確認できる。


「……統括、自衛隊は攻撃を中止しました」


 檜山さんの言葉に、私は大きく息をついた。そして命令した。


「現場、およびその周囲や進行した地域にいる人間は、化学防護服を着るか、当該地区から退避するよう命じてください。また怪獣から周囲2キロの範囲で化学防護服着用者以外の立ち入りを禁止します。小山市やその周辺自治体、長野県はそれも考慮した住民避難を実施し、自衛隊や警察、バス会社なども全面的に支援してください」


 私は一息置いて、続けた。


「スイショウオヒレンに、有毒ガスに関する怪獣災害対策特別警報発令」




 14時25分 スイショウオヒレンに対して。有毒ガスに関する怪獣災害対策特別警報(怪獣対策研究省)





『えー、時刻は17時30分を過ぎたところです。長野県小山市は先ほど日没時間を迎えました。気温は氷点下2度。住民は怪獣省の、有毒ガスに関する怪獣災害対策特別警報によりまして、怪獣省から命令を受けました地元のバス会社が用意したバスで、この小山平野から避難しています……』


 指揮通信車に備え付けられた小型テレビでニュース特番を見る。もちろん、小山市に出現した怪獣に関するニュースである。


『NHK』の腕章をつけ、明るい色のジャンバーと白いヘルメットを被った記者が話している。


 後ろでは住民たちがバスに乗り込こんでいく。住民を満載したバスは小山市はもちろん、山を越えて、小山市のある小山平野の外へ避難することに決定した。


 これは私が地元自治体に適切な住民避難を『命令』した結果である。


 小山市と小山平野にある、他2市3村と県は、状況を鑑みて小山平野の外への住民避難を決定した。

 

 同様に私が『命令』して用意させた、民間のバス、自衛隊の輸送車両、輸送ヘリコプター、警察の輸送車で、小山平野にいる合計28万7000人は避難していく。


 小山平野の外には県が用意した―――市町村に開設させた避難所がいくつもある。


 



 自衛隊は燃料の関係から戦闘機を帰還させた。


 陸上自衛隊は2個普通科連隊、1個対戦車ヘリ隊を増強させ、現地司令部にはより高位の階級の人間が新たに司令官として着任した。ヘリは郊外の臨時飛行場にて待機だ。また映像伝送班も2個増派した。夜間、平野のどの位置にいても迅速に撮影できるように、増派したのだ。

 また化学兵器の検知や除染を行う特殊武器防護隊も投入した。

 

 怪獣省も人員を増強した。


 怪獣化学災害防護隊が派遣された。怪獣省内の、化学物質やガスに詳しく、防護や除染を行う部隊だ。


 さらに、私の命令で警戒待機状態に入った部隊もあった。





 私たちは指揮通信車のなかで自衛隊と同等の防護服を着ながら、テレビ画面に映るニュースを見ていた。


 すると、私のノートパソコンに通信が入った音が鳴る。


 ライブカメラを立ち上げる。相手は自分たちと同じ防護服をきていた。


 第8怪獣化学災害防護隊の藤松隊長だ。顔はわからないが、中年の男性らしい。


「三隅統括、聞こえますか?」


「聞こえます、藤松隊長」


 私は防護服のなかで耳と口元にはめたヘッドセットで会話をした。向こうも同じだろう。


「三隅統括、スイショウオヒレンの通った後、及び恐らく体から、硫化水素が検出されました」


 ここはやっぱりね。私は頷きながら、藤松隊長は話を続けた。


「スイショウオヒレンは不規則ではありますが、体内から硫化水素を出しています。検出量は一度に70ppmから900ppm。硫化水素は800ppm以上だと即死濃度です」


「これ以上大規模な硫化水素の流出はあると考えますか?」


「正直なんとも……量も不規則ですし、私から見ても、どこから、どうやって、なぜ硫化水素が流出しているかわかりません」


 お役に立てず、申し訳ない。そう、隊長が頭を下げると、私は指を横に振って、いえいえ、貴重なご意見ありがとうございます、と言った。


 藤松隊長はわかったことがあれば早急に連絡する旨伝えたあと、通信を切った。


「どうしますか?」


 整った顔が防護服で隠れた檜山さんは、私の方を向いて言った。

 土井君も同じように私の顔をみている。


「……少なくともここでの駆除があまりにも危険すぎる。静観するのも同等。保護……」


「怪獣研究所からは保護不要の返答でしたね……」と土井君。


「……だったよねぇ」


 私はこうべを垂れた。


 しかし、もうこうなると、取るプランは限られてくる。


 私は頭を上げ、言った。


「この小山平野から空輸する……」


 それは可能だ。


 怪獣省がもつ、特殊怪獣輸送隊による大型物体輸送能力があれば、5万トン程度の物体は暴れてても空輸できる。


 ちなみにスイショウオヒレンの足跡のめり込みから、推定体重は8000トンという評価が出ている。


「……問題はその後……」


 あたしは考える。


 1.どこかの洋上や危険でない陸地に投げて、静観する.


 2.どこかの洋上、陸地、空中などで駆除する。


 


 1は攻撃によるリスクはない。ただ、生存している以上、ガスの流出の危険性はある。またこれは別班が担当するが、監視を続ける必要がある。


 2は事態が終結する。しかし、攻撃や駆除によってどんなリスクが出るか、わからない。一番怖いのは硫化水素の大爆発、そしてガスの大量流出とそれが人口密集地へ流れ着くことだ。



 1は生存しておくリスクはある、市街地に接近してガスが流出したら大惨事だろう


 2は駆除という状況をある程度コントロールできる。どこで、どう攻撃するかは選べる。また、スイショウオヒレンに生存させるメリットもない。


 


 あたしは決めた。


「安全な地域での駆除を行います。本省に攻撃適性区域の選定と可能な攻撃方法をいくつか提案を。他関係機関にもその旨情報共有し、同時に避難は続行するよう伝えてください」


 わかりました。


 檜山さんと土井君はそう声を揃えて、ノートパソコンをいじったり、無線を駆使して、私の命令を伝えた。




 攻撃方法はいくつか提案されたが、今回は対怪獣要撃機MFA-01を使った攻撃にした。


 MFA-01は怪獣攻撃に特化した多用途戦闘機で、日本の三菱重工などが開発に当たった。


 この戦闘機最大の特徴はスペシウム133と呼ばれる物資を光線として応用した、スペシウム光線を大出力で発射することだ。


 相当の威力があり、出力は変更できるが、最もミニマムでも500メートル級の山ひとつが吹っ飛ぶ。


 なので怪獣の特徴、耐性や周辺状況から使用を控えることもある。


 本来、今回のスイショウオヒレンもスペシウム光線に頼らず、自衛隊による駆除を目指した。


 しかし、人家のない地域に誘導すれば周辺の住民や家屋のない所で使えば、周囲の影響も極力軽くなる。



「本省から攻撃適性区域のプランがいくつか提出されました。



 土井君がそう言うと、あたしのノートパソコンに日本とその周辺の地図が表示され、赤い点でいくつか示されている。


 陸地で一番近いのは自衛隊の東富士演習場だ。人口密集地から空輸されてきた怪獣がここで良く駆除されている。


 しかし陸地は難しい。硫化水素がどのくらい、どう漏れるかわからない。


 となると、絶海の孤島か、居住地域からかなり離れた陸地になる。





「一番使えそうなのは、中の鳥島ね……」




 中の鳥島は日本近海の、太平洋上に浮かぶ平坦な島だ。


 明治期から人が住んでいたが、大戦時に全島民が疎開して以来、無人島だ。


 現在、怪獣省の管轄となり、怪獣の攻撃適性区域のひとつとして、盛んに利用される。


 怪獣墓場という異名も持つ。



 よし、決まった、とあたしは心の中で決心した。


「怪獣を空輸し、中の鳥島で駆除を行います。駆除方法はMFA-01による光線を用いた攻撃です。私は作戦立案と怪獣省内の各部隊に出動命令を出します。檜山さんは各関係機関に通達。土井君は省内の各部署にも伝えてください」




 19時45分 スイショウオヒレンは駆除することが決定。駆除予定区域は中の鳥島。駆除予定区域までは怪獣省空輸部隊が怪獣を輸送する。駆除方法はMFA01による光線攻撃。作戦詳細は別途広報、書類等を参照。なお、避難は続行(怪獣対策研究省)


 



 すっかり夜になっていた。


 小山市にトライアングルの形をしたヘリコプター4機がやってきた。


 CH-100と呼ばれるヘリで、かつてソ連が計画のみで終わらせたものを、川崎重工業が怪獣省向けに改良し、生産されたものだ。


 他にも監視用と誘導用のOH2観測ヘリが随伴している。この2機も怪獣省のものだ。


 怪獣省は他にもメーサー兵器部隊がいくつもある。怪獣に特化した装備であるし、いわゆる戦争や対人兵器として用いてはいけないことが法律や条約で定められているが。

 正直その火力だけでも自衛隊を凌駕しているだろう。


 もちろん自衛隊の攻撃は結構有効であるし、武器使用のほかにも避難誘導、被災者支援を行う上で重要な関係ではなる。

 とはいえ、防衛省、自衛隊との関係は親密だが、派閥荒いはある。


 官僚という生き物はなわばりを重んじる傾向にあるようだ。






 CH-100は小山市郊外の犬崎地区にある、市立犬崎公園の広いグラウンドの4隅を陣取っていた。ヘリの間には、巨大な網が装着されている。


 この網で怪獣をヘリが持ち上げ、中の鳥島まで空輸する。


 この網は改良を重ね、極めて頑丈なものとなっている。




 ヘリは今は回転翼を止めているが、回り出せば一気に飛行できる。

 これは怪獣を音で刺激しないようにするため開発された技術だった。」




 スイショウオヒレンは自衛隊の攻撃などの手段を用いた誘導によって、巧みに公園に向かっている……





『サカタ02、撃て!』


 映像伝送班が撮影しているライブ映像は、無線とともに遠方にいるスイショウオヒレンに戦車からの砲撃を一発当てる様子を撮影していた。


 自衛隊も対怪獣作戦に慣れており、怪獣誘導のための戦術も長けている。


 怪獣から硫化水素が出ないように、慎重に攻撃しながら。スイショウオヒレンはグラウンドに向かっている。






「そろそろですね」


 土井君がグラウンドのライブ映像を見る。


 檜山さんもあたしもそうだ。


 グラウンドの網の中心に向かっている。


 自衛隊はグラウンドから退避している。


 スイショウオヒレンが網を広げた真ん中に来た。


「こちら統括、ただちに空輸せよ」


『こちらタロー01、了解しました。各機上空へ』


 ライブカメラを見る。急にエンジン音が聞こえ、動揺し、後方を見つめるスイショウオヒレン。


 CH1004機はあっという間に上昇し、怪獣は網の中に入った。


『タロー01、離陸成功。怪獣は網の中に入ったままです』


「了解しました、そのまま空輸をお願いします」


『タロー01、了解』


 その時、爆音が響いた。


 あたしは思わず外に出た。


 空輸されたスイショウオヒレンが、南へ向かって空輸されていく。


 CH-100の編隊の前には誘導用のOH2と後続で、怪獣監視用のヘリが飛ぶ。


 スイショウオヒレンは居住地域の上空をなるべく避け、太平洋に出るはずだ。




 21時05分 スイショウオヒレン、確保と空輸に成功。このまま中の鳥島へ向かう(怪獣対策研究省)


 



 その頃、航空自衛隊浜松基地から、戦闘機と爆撃機の中間程度の大きさをもった、MFA01戦闘機が2機、空を飛んだ。

 このうちの1機が怪獣にとどめを刺す。


 後続には怪獣省の無人機、RQ-4が離陸した。これも監視用である。


 この3機の出動を確認した私は、次に空輸されているスイショウオヒレンの様子を見た。今は赤石山脈の上空を飛んでいる。


「三隅統括」


 そういったのは檜山さんだった。


「長野県と小山市が平野外への避難活動を終了していいか、ときいてきています」


 私は少し悩んで


「いいでしょう。あー……あと、防護服の着用も不要になったように伝えてください」


「あの、怪獣省の関係者もそうですか?」と土井君


「そうね、現在の空輸部隊以外は防護服を脱いでいい」


 二人とも、了解と言って、各関係機関に伝える。


 ということは、私達もいらなくなったので、順番に一人ずつ、他の2人はパソコンで様子を見ながら、防護服を脱いだ





 21時30分 スイショウオヒレンに関して、有毒ガスに関する怪獣災害対策特別警報は解除とする。小山平野住民に対する避難は終了。すでに避難している住民は翌朝より順次バスにて帰宅の予定。

なお、スイショウオヒレンは中の鳥島に向けて空輸中、現在赤石山脈上空(怪獣対策研究省)

      

 21時40分 小山平野住民に対する平野外の避難作戦は中止。まだ避難していない住民は帰宅。平野外に避難した住民は翌朝からバスに乗って小山平野内に帰宅してもらう(長野県庁)





 スイショウオヒレンは太平洋に出て、中の鳥島に達した。


 月明かりに照らされた、島の中央部にヘリが着陸し、島内に仕組まれた催涙ガス発生装置から、催涙ガスがでて、スイショウオヒレンは避けるために歩行を行う。

 網の外に出た隙を狙って、CH1004機は急速に飛行。島の外へ出ていく。


 ちょうどその時、2機のMFA01戦闘機とRQ4無人機がやってきた





『こちら、レオ01。統括へ。攻撃可能です。攻撃してもいいですか?』


「こちら統括。攻撃を開始してください」


『こちら、レオ01、了解』





 スイショウオヒレンは中の鳥島をゆっくり歩いていた。


 MFA01戦闘機の機体下部から、太い電柱のようなものが出てきた。


 スペシウム光線の発射口である。


 暗視装置で目標を視認し、ターゲットをロックオンしたレオ01は操縦かんのボタンを押して、スペシウム光線を発射させた。


 スイショウオヒレンに光線が当たった途端、大爆発が起きる。


 スイショウオヒレンは跡形もなく、消えた、


『こちらレオ01、作戦完了。スイショウオヒレンは消滅した。繰り返す、スイショウオヒレンは消滅した』


「こちら統括。ご苦労様でした。帰還してください」


『了解、こちらレオ01、帰還する』





 MFA01戦闘機が帰還しても、RQ4は残った。島を低空で飛行し、大気を検査する。


 中の鳥島をRQ4のガンカメラで確認しながら、状況を確認する。


「無人機による大気調査の結果、異状なし。硫化水素も確認されていません」と檜山さん。


「なんだったんすかね」


 土井君が安心したからか、ラフな感じに聞いてきた。


「わからない……元々硫化水素の体内蓄積量が少なかったのか、スペシウム光線で吹き飛ばしたのか……」


 あたしはそう真剣に考えたが、ああ、と思い、少しだけ安心すると、


「まあ、これで事態は収束したし、いいか」






 23時45分 スイショウオヒレンは中の鳥島にてMFA01戦闘機のスペシウム光線攻撃により駆除した。島には硫化水素などは確認できず、大気は催涙ガスによるもの以外は平常値である。

      現時刻をもって、令和7年怪獣73号、スイショウオヒレンに関する事態は収束したと宣言する(怪獣対策研究省)





 あたし達が東京都立川市の本省に帰ってきたのが1時を少し回ったところ。


 怪獣を対処するのは時間がかかるし、何より重労働だ。肉体ではないが、心や精神といったあたりをゴリゴリ削る。

 今でこそ慣れたが、一時的とはいえ、民間も含めた全権が統括である自分の肩に乗っかかるのはかなりの精神力がいる。


 今度出勤するときは、スイショウオヒレン関連の書類作成などに没頭することになるだろう。


 しかし死者0人は本当によかった。負傷者は出たが、いずれも意識はあり、後遺症などの心配はないという。


 私は自転車通勤だ。しかし、いつものことだが、体が重い。帰ったら寝るしかない……


「三隅さん」


 そう声をかけてきたのは、顔のいい檜山さんだった。横には土井君もいる。


「居酒屋いきませんか?」


 そういってお猪口をもつしぐさをする檜山さん。かわいい。


「立川駅に美味しい居酒屋見つけたんですよ。朝までやってるんです」


 土井君はそういって妙に楽しげに話す。


「えーっ、じゃあ行くしかないなあ……」


 私は笑みを浮かべながら、檜山さんと土井君のほうへ、自転車を押して歩いていく。体も軽くなる。妙にうれしい気持ちになっていく自分に気付いた。



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