大吾、大阪へ
翌朝。
屋上の夜が明ける前、大吾は既に決めていた。
寸止めで京子の心を掴んだ瞬間から、行動は必然だった。
「……よし、動く」
大吾は仲間に宣言した。
「俺は大阪のヤクザの会長の娘と結婚する」
周囲は一瞬静まり返ったが、すぐにざわめきが広がる。
「は? マジで会長の娘?」
「大阪まで行くつもりか?」
誰もが驚き、しかしその決意の強さに逆らえない空気があった。
大吾は京子の手を取り、短く言った。
「大阪へ行くぞ。虎吉の許しをもらわなあかん」
京子は軽くうなずいた。
「……わかったわ。付き合うわよ」
二人はそのまま養成所を抜け、東京駅へ。
新幹線の車内で、京子は教科書を肩に抱えつつも、初めて心から安心した表情を見せる。
大吾は横でスマホを操作し、虎吉の居場所や警備情報を確認する。
「父上は警戒心が強い。変に構えると怒るやろう」
大吾は低く笑いながら言う。
京子も微笑んだ。
「……でも、それも面白そうね」
二人は互いの手を握り締め、列車の窓に映る東京の街並みを眺める。
もう戦いは終わったわけではない。
だが、互いの心は確かにつながった。
大阪への道は長い。
だが、その距離さえ、二人にとっては希望に満ちた時間だった。




