対峙
夜。
京子はスマホを握り締め、情報を大阪に流そうとした。
だが、養成所内は完全な電波遮断。
送信ボタンを押しても、画面の丸いアイコンがずっと回るだけだった。
「……くそっ」
思わず小さく舌打ちをする京子。
電波が届かないなら、物理的に脱出して送るしかない。
頭の中でルートを考えながら、自然と足は屋上へ向かっていた。
階段を上る京子。
夜風が強く、髪を揺らす。
すると、屋上の端に小さな影があった。
――タバコの煙が揺れている。
「……え?」
そこには大吾が立っていた。
手にはライターと煙、鋭い目つき。
だがその目は、獲物を見るような冷たさではなく、
柔らかく、強く京子だけを捕らえていた。
大吾は低く、静かに笑った。
「……やっぱり、来ると思ったんや」
京子は息を飲む。
どうやら、この男は……ただの東城会の幹部ではない。
大吾は京子が虎吉の娘であることを東城会の総力を上げて調べていた。
自室では接触できないと予想し、屋上に来るだろうと読み、なんと2週間近くもテントを張って待っていたのだ。
「……2週間?」
京子は思わず口をつく。
「せや。お前がここに来るまで、俺はここで待ってた」
大吾の声には、焦りでも恐怖でもなく、
静かで確信に満ちていた。
京子はスマホをポケットにしまう。
情報はまだ送れない。
だが、この“偶然の邂逅”が、夜の屋上に別の緊張感と化学反応を生む。
大吾はタバコの火を消し、京子に向き直る。
「……情報はどうでもええ。俺はお前を、直接見たいだけや」
京子はその言葉に微かな笑みを浮かべながらも、
背後の夜景をちらりと確認する。
養成所、東京、そして大阪。
世界のどこからでも、互いに干渉できるほど、二人の距離は縮まっていた。




