それぞれの覚悟
京子は決めた。
“覚悟”を、身体に刻む事
背中に墨を入れた。
ただの虎でも、ただのジャイアンツでもない。
時代の象徴。
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背中いっぱいに描かれたのは――
12球団のマスコット達が、円になって
ビールかけをして笑ってる絵。
ジャンルも地域も、セ・パも関係無い。
優勝とか順位とかを越えた
「球団の壁を超えて、同じ酒を浴びる」
そんな“新しい形の兄弟”の墨。
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彫師は、彫り終わった背中を見てぽつりと言った。
「……こんなん、誰も入れた事ないわ。」
京子は微笑んだ。
「せやろ。せやから新時代なんや。」
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背中の墨は、表に出る事は少ない。
だけど、組の中では一瞬で噂になった。
“球団で争う時代は終わったんや”
京子の背中が、それを象徴した。
また、大吾も、京子のその背中を見て覚悟が決まった。
長い間、東城会の象徴として背負い続けてきた
不動明王の刺青。
それは、代を継いだ証であり、
「守るために牙を剥く存在」そのものだった。
しかし 大吾はその不動明王を “剥がした”。
何十時間もかけて、痛みを飲み込みながら。
彫師も呆れた。
「会長が背中を変えるなんて……聞いたことないですよ」
大吾は静かに答えた。
「古い象徴じゃ、もう時代は動かねぇ」
そうして、空になった背中に
笑顔の京子
を彫り込んだ。
花ではなく
虎でもなく
戦神でもない。
ただ、横で笑う京子の“素顔”。
それこそが、これから東城会を導く灯になると大吾は信じた。
刺青を見た京子は、言葉を失ったあと
ゆっくりと涙をこぼした。
大吾は言う。
「俺の背中は、もう“守る象徴”じゃない。
“未来を選んだ女”一人のためのものだ。」
こうして、男の背中と女の背中。
それぞれが
古い争いの終わりと
新しい時代の始まり
を、永久に刻んだ。




