新時代
それからの日々は、まさに“新時代”が始まる日々だった。
京子は東京に拠点を移し、
東城会 会長・大吾を常に最も近い距離で支えた。
東城会本部に京子の姿があるだけで、
どこか空気が変わった。
大吾は、会議の冒頭でこう言った。
「俺は、もう誰にも“押し付けられた loyalty”はいらない。」
そして、歴史の中でも最大級の改定を宣言する。
初代会長が作った古臭い掟――
【東城会組員は、巨人を必ず応援すること】
これを、正式に撤廃した。
ホール中の構成員たちが騒めいた。
「つまり…自由に、どこの球団を応援してもいい――?」
大吾は、静かに頷いた。
「そうだ。阪神でも、カープでも、ホークスでも。
野球の好みで上下を決める時代は、今日で終わりだ。」
また、大吾は約束通り動いた。
養成所を卒業したヤクザのうち、
「関西でやっていきたい」と希望した者達を、正式に振り分ける制度を作り、
虎吉が仕切る『阪神タイガース日本1番会』へ送ったのだ。
これは一見、ただの人員移動だったが――
ヤクザ界においては、“家と家の人材交換”はほぼ外交そのもの。
つまり、これは
東城会と阪神タイガース日本1番会の“正式な兄弟化”
を意味していた。
東京の夜の街では噂になった。
「東城会、ついに巨人縛りを捨てたらしい」
「大吾の時代は、マジで変わるぞ」
「阪神側からも、東城に人が流れ始めてる」
京子は、そんな世間のざわめきを横で聞きながら、
大吾の机の横で書類を整理していた。
「大吾。これ…本当に大きな改革やと思うよ。」
大吾はタバコを消しながら、
書類に一筆、署名しながら答える。
「巨人だ阪神だで、敵だ味方だってやりあってた。
そんな下らない分断、俺らの代で終わらせる。」
京子は黙って、その横顔を見る。
大吾の視線は、もう“東京”しか見ていなかった過去を捨て、
“日本全体”を見据えていた。
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東城会は
「巨人以外のユニフォームが歩いてると違和感」
の組織から
「それぞれの軍団カラーが混在する」
新しい組織へ――
確かに変わりつつあった。




