東への刺客
大阪。
阪神タイガース日本1番会。
産屋敷タイガース虎吉一派は揺れていた。
東城会が都内に
“7階建ての豪華ヤクザ養成所”
を密かに作り、未来の東城会を担う若いエリート極道を
大量生産する計画を進めている――
そういう噂を、確かな筋から掴んだのだ。
もし本当なら、
勢力図は一気にひっくり返る。
虎吉は、テーブルの灰皿を押し退けるように肘で押し、
静かに決めた。
「――京子を潜らせる」
その瞬間、部屋の空気が止まった。
虎吉の一人娘、京子。
ただ若いだけじゃない。
喧嘩は強い、度胸もある、頭も回る、
そして誰からも油断される “女” というカードを持っている。
虎吉は決めていた。
京子はただの見学者として潜り込むんじゃない。
未来のエリート達の女神として君臨し、
中心まで手を突っ込ませる。
「作戦名は…
**『のぞき見作戦』や!!』」
部屋の空気が止まる。
盃を持ってた若衆、
プルプル震えながら耐えられず噴き出した。
「親っさん、せめて“潜入作戦”とか他に…!」
「アホ! 潜入いうたら潜入ってバレるやろが!
のぞき見って言ってたらただの暇つぶしに聞こえるやろ!」
虎吉の謎理論に、誰も反論できない。
「そういうもんか…?」
「そういうもんや」
京子は静かに髪を結びながら言った。
「私はその“のぞき見作戦”、成功させるわ」
虎吉はうなずいた。
ただの間抜けな名前だが、
狙いは本気だ。
京子の潜入――“のぞき見作戦”
それは、東城会精鋭養成所の未来を丸裸にするための、
大阪からの一刺しだった。
京子が7階建ての “養成所” に足を踏み入れるとき、大阪と東京の極道史は、確実に一行だけ変わる。




