15
毎日のように伝書獣がやってきては、カイン様の言伝を置いてしばらく私と触れ合うことが日課になってしまっていた。
最近では待ち遠しくなって早めに起きて扉を開けて待っている自分がいる。今日も朝から小鳥ちゃんがやってきて、カイン様からのおはようの挨拶を置いて行ってくれた。
時々、夜になるとロイくんもやってくる時があってよく扉を引っ掻いて教えてくれる。
今日もやって来たのか扉をさっきから引っ掻いて教えてくれていた。
「お待たせしました、ロイくん。そういえば久しぶりですね。任務でしたか」
「ウォフ」
「そうでしたか、ではお疲れでしょうから治癒魔法をかけましょう」
気持ちよさそうに体全部で魔法をうけた後、首を見せ魔法石を示してきた。
そっと掌にのせカイン様の声に耳を傾ける。
『こんばんは、エルミア。
今日は一日何をしていたのかな?
ケーキをたくさん食べたかな?
今日はケーキを六個も食べられた、私は凄い!って言ってないかな?
小鳥とは楽しくすごせたかな?
何でもない日常でもエルミアの事なら知りたいし、聞きたいんだ。
エルミア、毎日笑ってる?
君には笑っていてほしいんだ。
笑ったエルミアが好きなんだ。
君がずっと笑っていられる日が必ずくる。
辛い事があったらなんでも話してくれ。
君は独りじゃないんだよ。
私の心の中にはいつもエルミアがいていろんな感情をくれる。
会えない今は、もどかしい気持ちで過ごしている日が多くなってしまった。
そんな最中に急遽、国に戻らなければならなくなった。
明日の朝にはここを発つ予定だ。
国の任務が終わり次第また戻ってくる。
その任務には、ロイも行くことになった。だから今日一晩ロイを向かわせたから癒やしてあげてほしい。
一緒に寝ると暖かいからエルミアもきっと癒やされる。
私がすでに確認済みだ。
少しの間離れてしまうが、小鳥たちは残っているからいつでも伝言を頼むといい。
離れていても心はともにある。
そして、この先エルミアとずっと一緒にいられるようになりたいと思っている。
私が戻るまで元気で待っていてくれ。
エルミア、ロイ、ゆっくりお休み。いい夢を。』
「ずっと一緒……」
その言葉に微笑みながら届くはずのない気持ちを呟く。
「カイン様、ありがとう……。ロイくん、明日帰ってしまうのですね。寂しいです。今日は一緒に寝てくれますか?」
「ウォフ」
いつもより大きな返事を聞いてからロイくんを抱きしめた。
抱きしめている間、ずっとクーンと鳴いているロイくんも別れを惜しんでいるかのようだった。
次の朝目覚めると、隣で寝ていたはずのロイくんの姿はなかった。
暖かいぬくもりが消えたことにカイン様が帰国してしまったということを実感するには十分だった。
レラノーク国の一行が帰国してすぐ、慌ただしく動きを見せ始めた殿下の直属の部下達は、戦闘に備えるべく素早く場所を移していた。城の中での行動が万が一にも国王に知られないようにするため準備が整い次第、自分も向かうことになるだろう。頭の中も心も無気力で沈んでいるとセイアス殿下から呼び出された。
「日暮れと同時にここを立つ。準備は済んでいるのかな?」
目を細め不敵な笑みを浮かべるセイアス殿下は、椅子に座りこちらの真意を確かめるようにじっと見据えてきた。
「ここ数日間、慌ただしく行動をとり外部に知られてしまっているのではないでしょうか」
「それなら問題はない。森の奥での魔物情報が入りそれに対応する為だと伝えてある」
用意周到に物事を進めるあたりは国を治めるべく幼い頃からの努力の賜物だと思う。
「町にも食料確保や貴族達の退避命令を出したと聞きましたが、このことを国王が知らずにいるはずがありません」
「それは宰相が上手くやってくれている。そんな心配をするより自分の役割を考えろ。上手くやってくれなければ、今までの事が台無しになる。いいか、失敗は出来ない。家族を大切に思うなら失敗しないことだな」
家族という言葉に胸が締め付けられ、握っていた手をさらにきつく握りしめる。
「向かう場所は何処でしょうか」
「宰相の別荘地のある場所だ。木々が生い茂っている森の奥に行くことになる」
「わかりました。まだ準備がありますのでこれにて失礼させていただきます」
これ以上、薄気味悪い顔を見ていたくなくて要件を聞き部屋を後にする。
(カイン様、私はどうすればいいのでしょう。誰も傷つけたくはないのです)
身動きがとれなくてどうすることも出来ない自分が不甲斐ない。
途方に暮れて窓からの景色を眺めているとカイン様の声が頭の中に響いた。
『エルミア、君は独りじゃない。
何でも話してごらん』
「私は独りじゃない……」
窓を開けて伝書獣を探すと、待っていたかのように小鳥が部屋の中に飛んできた。
すぐに魔法石を取り出し、石に思いを込める。
どうかカイン様に伝わりますようにと、そっと小鳥を撫でてから空の遠く、見えなくなるまで見送った。