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一日の講義内容をまとめるとソファーに座り一息つく。
この国に来て、忙しい毎日を送りながら相変わらず会えないエルミアの事を思い浮かべる。数日前に偶然会えた時、思わず駆け寄ったが護衛に阻止され引き離されてしまった。
今思うと護衛というより監視役のようなものだろうと思う。
会えない今は、他にやらなければならない事を優先させ任務を遂行しようと考える。
魔法を学ぶという名目で、魔導士団の中に入りいろいろと探っているが、目立った動きは今のところ見せてはいない。
我々がいるおかげで身動きがとれないでいるのかと思うと尻尾をつかむには団長に相談しなければならない。
考えを巡らしていると、夜風がカーテンを揺らしふわりと舞い上がった。舞い上がった瞬間、扉の隙間からロイが姿を見せた。
「ロイか、任務で疲れているのにエルミアへの伝達、ありがとう」
そっと撫でると、先ほど会った時より毛並みが艶めきを放っている。
「エルミアに治癒魔法をかけてもらったんだね。爪先の傷も綺麗に治っている。彼女は元気だったかい?」
その言葉と同時にロイは首元を見せてきた。
「もしかして、返事をもらえたのかな?」
魔法石を取り出し掌にのせてみる。
『カイン様、ありがとう。
心配……していますよね?
私は、この国の魔導士としての仕事をしているだけですので心配しなくても大丈夫です。
なかなか会えないのは寂しいですけれど……。
カイン様と会ってたくさんお話したいです。
その時は聞いてくれますか?
長いお話になってしまいますが……。
初めての伝達で何を話していいのかまとまりませんのでこれで失礼させていただきます。
それとケーキはたくさん食べてはいませんよ。
今日はたまたま五個食べてしまいましたが……。
カイン様、お体に気をつけて頑張ってください。
ロイくんと会える日を楽しみにしています』
「ロイ、良かったな。エルミアが楽しみに待っているそうだ」
「ウォフ」
今回は深い話まではしてはくれなかったが、カイン様と初めて呼ばれたことに胸が熱くなってしまった。
心を開いてすべて話してくれるまではもう少し時間がかかりそうだが、今まで話せなかった分たくさん話そうと思う。
(それだけ頑なに心を閉ざしている彼女を今すぐ抱きしめてあげたい。
幼い頃にはなかった気持ちがもう一つ増えているのがわかる。
この気持ちをエルミアに伝えたい……)
魔法石を握りしめたまま目を閉じ、エルミアの顔を思い出す。
彼女は最近、笑っているのだろうか。
「ロイ、明日の朝は小鳥にエルミアへの伝達をたのむ。だからゆっくり体を休めてくれ。数日後には団長への伝達をお願いすることになりそうだから」
「ウォフ」
少しでも笑っていてほしくて、今いる伝書獣達を送りこもうと考えた。
次々とやってくる動物達にどんな反応を見せるのかわからないが、きっと笑って迎えてくれるだろうと思うと心が少し軽くなった。