13
イーザン国に戻ってから数日、部屋から出る時は必ず護衛が付いてきた。
護衛とは名ばかりで常に監視され余計な接触は止められ、常にセイアス殿下へ報告がされていた。
カイン様とも会えない毎日が続いていたが親善を目的とした交流会に参加したり、魔導士団での講義や魔法実技など忙しい日々を送っているようだった。
ほとんどが侍女から聞いたものだったけれど彼女達の情報は確かなものが多いのでカイン様も元気で過ごしているようで安心した。
なかには、交流会で令嬢達に囲まれていたという聞きたくないことまで知らされて、もやっとする思いまでして会えないもどかしさで気分が沈んでしまう時もあった。
そういう日に限ってセイアス殿下と宰相に呼び出され計画の進展と、再度脅し文句を言われるとベッドの中に潜り込んでうずくまってでてきたくなくなってしまう。
カイン様達がいるおかげで二人とも目立った動きを見せず、大人しくしているけれどいつかは帰国することを思うと気が滅入る。
独りで部屋に閉じこもっていると、時がどのくらいたったのか解らず、このまま眠ってしまおうかと目を閉じていると何処からか物音がしてきた。最初は風で揺らぐ木々の音かなと思って聞いていたけれど、規則正しい音に違和感を感じ音がする方へそっと近づいてみる。ベランダへと続く扉から物をこすっているような感じの音に恐る恐るカーテンを開けてみると、一匹のオオカミが扉を引っ掻いていた。
「オオカミ……。何故こんなところに……。何か咥えてる? カイン様のハンカチ?」
フォルスター家の紋章が入ったハンカチを咥えたオオカミは、扉から下がりちょこんと座り一礼をする。お行儀よくお座りして扉を開けてくれるのを待っているようだった。
「もしかして……カイン様のお使いかしら」
少し怖かったけれどそっと扉を開けて様子を見る。
襲うような気配はなく、飼いならされているような動作で部屋に入るなりエルミアにハンカチを渡してきた。渡し終えるとお座りをして顔を天井に向け首元を見せてきた。
「首に下がっている小箱は何? オオカミさん開けますね」
「ウォフ」
小箱の中には魔法石が入っていて掌に乗せると声が聞こえてきた。
『エルミア元気か。
なかなか会えない今、我が国の伝書獣を向かわせた。
魔導騎士団に所属する同士であり信頼できる仲間でもある。
名前はロイだ。
オオカミだが人を襲うことはない。まぁ……少しプライドは高いが。
伝達内容を込めた魔法石を運ぶのが主な任務だ。
魔法を使うとばれてしまう可能性があるからこれからはロイにお願いしようと思う。
エルミア……困っている事はないか?
辛い事はないか?
泣いていないか?
何でもいい……伝えたい事があったら教えてくれ。
今日はケーキをたくさん食べ過ぎちゃった、でもいいぞ。
石に念じながら伝えれば中に言葉が入るようになっている。
時々、伝書獣が尋ねると思うが仲良くしてやってくれ。
あと、たまに返事をくれると嬉しいのだが。
エルミア、いい夢を……おやすみ』
久しぶりに聞いたカイン様の声に安心して涙が零れた。
「ロイ……ロイくん」
「ウォフ」
「ありがとう、運んでくれて。任務お疲れ様」
そっと頭から首まで撫でていると足先から血が滲んでいるのが見えた。
「ロイくん、爪の間から血が出てる……任務でたくさん走ってきたの?」
「ウォフ」
「今、治してあげるね。任務の疲れもとりましょう」
治癒魔法をロイくんにかけると気持ちよさそうに目を閉じてクーンと一声鳴いた。
「ロイくん、私の声も届けてくれますか?」
「ウォフ」
きりっとした返事を聞き、カイン様へと届ける魔法石を握りしめた。