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車窓からはキラキラと輝く波が眼下に広がり、飛んでいることを実感させられる。
ここ数日は多忙すぎて少し目を閉じたいところだがこの景色を見ないともったいない気がして眠気とどうしようもない戦いをしている。
イーザン国までは飛翔魔法で向かうことが決まってからの団長は、まるで子供のような態度で正直疲れてしまった。自分が体験したい、自分が行くべきだ、俺は偉いから行く、など言い始めしまいには勝手な行動をとろうと画策まで練り始めてしまったから留めるのが本当に大変だった。
最終的には国王の一言で思いとどまったからよかったものの研究に熱心すぎて暴走しそうになるのはどうかと思ってしまう。
確かに飛翔魔法を体験している今は、感動と興奮が入り混じって団長の気持ちも少し解らないでもないが……。
エルミアとは要望書を届けた日以来、会ってはいない。
王太子とともに別れの挨拶をしてすぐに馬車に乗り込んでしまい横顔を見ただけで近づくことさえ出来なかった。
団長曰く――無理な接触をして警戒心をさらに強めてしまったオオカミくんみたいな感じ……。
まったく意味が解らないが、今は接触さえできなくなったエルミアに寄り添い話すにはかなり無理がある。
(接触せずに話す方法……オオカミ……。そうだ、ロイに頼んでみよう。これなら気づかれることなく話せる。ロイならきっとやってくれる。数日間で衣食住を共にし、信頼関係をしっかり築いておいて良かった)
問題が一つ解決し、ほっとして車窓から景色を見ると先ほどまで海の上だったが今は森の上を飛んでいた。そして、遠くに街並みが見えてきた。
イーザン国……。
「エルミア、こんなにも大きな荷物を運んで疲れただろう。着いたらゆっくり休むんだぞ」
列の先頭を走る王族専用の馬車が見え、エルミアに届くはずもない言葉をそっと呟く。
遠くから王族の帰郷を知らせる鐘の音が聞こえてきた。