小話
朝から山積みの仕事を黙々とこなし、時折現れない団長を気にしながらため息をつく。
近々、イーザン国へと向かうことになってある程度の仕事を片付けていかなければと焦る気持ちだけが先走り、思っているほど仕事が手につかなくなってきていると扉が勢いよく開け放たれ思わず体が反応する。
「おっはよー、今日はいい天気だね」
「もう昼ですが、いい天気ですね」
やっときた団長にあきれた顔を向けると、並んで立つオオカミに目が止まった。
「紹介するよ、魔導騎士団所属オオカミのロイくんです。カイン、ロイ、お互いに挨拶して」
上機嫌な団長の横に毛色がキラキラと輝く銀狼が、凛々しく座ってこちらをじっと見つめている。
これから任務をともにこなす同士としてはじめの挨拶は大切だと思い、ゆっくり近づいていくと急にロイは頭を下げた。目線を合わせるように私も跪き挨拶をしようとすると、再度、頭を下げ少し戸惑ってしまった。
「やっぱりね。ロイはエルフに敬意をはらっているんだね」
「やっぱりって団長は私がエルフ族だとわかっていたんですか?」
「まあね、魔法の質がちょっと違うんだよ。だからエルフ族かなと。瞳の色は違うけれど魔法攻撃の訓練を何度もしているとみんなとはちょっと違うから確信したんだ」
団長は両腕を組み、うんうんと頷きながらニコニコしている。
改めてロイを見ると、頭を上げお互いに目線が合う。
「私は、カイン・フォルスターだ。これから同士としてよろしくお願いします」
「ウォフ」
私の挨拶に答えるように返事をしたロイは、毛色と佇まいから気品高さが感じられた。
「ロイとカインは、数日行動を共にし、親睦を深めてね」
「わかりました」
「ウォフ」
「団長はエルフ族だとわかっても黙っていたのはどうしてですか?」
「いろいろと事情があるのはわかっていたし、それにあまり知られたくはないだろう?」
団長からの問いかけに思わず目線をそらし、うろたえてしまう。
「そうですね、できれば知られたくはないですね」
「昔からエルフ族は戦争の駒として虐げられていたし、まわりにもきっとエルフ族はいるはずだけど今はひっそり知られないように人々の中に溶け込んでいるようなこの世の中だしね。まあ、私からしたら魔法の質が違う特殊能力の人々くらいの認識だったしね」
さらっと差別的な感情をも持っていない団長の言葉を聞いて、曇りがちな感情が晴れていくのがわかり思わず笑ってしまった。
「カインが笑ってる。今日はいいことが起こるかもしれない」
「人の笑顔を、ラッキーアイテムみたいにたとえるのやめて下さい」
「だってめったにお目にかかれないんだよ。見た人はラッキーだと思うよ」
「はいはい」
半ばあきれて返事をかえし、ロイの背中にそっと手を置き、話しかける。
「数日間、よろしく頼むよ。ロイ」
「ウォフ」
浮かれている団長をほっといて改めて一人と一匹の決意表明を目線で合わせ確認した。
それから数日間、衣食住を共にし、訓練と任務をこなしてお互いに絆を深いものにしていった。