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「ふう……蛇に睨まれる気持ちとはこういう事を指すのかな」
「何をぶつぶつ言っているのですか? ここ最近、仕事もそっちのけで何をコソコソ動き回っているのです? おかげで仕事が山積みになっていますよ」
部屋に入るなり何か独り言を言っている団長に小言を言ってしまう。
「ふう……今、小言は聞きたくはないかな。蛇に睨まれたところでさ、小動物な気分」
「訳が分からないことを言ってないで団長の許可が必要な書類だけでも片付けてください」
机の上に積まれた書類から目を離さず仕事をしているカインに、やれやれと思いながらも団長は真面目な顔つきになり話はじめる。
「本当は君がエルミアちゃんの為に動くべきなんだけど、それは向こうに行ってからでもいいか」
「エルミアの為ですか? 意味が分からないのですが」
エルミアの名前に仕事の手を止め団長を見るとこちらに来るように呼ばれる。
「これから話す内容に感情的にならないように、できるかな」
「内容によってはわかりませんが、大丈夫かと思います」
いつになく真剣な顔に事の重大さが感じられる。
「エルミアちゃんはイーザン国に捕えられている」
「……えっ……エルミアが……」
突然信じられない事を言い出すので言葉を失って考え込んでいると、見かねた団長はつかさず話を続けた。
「私達が部屋から出た後に、エルミアちゃんが一人になる瞬間を待ってさっき接触したんだけど……確証ないけれど魔法封じされていると思う」
「魔法封じ? それは一昔前まで使われていた魔道具ですか?」
「そうだね、今は使われていないと思っていたけど……ローブを纏っているのは道具を隠す為だとすれば腕にはめるリングみたいなものじゃないかな」
「それは本当に確かなのですか? 何故わかったのですか?」
焦る気持ちからか前のめりになり次々と質問がでてしまい団長を困らせてしまう。
「落ち着いて……確証はないと言ったけどさっきエルミアちゃんの手を握った瞬間、魔力を感じられなかったんだ。純血に近いエルフは手を繋いだだけで魔力が伝わるというか……流れてくるというか……力をもらえるというか……」
「はぁ……団長の場合、最後の言葉が正しいのでは」
「どんな魔力かな……と、ちょっと興味があってね。おかげで気づけた訳だけど」
「何のために魔法封じをするのか全く意図が読めませんが」
「エルミアちゃんを使って何かはする予定なのかもね」
その一言に思わず立ち上がり今すぐ会って話さなければと歩き出す。
「あ……待って待って……冷静に」
「冷静でいられますか、助けに行く事を止めるなんて騎士団の名折れです」
「人質を取られているかも……と言っても君は行くのかな」
カインの歩みを止めるほどの一言に、思わず振り返り団長を見据える。
「エルフの魔力は強大だ。その力を持っているのに大人しくイーザン国に従い魔法封じのリングを自ら腕につけているとなると何か弱みを握られている……となると……人質をとられ脅されているのかな……とあくまでも推測なんだけれど」
「団長の勘はよく当たるので怖いです」
いつもとは違った笑みを浮かべる団長からは、確信という自信をもうかがえた。
「当たってほしくはないけど、ここからが君の出番かな。確証を得るまで少人数で動いてもらう。カインは常に彼女の傍に寄り添い話すこと。僕はここに残り指示を出すから情報は常に報告するように。魔法での伝書はなしね。ばれてしまう可能性があるから」
「では報告はどうすれば……」
「極秘任務は、伝書獣に頑張ってもらおっかな」
楽しそうな顔で話す団長は、自分が力を入れて育てている騎士団所属の伝書獣を任務にあたらせることが嬉しいらしい。
伝達する時はいつも魔法で行っているが今回はそうもいかない。
気づかれないようにするにはと考えた結果は、伝書獣でのやり取りが一番安全だと結論に至ったとは思うが、試す機会という絶好の状況では団長がワクワクするのは仕方がない。
まだ一度しか任務を共にしたことがないからいささか不安があるがよく働いてくれたのを思い出すと楽しみでもある。
伝達する内容を魔法石に入れそれを動物達に運ばせるという簡単なものだが、飼いならさなければ伝達途中で任務放棄という厄介な団員でもあるから時間をかけて団長が育てている。
「今回の任務は、昼は小鳥ちゃんで夜はオオカミくんにお願いしょうと思っているからカインは数日間の間に信頼関係を築いてくれるかな。手始めにオオカミくんと仲良くなってね」
「オオカミ……またペット増えてますね」
「ペットじゃないよ。同士だよ。騎士団所属なんだからね。ちなみにオオカミのロイくんはプライドが高いから丁重に扱うように。そうしないと噛まれるよ」
「えっ……噛む……」
笑顔で話してはいるが少しも安心できないし、全く心が読めないから苛立ちさえ感じてしまう。
いつもの事だと割り切り気持ちを切り替える。
目先の事に囚われているとまた周りが見えなくなってしまうので、目標を定めそれに向かっていこうと決意した。