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彼女の声ときみの神様

作者: 幸京

「神様を信じている人は手を挙げて下さい」

黒い目出し帽をかぶった犯人は、渦巻き型の中心に星があるシルバーのネックレスを左手で握り、俯き何かを呟きながら僕達に聞く。

固まって座っている数十人の老若男女の手があちこちで上がる。犯人と同じように神様を信じれば助かると思い、何人かは信じていない神様を信じていると手を挙げた様子も感じられた。

僕は手を上げず神様はやっぱりいないんだなと、あの日々を思い出す。


犯人は神様を信じている人達を順番に指名して、何故信じているのかをここにいる全員に聞こえるように話させた。指名された人達はそれぞれに、神様によりどう救われたのかを震えながらも話し終えると、座るように言われた。

「ありがとうございました。皆さんの信仰心はよく分かりました。でもここには神様を信じていない人達もいますね。むしろそっちの方がやや多い」手を挙げなかった人達の間に緊張が走るのが伝わり、挙手をして自らの信仰心を述べた人達からは、犯人を刺激しないように嘘でもいいから信じていると言っておけとの視線が感じられた。

「何故なんでしょう、神様を信じられないのは?そこのあなた、その訳を教えて下さい」

マシンガンを向けられた僕は立ち上がり、震えながら話す。

「僕の母は神様を信じていました。毎日欠かさずどんな時も神様にお祈りを欠かしませんでした。姉が10歳の時、高熱で苦しんでいても日課である朝と晩に1時間行うお祈りに行きました。そして次の日、姉は亡くなりました。神様のお札や絵や壺などを買ったことにより借金取りが来ました。それから弟とは生き別れ、父は過労死して、僕を児童養護施設に預けたまま、母の行方は分かりません。だから僕は家族をメチャクチャにした神様を信じられないんです」

話し終えた僕は変わらず震えながら犯人を見る。犯人は僕に向けていたマシンガンの銃口を下に向けると、視線で座るように促す。ほっとして座ると隣にいた老女が涙ぐみながら僕の背中をさする。僕の境遇に同情したのか、共に頑張ろうという励ましだったのか分からないがその瞬間、

「そこの背中をさすっているあなた、そうあなたです。何をしているのですか?壁の方まで行って下さい」犯人が狼狽える老女を指名して壁際まで歩かせると、マシンガンを老女に向けて十何発か撃った。銃声、血しぶきや弾けた身体と共に、あちこちで悲鳴があがる。確かあの人は神様を信じていた。終戦を迎え旦那さんが戦地から無事に帰ってくるように毎日お祈りをすると、数名の仲間と共に命からがら帰ってきたと話していた。

「今後、皆さんが不審な動きをしたり、外にいる警察が突入した時点で柱に取り付けたあの爆弾、見えますね?あれを爆発させます。ここは一階ですので、老朽化が進んでいるこのスーパーならあっという間に駐車場の二階は崩れ落ちます。ここにいる全員がどうなるかは神様次第ですね」


「お願い、崎本さんを助けてあげて」

犯人は続ける。

「初対面のその女性は懇願するように私にそう言いました。元恋人で同僚だった崎本さんから何年か振りに連絡がきて待ち合わせのファミレスに行くと、その女性からありきたりの神様の奇跡を聞かされ最後にそう勧誘されました。どうして私が入信することが崎本さんを助けることになるのか、まったく理解出来ませんでした。なので私は疑問をそのまま伝えるとその女性は続けました」

「お願い、崎本さんを助けてあげて」

「そもそも崎本さんに何かあったのだろうか?病気なのか?悩みがあるのか?勧誘紹介ノルマでもあるのか?何も分かりませんでしたが、一つだけ理解しました。神様の使いとは会話が成立しないのだと。私は自分が無神論者であることを伝え、その女性の隣で怯えたような顔をして何も言わない崎本さんに別れを告げファミレスを後にしました。崎本さんが自殺で亡くなったと職場の先輩から聞いたのは、それから2年後のことです。崎本さんが親の決めたお見合い相手と婚約して別れを切り出すまで、同性愛者であった私達は幸せな時間を過ごしていました。私は部屋にあった崎本さんの私物を引き取ってほしいと頼んで自宅に呼びました。その後、崎本さんは精神を病み一方的に婚約を破棄されたようです。さて皆さん、崎本さんが亡くなったのは誰の責任なのでしょうか?」

犯人は話し終えると一同を見回した。僕達はただ必死に泣くのをこらえ震えているか、宗教に勧誘した女性が悪い、貴方は何も悪くないと伝えるか、店外にいる警察官達を懇願するように見ているかのどれかだった。

「ちなみに入り口付近で死んでいる店員は崎本さんの元婚約者です。先ほど銃口を押し当て、どうして崎本さんと婚約破棄したのか、正直に答えるように尋ねました。彼は崎本さんから同性と付き合っていたがその恋人に別れを告げるとそいつに犯され動画を撮られたと聞いた、自分は騙された被害者だと訴えました」

犯人はそう言いながらマシンガンをフロアに置き、内ポケットから小型銃を取り出すと、撃たれてバラバラになった老女を見ながら続ける。

「そこで旦那さんが戦地から帰ってくるようにお祈りしていた女性は、病んでいた崎本さんを宗教に入信させ借金まみれにしました。他にも同じような被害者がいたようです」

そして小型銃を自分のこめかみに当てる。

「崎本さん。動画のスイッチは入れていなかったよ、ごめんなさい」

そう言ってシルバーのネックレスにキスをすると、銃声が店内に響いた。


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