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60 推せる二人

「聖女様!ご結婚おめでとうございます!」

「きゃー!セル様!素敵!」

「見て!リリア様美しいわ……聖女様を拝顔できるだなんてなんて幸せなのかしら」

「あのドレスの色、セル様の瞳の色よね。素敵!」

「お二人はやっぱりお似合いだな」


 あちこちから歓声が沸き起こっている。この日、リリアとセルは城下町を馬車で巡るパレードを行っていた。このパレードは二人の結婚を国民にお披露目するためのもので、このパレードの後に王城内で正式な結婚式を挙げることになっている。


 馬車は天井がなくオープンになっており、リリアとセルの顔が見えるようになっている。細かい宝石が散りばめられた淡い赤色のカラードレスに身を包んだリリアは、いつものように完璧な美しい笑顔で民衆に手を振り、礼服に身を包んだセルは相変わらず無表情だが周囲への警戒を怠らない。


「セル、もう少し口角を上げた方がいいのではないですか?せっかくのパレードですし、皆さん喜んでくれているのに……」


 リリアが笑顔のまま小声でセルへ話しかける。


「俺は元々無表情だから、今更微笑んだところで気味悪がられるだけだ。それに、リリアを警護するのが俺の役目だ」

「馬車には護衛魔法もかかっていますし、そんなに警戒しなくても大丈夫じゃないですか?」

「それでも、だ。……それに、そんな綺麗な姿を俺以外の人間が、こんなにたくさん見るというのが正直気に食わない。そんなこと言っても仕方ないのはわかっているけどな」


 ほんの少し眉を顰めながら、セルは目線を周囲にくまなく向けている。


(セルったら、朝からずっと不機嫌そうだったのはそのせいなのかしら?)


 この日までに何度も入念な打ち合わせが行われ、ドレス選びにも国の重鎮たちが口を出し、その度にセルは気に食わんと言わんばかりの顔をしていた。それでも、ドレスの試着の時にはリリアをほめちぎり、今朝も、ドレスを着たリリアを見てまた褒めちぎり、リリアを抱きしめながらどこにも出したくないとだだをこねたのだ。


「……私が聖女じゃなかったら、セルにそんな思いをさせることもなかったんでしょうね。でも、聖女じゃなかったらきっとセルと出会うこともなかったし、セルにこんなにも思ってもらえることはなかったんだと思います。そう考えると、なんだか複雑です」


 この国の聖女だからこそ、こんなにも盛大に祝われ、たくさんの人の注目を浴びる。ただの一般人であれば、こんな体験はしないのだ。でも、ただの一般人であれば、騎士団長であるセルと出会う事すらなかっただろう。きっとセルに好かれることも、セルを好きになることもなかった。リリアはそう思って、ほんの少しだけ苦笑した。


 リリアの何気ないその一言を聞いて、セルは思わずリリアを凝視する。見開かれた瞳はすぐにまたいつもの気だるげな瞳に戻ったが、リリアの膝に置かれた手をそっと握った。


「今そんなことを言うのは反則だろう。今すぐにでもリリアを抱きしめたくなる」

「えっ?」


 ぎゅっとリリアの手を握る力が強くなり、リリアを見つめるルビー色の瞳には熱がこもっている。まるで、リリアが好きだ、愛おしい、いじらしい、抱きしめたい、愛していると瞳が饒舌に訴えかけてくるようだ。セルと見つめ合う形になったリリアは、そのセルの様子に思わず頬を赤らめた。


(って、いけないけいない!今はパレード中よ、私は聖女リリア。皆の望む、理想の聖女なんだから)


 リリアはハッとしてすぐにセルから視線をそらし、また民衆へ笑顔で手を振る。セルは一瞬ほんの少しだけ口角をあげるとすぐに真顔になり、周囲を警戒するように視線を向けた。




 二人のその様子が運よく見えた民衆は、馬車が通り過ぎると集まってわいわいと話をしている。


「ねえ、今リリア様とセル様、見つめ合ってなかった?」

「リリア様、すぐにまたこちらへ視線を戻したけど、顔赤かったわよね」

「表情もいつも以上にすごく柔らかくて優しくて……あの完璧なリリア様があんなに表情を崩すだなんて、セル様すごいわ」

「あの完璧な聖女様のあんな表情を見れるなんてレアだろ!今日はついてるぞ」

「聖女様のこと、さらに好きになっちゃった」

「セル様もね!女性関係にあまりいい噂を聞かなかったけど、実際はリリア様一筋だって言うし、こうして二人の様子を目の当たりにすると頷けるわ。推せる」

「「「推せる」」」



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