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59 騎士団長の秘密

「国王と結婚式の話をする時、リリアに話さなければいけないことがあるんだ。驚くかもしれないが、できればあまり気にしないでほしい」


 国王を交えてリリアとセルが結婚式の打ち合わせをする当日の朝、セルは真剣な顔でリリアにそう言った。リリアは、首をかしげつつもわかりましたと答える。


(あんなに真剣な顔で、一体何かしら?セルの秘密とか?でも国王様の前でってことは、国王様もご存じってことよね?)


 さっぱり予想できない。そうこうしているうちに、謁見室に通され国王の前に来ていた。


「おお、セルにリリアよ。よく来たな。ついに結婚式を挙げる気になったと聞いて余は嬉しいぞ。規模や来賓、リリアのドレスについてなど話し合いたいことはたくさんある」


(わあ、国王様、めちゃめちゃやる気満々だわ……)


 国王の意気込みに、リリアはいつもの完璧な笑顔を向けつつ内心ちょっと引いていた。


「そのまえに陛下。リリアに伝えなければいけないことがあります」

「ほう?」

「我々のことについてです」

「……そなた、まだリリアに言っておらなんだのか?」


(我々のことについて?)


 セルと国王の会話を聞きながら、リリアは頭の上にはてなを浮かべていた。国王とセルの間に、何かあるのだろうか?あるとしたらいったい何が?先を促すようにセルをジッと見つめると、セルはいつもの淡々とした気だるげな瞳をほんの少しだけ不安げに揺らす。


「リリア、実は陛下と俺は実の親子だ」

「……はい?」


 リリアは完璧な笑みを浮かべたまま、疑問を口にする。


「セルは儂の四人目の子ども。継承権はとっくに破棄しているが、実際は第四王子にあたる」

「……はい?」


 リリアは、まだかろうじて完璧な笑みを崩さず、再度疑問を口にした。


「……セルは確かヴォルグスタ公爵家の次男だとお聞きしていますが」

「表向きはそうじゃ。実際は、儂の四人目の子どもであり、ヴォルグスタ公爵に養子として迎えてもらったのだ」

「養子……」

「俺はそもそも王位継承権に興味が無かったし、継承争いに巻き込まれたくなかった。だから、成人と共に養子として迎え入れてもらったんだ。黙っていてすまない。隠していたわけではないんだが、言うタイミングを逃してしまい、今に至った」

「はあ……」


 リリアはついに、完璧な笑顔を手放していた。ポカンとした顔でセルを見つめている。そんなリリアを見て国王は楽しそうな顔をしていた。


「あの完璧な聖女が表情を崩すなど、なかなか見れることではない。さすがはセルじゃな」


 国王の言葉に、リリアはハッとしてすぐにまた笑顔をつくる。だが、セルは複雑そうな顔でリリアを見たままだ。


(……なるほど、だから国王からの信頼も厚いし、国王直々に婚約者候補まで勧めてきていたというわけね)


 騎士団長にしては国王との距離が近いとは思っていたが、それはセルの実力がそうさせていたのだと思っていた。しかし、どうやらそれだけではないらしい。リリアが脳内の中で納得していると、ふとセルがまだ不安そうな顔をしていることに気付く。


「そんな顔しないでください。驚きましたけど、驚いただけです。それに、セルが実は国王様の実子だったからと言って、今更態度を変えるつもりもありませんし、もちろん他言はしません」

「そうしてもらえると助かる」


 にっこりと微笑むリリアに、国王は安堵する。セルも、少しだけホッとしたようだ。


「それでは、セルとリリアの結婚式について話を始めるとするか」





(はあ、すっっごく長かったしなんか色々ありすぎて疲れた!)


 国王との打ち合わせが終わり、屋敷に戻って来たリリアとセルは、リビングに入るとソファになだれ込んだ。


「つ、疲れました……」

「さすがに長丁場だったな。それにまだこれで終わったわけじゃないらしいし、先が思いやられる。どうして陛下はあんなにもやる気に満ちているんだ」


 はあ、とため息をついてセルは前髪をかき分ける。気だるげな瞳はいつも以上にアンニュイで、色気のすごさにリリアは思わず見とれてしまう。それをごまかすために、リリアは慌てて口を開いた。


「やっぱり、実の息子の結婚式は嬉しいんじゃないですか?きっと国王様も浮かれてらっしゃるんですよ」


 リリアの言葉に、セルは一瞬固まると、また小さくため息をついた。


「あ、もしかして屋敷でこの話はダメでしたか?すみません」


 ハッとしてリリアが慌てて謝ると、セルは否定するように首を振った。


「いや、屋敷の人間はみんな知っている。口外しないように魔法契約も行っているから問題ないよ」

「そう、でしたか」


(知らなかったのは私だけなのね)


 ほんの少し、寂しい気持ちになってリリアはしゅんとしてしまう。それを見て、セルはリリアを抱き上げて自分の膝へ座らせた。


「えっ、セル?」

「すまない、すぐにリリアに打ち明けるべきだった」

「そんな、別に気にしなくても……」

「でも、なんだか寂しそうな顔をしている」


 そう言って、セルはリリアの頬へそっと片手を伸ばした。


「……寂しくは、あります。やっぱり。でも、別に怒ったりしてませんし、すねてるわけでもありませんよ?」

「ああ」


 頬に添えられたセルの手をそっと掴んで、リリアはセルをジッと見つめる。


「私、国王様とセルの距離が近いのは、セルが騎士団長として頼れる存在だからだとばかり思っていました。でも、それだけじゃなかったんですね」


 リリアがそう言うと、セルは少しだけ不服そうな表情になった。ふと、リリアは自分の言った言葉に違和感を感じて考え込む。


「……もしかして、セルは国王の子どもだからと言うだけで贔屓されるのが嫌だったのでは?だからこそ、鍛錬を積み重ね、剣術も魔術も誰にも負けないくらいすごい実力を持つようになった。そして、実際にその実力が認められて、国王は息子としてだけではなく、セル自身を信頼している。うん、きっとそうですね。やっぱり、そう考えるとセルはすごいです!」


 リリアの言葉に、セルは驚いてリリアを見つめた。


「国王の息子ということに胡坐をかくことなく、傲慢になることもなく、ただひたすらに実力を磨き上げてきた。そして揺るがない地位を築いて、セルは国王にも国民にも信頼される騎士団長になったんですよね。やっぱり、セルはすごいですよ!かっこよくて素敵です」


 フフッと嬉しそうに笑ってから、ふとリリアは我に返る。


(あれ、私、本人を目の前に何を言って……本心だけど、すごく恥ずかしい!)


「す、すみません!今のは忘れてください!」


 真っ赤になって慌てるリリアに、セルは愛おしい気持ちが溢れて止まらない。思わずセルはリリアを抱きしめる。


「セ、セル……?」

「今のリリアの言葉で、今までの俺の全てが報われた気がしたよ。ありがとう、リリア」


 ぎゅうっと抱きしめる力が強くなる。そんなセルの背中にリリアも手を回して、頬を赤らめながら嬉しそうに抱きしめ返した。




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