57 兄への報告
リリアとセルが聖女交流会から帰ってきてから二週間が経った。この日、二人はガイザーの屋敷へ招かれていた。
「聖女を狙った過激派?」
リリアとセルから、交流会での出来事を聞いたガイザーは盛大に顔を顰める。
「そんな顔しないでください、兄さん。この通り、セルのおかげで私も他の二人も無事でしたから」
「だけど、そいつらはリリアを狙ったんだろ?……許せないな。セル、そいつらのことはきちんと地獄へ送ったんだよね?」
「そうしてやりたいのはやまやまだったが、騎士としてきちんとネイランドの騎士団へしかるべき対応をお願いしたよ」
淡々と話すセルの言葉に、ガイザーはチッと忌々しそうに舌打ちをする。
「俺が一緒に行っていたら、全員息の根を止めてやったのに」
「そ、そんなことしたら兄さんの立場が悪くなりますよ!」
「それに、過激派の連中はまだどれくらいいるのか、どこにいるのか詳しく聞かなきゃいけない。息の根を止めたらそれができないだろう」
リリアとセルの言葉に、ガイザーはまたチッと舌打ちをした。
「聖女についてよく思わない連中がいるというのは聞いたことがあったけれど、まさか本当にいて交流会を狙ってくるなんて。リリア、やっぱり聖女なんて辞めて俺と一緒に……」
ガイザーがそう言いかけて、すぐに眉を下げて微笑む。
「こんな危ない目にあっても、リリアは聖女を辞めたいとは思わないんだろうな」
「……辞めたいとは思わないですね。確かに怖かったですけど、でも過激派の方の言い分を聞いて、余計に聖女としてしっかりしよう、国と民のために在ろう、そう思いました。それに、セルがいてくれたから不安ではなかったです」
ふわっと嬉しそうに微笑んでそう言うリリアを見て、セルは少し驚いてからすぐに微笑み、ガイザーも優しい笑みを浮かべた。
「そっか。そうだね、それならやっぱり俺はリリアを応援するよ。そういえばセル、国王への報告は済んだんだよね?」
「ああ。過激派についてネイランドでの尋問で明らかになるまでは、交流会の開催を控えるか参加は見送るべきだと伝えたら、同意してくださった」
「そうか、その方が良いだろうね。……それにしても、リリアが交流会に参加できなくなることを残念がるとは思わなかったな。行く前まではあんなに気が重いと言っていたのに」
ガイザーがチラリとリリアへ視線を向けると、リリアはしょんぼりとしている。
「気が重いのは確かに変わりないのですけど……でも、せっかく各国の聖女が集まった貴重な時間なのにと思って。セレーナ様やフィーニャ様とも次はたくさんお話しましょうねって約束したんですよ」
「セレーナ様は自分の国で他の聖女も狙われたことに、ずいぶんとショックを受けていたみたいだったな。帰り際はいつもよりもずいぶんと控えめだった」
セルがその場の光景を思い出すようにして話すと、リリアが大きく頷く。
「セレーナ様、いつも気丈に振る舞ってらっしゃいますけど、自分の国であんなことがあってやはりショックだったんだと思うんです。責任感の強い方なので、セレーナ様が悪いわけではないのにご自分を責めてらっしゃるようでした」
聖女として常に厳しいセレーナだが、それは誰よりもまず聖女である自分自身への厳しさでもあるのだ。
「たから、フィーニャ様と気にしないでください、来年は一緒にたくさんお話しましょうねって約束したんですけど……」
(来年はお会いできないかもしれない。残念だけど、我慢するしかないのよね)
リリアが悲しげにうつむきながら微笑むと、セルがリリアの顔をそっと覗き込んだ。
「きっとヴァリエール卿を筆頭に、ネイランドの騎士団がしっかりと捕まえた連中を尋問してくれるはずだ。もしかすると来年は通常通り交流会を開催できるかもしれない」
「そうだよ。それに、俺も過激派について情報を探ってみるよ。ヘインドルの領地は県境だから隣国についての情報も得やすい。何かわかるかも知れない。俺もリリアの役に立ちたいんだ」
セルとガイザーが頼もしげにそう言う。二人の様子に、リリアの落ち込んでいた心が少しだけ晴れやかになった。
「そうですね……お二人ともありがとうございます。落ち込んでばかりもいられませんものね。いつ交流会に出ても問題ないように、聖女として気を引き締めておかないと」
紫水晶のような瞳をキラキラさせてリリアがそう言うと、セルとガイザーは目を合わせて満足そうに微笑んだ。
「そういえば、二人の結婚式はいつ頃にする予定なんだい?交流会から帰ってきたんだし、そろそろ考える時期だろう?」
「……けっこんしき?」
ガイザーの問いに、リリアは目をばちくりさせてガイザーを見つめた。




