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56 馬車の中

 聖女を狙った過激派を捕らえたセルたちは、ネイランドの騎士団たちの転移魔法で王城まで戻っていた。


「すぐに騎士団を呼べる場所でよかったです。万が一国外や国境沿いだと色々とやっかいですからね」

「さすがにそう遠くまでは転移できなかったんでしょう」


 オルグとディアスが話をしていると、セレーナがリリアとセルの近くへやってきた。


「セル様、この度は迅速な判断と対応、ありがとうございました。セル様がいなければ、どうなっていたことか……この国であのようなことが起こってしまい、本当に残念でなりませんし、皆様には申し訳ない思いでいっぱいです」


 セレーナは片手で自分の腕をぎゅっと掴んで、神妙な面持ちをしている。


「セレーナ様が謝ることではありません。たまたま、今回はネイランドが聖女交流会の開催地だっただけで、もしかしたら我が国でも起こっていたことかもしれませんもの」

「そうですよ、どこの国でもいつかは起こっていた可能性があることです。セレーナ様が心を痛める必要なんてありませんよ」


 リリアの言葉に、近くにいたフィーニャも両手をグーにしてうんうんと賛同する。二人にそう言われたセレーナは、辛そうな瞳を向けて小さく頷いた。


「ありがとうございます。そう言っていただけて少しだけ心が軽くなりました。……でも、交流会は中断してお帰りいただくことになってしまいましたね。もっとお二人とはお話したかったのに。でも、まだどこに過激派の残党がいるかわかりません。お二人の安全を考えれば、やはりお帰りいただくのが最善です」


 セレーナが神妙な面持ちでそう言うと、フィーニャはセレーナの手を取ってふわりと微笑む。


「セレーナ様、来年は我が国で開催されます。また会える日を楽しみにしていますね。その時は、たくさんいろんなことをお話しましょう!」


 リリアも、セレーナのもう片方の手を優しく掴んで、そっと微笑んだ。


「お二人とも……ありがとうございます。私も、楽しみにしていますね」



 帰還の手続きを済ませ、リリアとセル、フィーニャとディアスはそれぞれの馬車に乗り、セレーナとオルグに見送られた。


 馬車の中では、セルはリリアの隣にべったりとくっついて座っている。


「あの、セル、とても近すぎると思うんですか……?」


 リリアが恐る恐るそう言うと、セルはリリアの腰に手を回してがっつりと自分の体に密着させた。


(な、なんで?どうしてさらに密着したの?)


「もう交流会は終わったのでここからは騎士としてではなく、一人の男セルとして話をします。……あんなことがあったんだ、リリアとは何があっても離れたくない」

「で、でもセルが撃退してくださいましたし、こうして一緒にいるのだから安全で……」

「それでも、俺はリリアとくっついていたい。リリアの体温を、ぬくもりを感じでいたいんだ」


 そう言って、セルはさらにリリアを引き寄せて腕の中に閉じ込める。


「聖女を狙う過激派がネイランドに紛れ込んでいるなんて……しかも堂々とリリアたちを狙ってきた。ネイランドで厳しく尋問されるだろうが、根絶やしにできたわけじゃないと思う。……またリリアが狙われるかも知れないと思うと、気が気じゃない」


 ぎゅうっとセルはリリアを抱きしめた。


「セル……」

「国に戻ったら、屋敷の警備を強化しよう。どんなことがあってもリリアに指一本触れさせはしない。ネイランドから我が国は遠いから奴らが来る可能性は低いかもしれないが、それでも徹底的に対応しておくべきだな」


(そんなに心配しなくても、セルがいてくれたらきっと大丈夫なのに……でも、こうして私のために力を尽くそうとしてくれている、嬉しい)


 リリアはセルの背中に回した手で、セルの騎士服をそっと掴んだ。


「過激派が根絶やしにされるまでは、聖女交流会は一時的に中止すべきだと国王に進言するべきかもしれない。中止にできなくても、我が国は辞退する手もある」

「えっ!そんな、せっかく来年はフィーニャ様の国でたくさんお話しましょうねって約束したのに……」


 セルから体を離して、リリアは悲しそうな顔をする。だが、セルは真剣な顔でリリアを見つめた。


「聖女三人が集まることで、また危険な事が起こるかもしれないんだ。他の二人の安全を守るためにも中止にするのが最善だろう」

「それは……確かに……そうですけど」


 リリアがしゅんとすると、セルはリリアの顔を覗き込んだ。綺麗なルビー色の瞳がリリアの瞳と交わる。


「リリア。何もずっと交流会を中止にすると言っているわけじゃないんだ。過激派がリリアたちを狙わなくなれば、すぐにでもまた交流会を開くことができる。聖女交流会で聖女が狙われたとわかったら、国民は驚き動揺するだろう。安全だとわかるまでは、国のためにも国民のためにも控えるべきだ。リリアならわかるだろう?」


(そんなふうに言われてしまったら、聖女リリアとしてわからないだなんて言えない)


 リリアが小さく頷くと、セルはまたリリアを優しく抱きしめた。


「ずるい言い方をしてすまない。でも、騎士としても一人の男としても、これは譲れない。わかってくれ」


 リリアがセルの腕の中でまた小さく頷くと、セルは安堵したように微笑み、リリアから体を離してリリアの額にキスをした。


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