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55/58

55騎士の判断

「……ここは?」


 光に包まれあまりの眩しさに目を瞑っていたリリアは、光が消えて目を開けてから目の前の光景に首をかしげる。そこは、どこかの林の中にあるひらけた場所だった。


「リリア、大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫」


 リリアを抱きしめていたセルは立ち上がり、リリアを心配そうにのぞき込む。周りを見渡すと、他の聖女と護衛騎士たちも皆無事のようだ。


「一体どういうつもりだ」


 セルが剣に手をかけて前方を睨みつける。そこには、王城で道案内していた男があくどい笑みを浮かべている。


「!」


 いつの間にか、リリアたちは見知らぬ男たちに周囲を囲まれていた。皆、剣や槍などの武器を持って構えている。


「聖女様たちにはここで死んでもらいます。三国の聖女をいっぺんに殺せるチャンスだ、見逃すわけにはいかないでしょう。絶好のチャンスなんですよ」

「お前自身が聖女はいらないという過激派の一員か。ネイランド内へ入り込んでいたんだな」

「聖女がいるせいで、各国はぬるま湯につかり争うことをやめてしまった。友好なんて結ばれてしまうと困るんですよ。武器も人も売れない、潤うべき人や場所が潤わなくなってしまう」


 男が両手を広げて目を大きく見開き、唾をまき散らしながら豪語する。それを聞いて、リリアもセルも顔を顰め、オルグとディアスは剣を鞘から抜いて、聖女たちを庇いながら剣を構えた。


「……なんと愚かなことを」

「はっ、ネイランドの聖女様か。正論しか言わない頭の固い聖女様、あんたが聖女の中で一番気に食わない。まあいい、そうやって好き勝手言えるのも今だけだ。すぐに何も言えなくしてやりますよ」


 セレーナの言葉に男はさも気に食わないという顔をしたが、すぐにまた笑みを浮かべる。そして、リリアたちを囲んだ男たちが、じりじりと滲みよって来た。


「聖女様たちはご自分に防御魔法を!」


 セルのその一声と、男たちがリリアたちに襲い掛かって来るのが同時だった。リリアたちは防御魔法をかけ、さらにセルたちへ能力向上の魔法をかけた。セルたちは次々と男たちを倒していくが、なぜか攻撃してくる男たちは増えるばかりで、道案内していた男が転移魔法を使って仲間を呼び寄せているようだ。


「ちっ、倒しても倒してもらちが明かない!」


 オルグが恨めしそうに舌打ちをする。ディアスも賢明に交戦しているが、体力がどこまでもつかわからない。そんな二人の様子を見て、セルは一瞬顔を盛大に顰めると、ふうっと息を小さく吐き、目を瞑る。そして、すぐに目を見開いた。


「うわあっ」

「があっ」

「うげっ」

「ぎゃあっ」


 あちこちからうめき声が聞こえてくる。何かが、ものすごい速さで敵を次々と倒していく。あまりの速さに何がどう動いているのかわからず、リリアたちは呆気にとられていた。


「な、何が、起こっている!?」


 転移魔法で仲間を呼び寄せていた男は、焦ったように周囲をきょろきょろと見ているが、次々に仲間が倒れていく光景しか見えない。ふいに、目の前に何かが現れた。


「!」


 ザシュッ!と男が斬られ、背中から倒れこむ。その男の前には、セルが剣を構えていた。倒れこんだ男の顔の横に、ザクッと剣が差し込まれる。頬に一筋の血が流れ、男は目を見張った。


「お前を倒してしまえば、もうお前の仲間はやってこないだろう。なに、ここで殺すことはしない。詳しい話はネイランドの騎士団でゆっくり吐いてもらうことになるからな」


 地を這うような恐ろしい声でセルが言うと、男はあまりの恐ろしさに泡を吹いて失神した。


「ヴォルグスタ卿!」


 オルグとディアスがセルに駆け寄って来る。


「ヴァリエール卿、この男たちをネイランドの騎士団へ収容していただきたいのですが」

「わかりました。念のため魔法縄で拘束し、すぐに騎士団員たちを呼んで対応させます」

「それにしても、ヴォルグスタ卿の剣裁きは見事でしたね。……速すぎて全く見えませんでした」

「時間をかければかけるほど不利になると思ったので、ああするのが一番だと判断しました」


 淡々とそう言うセルを見ながら、オルグとディアスは目を合わせて何とも言えない顔をしている。だが、セルは二人の様子を全く気にせず、すぐにリリアの元へ駆け寄った。


「リリア様、大丈夫ですか」

「え、ええ、ありがとうございます。セルのおかげで何ともなかったです」


(こんなにあっさりと、ほとんど一人で敵をやっつけてしまうだなんて……それに、動きが見えないほどの速さだったわ。セル、こんなにもすごい人だったのね)


 リリアが驚いた顔でセルを見つめていると、セルはリリアの体に手を添えてホッとしたように呟いた。


「ご無事でよかったです」


 それは騎士としてのセルの言葉だったが、瞳には安堵と溢れんばかりの愛がこもっている。先ほどの勇ましい姿とのギャップに、リリアは思わず微笑んだ。



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