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53 挨拶

「この度もはるばるよくお越しいただいた。ネイランドの国王として歓迎する」


 翌日、リリアたちは謁見の間でネイランドの国王、そして第一王子の目の前にいた。リリアとセル、フィーニャとディアスがそれぞれ並び、深々とお辞儀をする。セレーナとオルグはリリアたちの斜め横に立ってリリアたちを眺めていた。


「聖女交流会にて快く迎え入れてくださいましたこと、深く感謝いたします」

「ふむ。そうかしこまらずともよい。時に聖女リリアとヴォルグスタ卿は婚約したと聞いた。めでたい話だ」

「ありがとうございます」


(早速婚約話きたーっ!)


 内心ドキドキしているが、リリアは表情を崩さず美しい微笑みを浮かべたまままたお辞儀をする。横でセルも表情を変えず、お辞儀をした。


「まさか聖女と騎士が一緒になるとは。しかも聖女の護衛では必ずといっていいほど担当になるヴォルグスタ卿と婚約とは驚いたよ。しかもヴォルグスタ卿は貴国の王が推薦する婚約者候補ではなく、リリア様を選んだとか。ヴォルグスタ卿は一体いつからリリア様を?」


 サラサラな美しい金髪をサラリとなびかせて、ネイランドの第一王子であるステファンが言う。


「確か貴国には、はるか昔に飲酒した聖女と騎士が間違いを犯し、聖女の力が失われたという言い伝えがあったと思ったが、それでよく聖女と騎士の婚約が認められたものだ。よっぽどヴォルグスタ卿は騎士としての信頼が厚いと見受けられる。まあ、聖女交流会でのヴォルグスタ卿の騎士としての働きを見れば、確かに納得ではあるがな」


 長い白髭をゆっくりと撫でながら、国王はふむふむと微笑みながら頷いた。


「言い伝えによる禁止は聖女の飲酒であり、騎士との結婚は別段禁止されてはおりません。今までも我が国では聖女と騎士の結婚は珍しいものではないため、今回も問題なく承認していただけたのだと思います。そして、ネイランド国の王にそのように言っていただけるのは身に余る光栄です」


 そう言って、セルは胸に手を当てて深々とお辞儀をする。それを見たステファンは含みのある笑みを浮かべたまま、リリアをチラリと見てまたすぐにセルへ視線を戻した。


「それで、ヴォルグスタ卿はいつからリリア様を?どういったきっかけでリリア様へ婚約を申し込んだのか気になるんだ。いくら貴国では信頼の厚い騎士団長であったとしても、聖女へ婚約を申し込むだなんてなかなか勇気のいることだろう」


(うっ、ステファン様、意外にしつこい!?)


 あまり細かいことを聞かれるとボロが出てしまうかもしれない。セルであればボロが出るなんてあり得ないかもしれないが、リリアは内心ひやひやしながら変わらず美しい微笑みを絶やさずにいた。その場にいる全員の視線が、セルへ向けられる。


「……そうですね、二人のことですのであまり詳しいことは言えませんが、俺はずっとリリア様を聖女として尊敬していました。いつでも美しく聡明で国と民のためを思い自分を常に高めようとする姿に、感銘を受けていたんです。騎士と聖女、その関係で構わないとずっと思っていました。騎士として聖女リリア様を何があってもお守りする、そう自分の中で誓っていましたから。ですが」


 そう言って、セルは視線を上げる。ルビー色の瞳が光に当たってキラリと輝き、普段は覇気がないように見える瞳に、まるで熱い炎が宿っているようだ。


「我が国の国王陛下から直々に婚約者候補を推薦され、悩みました。国王からの推薦を断ることは正直言って不可能ですし、俺も騎士としてできればしたくはありません。ですが、俺は一生独身でいようと思っていました。なぜなら、聖女リリア様に命を懸けているからです。そんな男と婚約し結婚するのはお相手のご令嬢に失礼でしょう。それに、婚約話が出てからというもの、自分のリリア様への気持ちを抑えることができなくなっていました」


 そう言って、セルはそっとリリアへ近づき、リリアの片手を優しく掴んでリリアを見つめた。リリアがセルを見上げると、あまりにも甘い視線がそこにはあって思わずドキリとしてしまう。


「この気持ちを伝えることは、リリア様にとって恐らくは迷惑なことだとわかっていました。ですが、リリア様はお優しい方です。俺の気持ち、そして国王陛下からの婚約話を断ることができない辛さをくみ取って、俺からの申し込みを快く受けてくださったんです。まるで天にも昇るような気持ちでした。だからこそ、どんなことがあっても騎士として一人の男として、聖女リリア様を全ての困難から守り、絶対に幸せにすると誓ったのです」


 セルは真っすぐにステファンを見る。その瞳にはあまりにも強すぎる意思が宿っていて、その場の誰もが思わず息をのんだ。そして、ステファンは満足そうにうなずき、拍手をする。


「素晴らしい。とても良い話が聞けたよ。それに、聖女リリア様の今まで見たことのない、意外な表情も見れたしね。それはやはりヴォルグスタ卿だから引き出せるものなんだろう」


 そう言ってステファンが向ける視線の先には、顔を真っ赤にしているリリアの姿があった。



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