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52 寝る前のひととき

 夕食の時間になり、リリアたちは王城内にある部屋で大きなテーブルを囲み座っていた。それぞれの聖女の隣には護衛騎士が座っている。


 静かな部屋に、カチャカチャ、とあちこちでナイフやフォークの音が鳴り響く。食事中は歓談というわけでもなく、ただひたすらに無言で食事をしていた。


(美味しいものばかりでついセルの方を見たくなってしまうけど、そんなことできる雰囲気ではないし……)


 リリアは目の前の食事に視線をむけたまま、静かに微笑みを浮かべながら美しい所作で食事を進めていく。フィーニャは少しおっちょこちょいなのだろう、口元に持ってきたお肉がフォークにきちんと刺さっていなかったようで、ぽろっと落下してしまった。フィーニャがあわあわしていると、隣でディアスが何とも言えない顔をしながらフィーニャを見ている。

 リリアがフィーニャを見ると、視線が合う。リリアが静かに優しく微笑むと、フィーニャは顔を真っ赤にしながらてへへと言わんばかりの顔で微笑んだ。


(フィーニャ様、本当に可愛らしい)


 小動物を見ているかのようで、心の中がなんだか暖かくなる。ふとセレーナを見ると、相変わらず氷のような瞳でフィーニャを見てから、何事もなかったように食事をしていた。


(セレーナ様、怖いけどぶれないなぁ。私も、聖女リリアとして常に意識していないと)


 心の中でそう自分に言い聞かせると、リリアはまた食事に集中し始める。そして、隣に座るセルは一度だけリリアを見ると、表情をかえることなくすぐに食事へ視線を戻した。



 食事が終わり、リリアたちの目の前には食後のお茶が運ばれていた。


「明日は昼間に国王たちへの挨拶、それからお茶をしながら聖女についての勉強会をします。国王も王子たちも、リリア様やフィーニャ様に会えるのを楽しみにしていますよ」


 セレーナがそう言うと、フィーニャは少し緊張した面持ちで背筋を伸ばした。


「私も、ご挨拶ができるのを楽しみにしています」


 リリアが一口紅茶を口に含んでからそう言うと、セレーナは冷ややかな瞳をさらに冷たくしてリリアを見る。


「リリア様とセル様の婚約についてもお祝いを述べたいとおっしゃっていました。きっと根掘り葉掘り色々と聞かれるでしょうね」


(……うっ、この国の国王様に色々聞かれるとなると、あまり適当なことは言えないかも……かといって全部本当のことも言えないし。後でセルと打ち合わせようかな)


 内心ひやりとしているが、そんなことは顔にも出さずリリアは美しい微笑みを浮かべたままだ。


「それにしても、お二人は本当に今まで通りのお二人にしか見えませんね。きちんと場をわきまえていらっしゃるようで安心しました。明日もそのままでいてくださるようお願いしたいですね」

「言われずともそのつもりです」


 セレーナの言葉に、セルがそう返事をするとセレーナは一瞬だけ小さく眉を顰めたが、すぐに真顔に戻ってお茶を口へ持って行った。






(はあああ、やっと一日が終わる)


 食事が終わり、部屋に戻ったリリアは部屋に備え付けられている簡易なバスルームで湯浴みをしてから、寝る支度を済ましていた。ベッドに大の字であおむけになると、リリアは大きくため息をつく。


(明日は国王様たちへの挨拶に勉強会か……明後日にはようやく帰れるけど、明日を何とか乗り切らないとだわ)


 国王や王子たちから、セルとの婚約について根掘り葉掘り聞かれるだろうとセレーナには言われている。嘘をつくのもはばかられるが本当のことも言いづらい。さて、どうしたものかと悩んでいると、魔力の気配がしてリリアはガバッと起き上がった。


 部屋の真ん中に、半透明のセルがいる。周囲を一通り探るようにしてから、セルは通常の姿に戻った。リリアは目を輝かせながら立ち上がり、セルの元へ駆け寄った。


「セル、また来てくれたんですね」

「ああ、もう寝る支度は済ませたんだな。よかった」


 リリアが寝るのを見届けるつもりなのだろう、セルはまだ騎士の姿だ。リリアの手をとってリリアをベッドサイドへ座らせると、セルもその隣へ座る。


「疲れたんじゃないか。寝るまで側にいてあげるから安心して寝ていいよ」

「ありがとうございます。でも、その前に明日のことで相談したくて」

「この国の国王たちのことか。何を聞かれても、リリアはうまいこと流してくれればいい。俺が詳しい説明をするよ。大丈夫だ」


 セルはそう言って、リリアの髪の毛を一束掴みそっとキスをする。セルが大丈夫だと言うなら、きっと大丈夫なんだろうと思えてしまえて、リリアはなんだかすごいなと思った。


「挨拶もだが、勉強会もなかなか大変なんじゃないか。セレーナ様はいつも厳しいからな」

「そう、ですね……聖女たるものは!って感じでいつもあれはだめ、これはだめ、って言いますし」


 げんなりとしながらリリアはため息をつく。悪い人ではないのだけれど、どうしても苦手だなと思ってしまうのだ。


「国に帰ったら存分に甘やかしてあげるよ。だから、それまでは聖女リリアとして頑張ってくれ」


 そう言って、セルは顔を近づけると、優しくキスをした。すぐに唇が離れると、リリアはセルの服を掴んでをジッと見つめる。


(もう、部屋に戻っちゃうのかな……)


 そんな風に思っていると、セルの顔がまた近づいて、唇が重なった。今度は、何度も食むようにキスをされてなかなか離れない。いつの間にかセルの片手がリリアの後頭部をおさえていて、キスはどんどん深くなっていく。


(ああ、ダメ、頭がぼうっとしてきちゃう……)


 くらくらとしながらもその気持ち良さにリリアはどうすることもできない。セルに身を預けたままでいると、ようやく唇が離れた。


「……すまない、触れるだけのキスで終わらせるつもりだったんだが、リリアにあんなすがるような顔されたら、それだけじゃ終われなかった」


 セルはそう言って、額と額をコツン、と軽く合わせる。


(えっ、私、そんな顔してたの……!?)


 恥ずかしさのあまり、リリアの顔に熱がこもって赤くなってしまう。


「このままここにいると理性が働かなくなりそうだ、もう行くよ。さ、リリアも明日に備えて寝るんだ」


 そう言ってセルがリリアを促す。リリアは慌ててベッドの中に入って、顔を半分隠した。


「お、おやすみなさい、セル」

「ああ、リリアが寝るまでここにいる。安心しておやすみ」


 そう言って、セルはリリアの片手を掴んで優しく微笑んだ。


(まだ胸がドキドキしてしまってるのに、寝れるかしら……)


 そう思っていたが、リリアはいつの間にかすーすーと寝息を立てている。それを見て、セルは心底愛おしいという顔をしながらリリアの額にキスを落とした。


「おやすみ、俺の愛するリリア。良い夢を」


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