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50 完璧聖女の表明

 セルがオルグに部屋を案内されている頃、リリアはフィーニャと共にセレーナに案内されていた。


「いつものように、こちらがそれぞれのお部屋になります」


 リリアとフィーニャは隣同士の部屋だ。ちょうど上の階がセルたち護衛騎士の部屋になっている。部屋の前で立ち止まると、セレーナはリリアをジッと見る。その瞳は冷ややかで、リリアの心臓は凍りついてしまうかと思えるほどだ。だが、リリアは顔に出さず、静かに笑みを浮かべたままセレーナを見つめ返した。


「どうかなさいましたか?」

「……婚約は大変めでたいことだと思います。ですが、やはり聖女であるにも関わらず、婚約、しかも護衛騎士とだなんて納得がいきません。そもそも、リリア様は聖女としての責務を立派に果たしておいでです。一体、どういった気の迷いで婚約などなさったのでしょう?」

「き、気の迷いだなんて……!」


 フィーニャが慌ててそう言うと、セレーナがフィーニャへ視線を向ける。そのあまりの怖さに、フィーニャは言葉を失った。


(フィーニャ様、かわいそう……私なんかのためにセレーナ様に睨まれてしまったわ。私もセレーナ様が怖いい!……でも、怖いけど、怖がってるだけではどうしようもないわよね)


 小さく息を吸うと、リリアは変わらずに穏やかな笑みを浮かべたまま、口を開く。


「……セレーナ様が、聖女が結婚することを良しとしないことは存じあげています。ですが、我が国では過去に結婚している聖女が何人もいます。国によって聖女のあるべき姿は微妙に違うのです。そこはわかっていただいていると思っていました」

「確かに、国によって聖女の在り方は違います。ですが、そのずれを少しずつでも解消し、統一していくべきで、そのための聖女交流会だと私は思っているのです。聖女は誰か一人のためにいるのではありません。全ての国民のために在る。リリア様だって、そう思っていらっしゃるとばかり思っていました」


 きりっとした表情で、セレーナはそう言う。


「セル様は確かに騎士としても騎士団長としても素晴らしい方だと存じ上げております。うちのお調子もののオルグでさえ、セル様を騎士として尊敬していると言っていました。……ですが、女性関係ではいい話を聞かないと噂を耳にしています。別に騎士の女性関係についてあれこれ言うつもりはありません。ですが、そんな騎士が聖女と婚約したとなれば話は別です。リリア様、何かセル様に弱みを握られているのではありませんか?そうでなければ、リリア様が女性関係に緩い男と婚約するだなんてあり得ません。もし悩んでいることがあれば、どうか相談してください。リリア様の力になりたいのです」


 そう言って、セレーナはリリアの両手を掴み、きゅっと握り締めた。リリアを見つめるセレーナの表情は真剣そのものだ。セレーナの話に、フィーニャは驚いて目を大きく見開き、あわあわと二人を見つめている。


(うっ、確かに最初は弱みを握られて婚約に至ったわけだけれど……相談してと言われても、飲酒のことは絶対に口が裂けても言えない!それに、セルのことを悪く言われるのはやっぱり嫌だわ)


 リリアはセレーナの手を握り返してから、否定するように首を振った。


「セレーナ様、お気持ちは嬉しく思います。ですが、私は何も弱みを握られてなどいません。それに、セルの女性関係の噂は全て事実ではありません。セルは確かにたくさんのご令嬢に言い寄られていたようですが、全てきちんと断っているそうです。セルは公の場で、きちんと身の潔白を証明してくれました。私は、セルを騎士としても一人の男性としても信頼しています。だからこそ、婚約をお受けしたんです」


 リリアの言葉に、セレーナは困惑している。


「確かに、聖女は全ての国民のために在る。ですが、だからといって結婚を否定することにはなりません。現に、我が国では国民の皆様が私たちの婚約を喜んでくださっています。もちろん、快く思わない人もいるでしょう。それでも、多くの人たちは喜んで祝ってくださっているのです」


 フィーニャはリリアの話を目を輝かせながら聞いている。だが、セレーナはまだ困惑したままだった。


「それに、セルはどんな時でも私を守り、支え、愛し抜くと言ってくださいました。そして、婚約したからと言って、騎士としての姿を変えるような男ではありません。今までと変わらず、騎士としての任務を全うすると言っていますし、実際にそうしています。そんな彼を、勝手な噂で一方的に決めつけられてしまうのは、私が許せません」


 リリアはセレーナの瞳を真っすぐに見つめていった。


「今は納得がいかないかもしれません。ですが、いつか私たちの婚約を快く思ってくだされば、と思います。そう思っていただけるように、私もセルも頑張りますね」


 そう言って、リリアはふんわりと微笑んだ。その完璧なまでの美しい微笑みに、フィーニャは両手を頬に添えてうっとりとしている。セレーナは、少しだけ唇を噛んでからフイッと視線をそらし、リリアの両手を離す。


「……話はわかりました。それでは、夕飯の支度が整うまで部屋でおくつろぎください」




(こ、こ、怖かったあああああ)


 部屋に入ると、リリアは両手で自分を抱きしめるようにしてその場で小さく震えていた。


(セレーナ様、やっぱり納得してない感じだったな。しょうがないけど……今はあれが精一杯)


 ふう、と小さく息を吐くと、リリアは天井を眺めた。上の階には、セルが泊る部屋がある。


(セル、今頃何してるかしら。違う部屋になってしまったのは仕方ないけれど、やっぱりちょっと不安だわ)


 婚約する前までは、交流会では当たり前だがずっと別々の部屋だった。それを不安に思うことも、不満に思うことも一度も無かったはずなのに、今では側にいないだけでこんなにも不安になってしまっている。


「!?」


 ふと、急に魔力の気配がしてリリアは後ろを振り向く。そこには、半透明姿のセルの姿があった。




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