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48 ネイランドの聖女と騎士

 騎士として尊敬していたのにがっかりした。そう言われたセルは、表情を変えずにただディアスをじっと見つめる。


 ディアスとは、聖女交流会でしか顔を会わせていない。他国の騎士から自分を尊敬し憧れていたなどと言われても、セルはいまいちピント来なかった。


「……まさか、あなたにそんなことを言われるとは思いませんでした。尊敬してくれていたことはありがたいと思いますが、だからといって勝手にがっかりされても、それはそれで困りますね」


 それに、とセルは元々低めの声を、さらに低くする。


「俺もリリア様も、聖女と騎士という関係性を崩した覚えはない。確かにリリア様とは婚約しましたが、仕事上では聖女と騎士という関係性をきちんとわきまえているつもりです」


 静かだが、圧のある声音と言い方だ。気怠げな瞳の奥には、明らかにふつふつとわいた怒りを含む炎が見え隠れしている。思わずディアスが怯むと、セルはディアスから視線をそらし、リリアとフィーニャへ向けた。




「それでそれで、セル様とはどういった経緯で婚約することになったんですか?やっぱり、セル様から告白されたんですか?」


 セルとディアスから少し離れたソファで、フィーニャは目をキラキラと輝かせ、リリアへ尋ねていた。


(えっと、どう説明したらいいかしら……まさか飲酒がバレて婚約することになりました、なんて絶対に言えないし)


「……そうですね、セルからぜひ婚約してほしいと。二人のことですし、恥ずかしいので……あまり詳しいことはお話できないんです、ごめんなさい」


 申し訳なさそうにリリアが微笑むと、フィーニャはその微笑みにうっとりしてから頷く。


「そうですよね、二人のことですものね。詳しく話せなくても構いません。それでも私はとっても嬉しいです!恥ずかしがるリリア様も素敵ですもの」


 両手を胸の前で合わせて、フィーニャは嬉しそうに頬を染めた。それから、急に困ったような表情になってリリアへ顔を近づけ、小声になる。


「でも、セレーナ様はあまり良く思わなそうですよね。だって……」


 フィーニャが話を続けようとした時、コンコン、とドアがノックされた。


「失礼します」


 美しくよく通る声がして、応接室に人が入ってきた。


「ごきげんよう、リリア様、フィーニャ様。護衛騎士のお二人もご苦労さまです」


 光に当たってキラキラと光る淡い水色の長い髪の毛をサラリとなびかせ、コバルトブルーの瞳をリリアたちへ向ける女性。美しいという言葉がピッタリだが、ひどく冷たさのある美しさだ。


 その後ろには、ふわりとした明るい茶髪にローズピンク色の瞳をした騎士がいる。人懐っこそうな顔をしていて、騎士の割には細身で、スラリとした体つきをしている。


「お久しぶりです、セレーナ様。オルグ様」


 ソファから立ち上がりリリアがそう言ってお辞儀をすると、フィーニャも慌ててお辞儀をする。セルとディアスも視線をセレーナたちへ向けて軽く会釈する。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません。旅でお疲れでしょう。すぐに部屋へご案内しますね。……その前に、リリア様とセル様につきましては、ご婚約、おめでとうございます」


 セレーナはそう言ってリリアとセルを見るが、言葉とは裏腹に視線はひどく冷たい。


「ありがとうございます」

「それで、事前にセル様からは婚約されたので部屋は同じに、とのことでしたが、同じ部屋というのはいかがなものでしょうか」


 冷たい視線のまま、セレーナは淡々と言葉を紡ぐ。


「婚約者とはいえ、ここでは聖女と護衛騎士。それなのに、男女で同じ部屋というのは、何かを勘ぐられてしまっても文句は言えないと思うのですが」


 セレーナはスッと視線をセルへ向ける。あまりの冷たさに、それを見たフィーニャは思わずひっと息をのむが、セルは表情を変えずに口を開いた。


「同じ部屋であっても、聖女と騎士という関係を崩すつもりは全くありません。むしろそのように言われてしまうのは不愉快ですが、……同じ部屋で問題があると言うのであれば、今まで通り別の部屋にしていただいても構いません」


 セルがそうきっぱりと言い切ると、セレーナはリリアへ視線を向ける。


「リリア様も同じお考えですか?」


(セレーナ様、怖すぎ!でも、ここで怯んでしまうのは聖女リリアらしくないもの)


「はい」


 毅然とした態度で、リリアは返事をした。それを見て、セレーナはスッと視線をそらし、少し考える仕草をする。その後ろでは、オルグがさも面白いと言わんばかりの顔でその光景を眺めている。


「わかりました。それでは、お二人には今まで通り別の部屋に。リリア様とフィーニャ様は私が、護衛騎士お二人はオルグが部屋へご案内します」



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