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47 ガーム国の聖女と騎士

 リリアとセルを乗せた馬車は、無事ネイランドの王城に到着した。王城に入り広い応接室に通されると、そこにはすでにガーム国の聖女と護衛騎士がいた。聖女はミントグリーンの長い髪の毛で小柄、ペリドットのような美しい黄緑色の瞳をキラキラさせた可愛らしい女性だ。護衛騎士は少し長めの黒髪を後ろに束ね、少し浅黒い肌色をした長身の男性で、茶色の瞳をリリアとセルへ向けて小さくお辞儀をした。


「リリア様!」

「フィーニャ様」


 リリアの姿を見て、ガームの聖女フィーニャが嬉しそうに駆け寄りリリアへ抱き着いた。リリアはそっとそれを受け止めて微笑む。


「お久しぶりです!お元気でしたか?」

「ええ。フィーニャ様もお元気そうでよかった」

「はい!そういえば、ご婚約おめでとうございます!」


 そう言って、フィーニャはセルとリリアを交互に見て嬉しそうに微笑んだ。対照的に、フィーニャの護衛騎士であるディアスは冷ややかな瞳をセルへ向ける。視線を向けられたセルは、ディアスへ何の感情も持たないというような視線を返した。


「あ、ありがとうございます」


(もう隣国へも婚約の話は伝わっているのね)


 少し照れ気味にリリアが微笑むと、フィーニャは驚いたように目を丸くして両手を頬に添える。


「まあ……!リリア様でも照れるなんてことがあるんですね。いついかなるときでも表情を崩さず、まるで絵にかいたようなお姿なのに……なんだか、そんなリリア様の姿を見れて嬉しい」


(えっ、そんなに?私そんなに照れてる?)


 リリアは一瞬慌てるが、すぐに表情を整えて美しい笑みを浮かべた。


「そんな、私だって人間ですもの。驚かれるようなことはありません」

「確かにリリア様だって人間なのはわかっていますが……でも、私なんかと違ってリリア様はいつも完璧で美しいんですもの。私にとってリリア様は聖女としての憧れです。ディアスにもよくリリア様を見習うようにと注意されるんですよ」


 ね?とフィーニャがディアスを見ると、ディアスは小さくため息をついて呆れたような目でフィーニャを見る。


「そうですね、リリア様を見つけた途端にリリア様へ飛びつくようなお転婆な聖女では困ります。もっと落ち着いていただきたいですね」

「……気を付けます」


 むう、と口を尖らせてフィーニャがそう返事をすると、ディアスはまた小さくため息をついた。そんな二人を見て、リリアは優しく微笑む。


「むしろ私の方がフィーニャ様をうらやましく思いますよ。フィーニャ様の純粋で裏表のないお姿に国民もきっと安心するでしょうし、私もなんだか心が解れます。無理をして私みたいになろうとする必要なんかありません」


 リリアが微笑みながらそう言うと、フィーニャは嬉しそうに目を輝かせる。それを見て、ディアスはまた小さくため息をついた。


「リリア様、そう言っていただけるのはありがたいですが、フィーニャ様は甘やかすとすぐに調子に乗りますので、あまり優しい言葉はかけないでいただきたい」

「まあ、ディアスったら意地悪ね」

「ほら、そういう所ですよ」


 頬を膨らませて抗議するフィーニャに、ディアスはまた呆れたような顔をする。そんな二人を見ながら、リリアは静かに微笑んでいた。


(フィーニャ様はいつでも可愛らしくて見ていて和むわ。ディアス様もなんだかんだ言いながらフィーニャ様のことをよくわかってらっしゃるし。護衛騎士というよりも教育係みたいね)


 フフッとリリアが小さく笑うと、フィーニャとディアスがリリアを見て目を丸くする。それから、フィーニャが嬉しそうにリリアの腕を小さく掴んだ。


「リリア様、やっぱり前よりも表情が豊かになりましたよね。婚約したからなのでしょうか?私、そんなリリア様も素敵だと思います!」

「……あ、ありがとうございます」


(どうしよう、いつもの完璧な聖女リリアでいようと思っているのに、うまくできていない?)


 不安な心を表に出さないように、リリアは美しい微笑みを絶やさない。


「リリア様、まだ時間がありますし、セル様との馴れ初めを聞かせてください!」


 フィーニャはそう言って、リリアの腕を優しく掴みながらセルとディアスから少し離れたソファへリリアを連れていく。二人がソファに並んで楽しそうに話し始めたところで、ディアスがセルのすぐ隣まで足を運んだ。


「まさかあなたがリリア様と婚約するとは思いませんでした」

「……そうですか」

「いついかなるときでも身を挺して聖女を守る、それが護衛騎士。騎士団長でもあるあなたが、まさか聖女に手を出すだなんて」

「……その表現の仕方は、あまりよくないですね」


 ディアスの嫌みを含んだ言い方に、セルはいつものように淡々と返事をする。それを見て、ディアスは少しだけ目を細めて歯を食いしばった。そして、おろしている手を体の横で静かに握り締め、小さく深呼吸して口を開く。


「俺は、騎士としてあなたを尊敬し、憧れていました。だからこそ、あなたが聖女様と婚約したと聞いて、心底がっかりしましたよ。あなたがそんな人だとは思わなかった。どんなことがあろうとも、聖女と騎士という関係性を崩すことはないと思っていたのに」



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