表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/61

36 救出

 バリバリバリッ!と大きな音がして、リリアの体から稲妻が発せられる。


「ぎゃああああ」


 リリアを拘束していたセドゥクは稲妻に打たれ、その場に崩れ落ちた。


「リリア!」

「……リリア!って、無事、みたいだな」

「えっ、セル……!?それに、兄さんも!?」


 入って来たセルとガイザーの姿を見て、リリアは驚いている。だが、すぐにセルはリリアの側へ来てリリアの両肩をそっと掴んだ。


「リリア、大丈夫か?」

「セル!来てくれたんですね!私は、……えっと、この通り無事です」


 へへへ、と笑うリリアを見てセルは満足そうに微笑んだ。ガイザーはぽかんとしながら焦げて気絶しているセドゥクを眺めている。


「な、なんなんだこれは!どうして魔法が使えている!ここには魔法を打ち消す上級魔法具があるんだぞ!それに、どうして騎士団長がここに……」

「リリアは聖女、しかも魔力も魔法の技もこの国ではトップクラスだ。上級魔法の魔法具ごときで、その力を打ち消せるとでも?ははは」


 取り乱す前へインドル卿にセルがそう言うと、リリアははっとしてセルを見上げた。


「そう言えばセル、魔物は?大丈夫だったのですか?」

「ああ、途中でリリアがいないことに気づいて、嫌な予感がしたから瞬殺して来た。あんなものにてこずっている場合じゃないからな。ガイザー殿に聞けば、従者が屋敷へ連れて行ったと言う。だが、明らかにリリアの居場所がへインドルの屋敷じゃなかったから、急いで追って来たんだ」

「どうして私の居場所が?」


 なぜ自分の居場所がセルたちにわかったのだろう?リリアが純粋な気持ちで尋ねると、セルは乾いた笑いをしながら頭をかく。


「あー、実は、出かけるまえにリリアの着ているローブに危険探知の魔法がかかったブローチを付けておいたんだ。リリアの身にもし何かあればブローチと対になっているこの魔石が反応してリリアの場所を教えてくれる」


 セルの片手にはオレンジ色に輝く魔石がある。そして、リリアのローブには確かにオレンジ色の魔石が付いたとても小さなブローチが控えめについていた。


(全然気が付かなかった!)


「あ、あの魔物を、瞬殺しただと?そんな馬鹿な……大金をはたいてこの領地内に出現するようにした特級レベルの魔物だぞ!?」


 前へインドル卿がわなわなと震えながらうろたえている。そんな前へインドル卿へセルは冷ややかな瞳を向けた。


「その件に関して、前へインドル卿には詳しくお聞きしたい。この状況についてもだ」

「父上!これは一体どういうことですか!?どうして聖女リリアをこんな所へ……それに、その手に持っているものは?リリアに何をしようとしたんです!?」


 ガイザーが額に青筋を立ててそう言うと、前へインドル卿がガイザーを見て目を大きく開き、笑みを浮かべた。


「そうだ、ガイザー!今すぐ聖女を拘束してこちらへ寄越すんだ。その聖女とお前が兄妹だと知れたらへインドル家は一大事。せっかくお前に跡を継がせたのに、余計な人間がいては目障りだからな。聖女の力を失わせて王都から追放させるんだ!そうすれば、お前もへインドル家も安泰だ!」

「……貴様、まさかリリアに毒を飲ませようとしたのか?」


 セルの地を這うような声がその場に響く。そのあまりの恐ろしさに前へインドル卿はひっ!と息をのむが、すぐにガイザーへまた声をかけた。


「早く!聖女をよこせ!」

「……ふざけるなよ。お前はどこまでクズなんだ!俺たちを捨てたあげく俺たちを引き離し、さらにはリリアの聖女の力を奪い、追放させるだと!?ふざけるな!殺す!お前なんて俺がこの手で殺してやる!」

「な、なにを言うか!ここまで育ててやって、跡まで継がせてやったんだぞ!」

「それはお前のためだろう!勝手に捨てて勝手に拾い、育ててやっただと!?ふざけるな!殺す!お前のような人間は死んで地獄へ落ちろ!」


 ガイザーが剣を抜き、今にも前へインドル卿へ今にも飛びかかろうとしたその時。


「よせ」


 セルの強い声がガイザーを引き留めた。たった一言なのにその声はあまりにも力強く、まるで電撃が走ったかのように体がビリビリと振動してガイザーは身動きが取れない。前へインドル卿も、セルのあまりの恐ろしさに膝をがくがくさせている。だが、ガイザーはそれでもセルに食って掛かった。


「は?何を言う?あんたはこの男が憎くないのか!?リリアをこんな危険な目に合わせたあげく、聖女の力を奪って追放させようとしているんだぞ!?許せるのか!?殺すべきだろう!殺させろ!俺にこの男を殺させろ!」

「……許せるわけないだろう」


 また、ビリビリと体に電撃が走るようなセルの声と気迫に、ガイザーは目を見張る。


「そんな男、今すぐこの手で切り刻んでやりたいに決まっている。リリアをこんな目に合わせた報いを、今すぐに味合わせてやりたい。だが、俺は騎士団長だ。どうやってあの魔物を出現させたのか、そして毒の入手先についても詳しく取り調べる必要がある。この男を殺しただけで、この国の平和を脅かすような存在を野放しにしたままにするわけにはいかない。こいつの身柄は国王へ直々に差し出し、最終的にどう処罰するかは国王に判断していただく。これほどのことをしでかしたんだ、処刑は免れないだろうよ」


 セルは夜叉のような顔でそう言うと、前へインドル卿を魔法の縄で拘束した。セルのあまりの恐ろしさに、前へインドル卿は抵抗すらできず、なんなら失禁してしまっていた。

 セルの言葉に、ガイザーは何とも言えない複雑な表情でセルを見つめている。ガイザーの視線を無視して、セルはその場に現状維持の魔法を施すと、すぐにリリアの元へ駆けつけた。


「リリア、怖かっただろう。無事で本当によかった」


 セルはぎゅうっとリリアを抱きしめる。リリアはセルの温もりと匂いに包まれ、ようやくほっと息をついた。


(終わった、のよね……?)


「セル、来てくれて嬉しいです。助けてくれてありがとうございました」

「いや、リリアが魔法で従者を倒してくれたからこそ、事なきを得たんだ。リリアのおかげだよ。本当に、何事もなくてよかった……」


 絞り出すようなセルの声に、リリアの胸はきゅーっと締め付けられる。会えた喜びと心配をかけてしまった申し訳なさで胸がいっぱいだ。


「リリア……」


 ぽつり、と横でガイザーの声がして、リリアは思わず目を向ける。そこには、しょぼくれた犬のような姿のガイザーがセルとリリアを見つめていた。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ