表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/63

35 対面

「リリア様、こちらです」


 セドゥクに連れられ、少し歩いたところに馬車があった。リリアが乗り込むとセドゥクは御者の席へ座り、馬車を走らせる。


(セルたち、大丈夫かしら……)


 セルが騎士として各段に強いことはよく知っている。だが、あの魔物は特級クラスの魔物で、へインドル領地内に現れたことのない魔物なはずだ。何か嫌な予感がして、リリアは馬車の中で真剣にセルたちの無事を祈っていた。


 どのくらい走っていただろうか。馬車が止まり、セドゥクが馬車のドアを開け、リリアへ手を差し伸べた。


「リリア様、到着しました」

「……え?」


 セドゥクに促され馬車を降りると、そこはへインドルの屋敷ではなく見知らぬこじんまりとした小屋だった。


(ここはどこ?)


「へインドルの屋敷は遠いので、一度こちらで騎士団長たちをお待ちしましょう。ここは、へインドル家で所有する避暑地のようなものです」


 避暑地、というにはあまりにもこじんまりとしすぎている。疑問に思いながらもセドゥクの後ろを歩いて小屋の中へ入ると、中には人がいた。逆光で姿はよく見えないが大柄な男性で、その横には小さめのテーブルが置かれ、ワインの入ったボトルとグラス、透明な青色の液体が入った小瓶があった。


「ご機嫌麗しゅう、リリア様」


 逆光で姿がよく見えなかったが、リリアはその声を聞いてハッとする。


「前へインドル卿!?」


 驚くリリアの背後で、セドゥクが小屋のドアを閉める。ガシャン、と鍵のかかる音がしてリリアが驚くと、前へインドル卿の影が動く。逆光から逃れたその姿は、白髪に堀の深い顔立ち、老年と言えど見るからにガタイの良い鍛えられた体つきだ。


「そんな他人行儀な呼び方はよしたまえ。私たちはこれでも親子なのだから」

「……!」


(私が娘だと知っているの?知っていたのに、今まで何食わぬ顔で領主として聖女の私と対峙していたの?)


 リリアの両目が大きく見開く。そんなリリアを見て、前へインドル卿は口の端を上げた。


「捨てた子どもが聖女になっているとは思いもしなかったよ。初めて君を目にした時にはずいぶんと驚いたものだ。この国では珍しい、銀髪に紫水晶色の瞳。まさかとは思ったが、極秘に入手した個人情報で確信した。まあ、君はまだ物心つく前だったから私のことなど覚えてはいなかったがね。むしろそれは好都合だった」


 唖然として話を聞くリリアに、前へインドル卿は言葉を続ける。


「ガイザーを次期領主として育てている間、いつ君を消そうかとずっと考えていたのだ。同じ銀髪に紫水晶の瞳、整った顔立ちだ。ガイザーが跡を継ぎ表舞台へ出るようになれば、いずれ君と似ていると噂が立つだろう。実は君が私の子どもだとバレればやっかいなのでね。そうなる前に、君を消さねば、と思っていたんだ」


 そう言って、前へインドル卿はワインボトルを開けてグラスへ注ぐ。リリアがその動作に気を取られている隙に、突然リリアは背後からセドゥクに拘束されてしまった。


「!?何をするんですか!」


 リリアは抵抗しようとするが、びくともしない。その間に、前へインドル卿は小瓶を開けて中の液体をグラスへ入れてグラスを揺らし中身を混ぜる。


「リリア様は聖女がなぜ飲酒を禁止されているか、その本当の理由をご存じかな?はるか昔、騎士は聖女を手に入れるため、聖女の力を失わせる禁忌の毒を聖女へ飲ませた。その毒は、そのものだけでは意味をなさないが、酒に混ぜると効力を発揮する」


 前へインドル卿はグラスを片手にニヤリ、と怪しげな笑みを浮かべた。


「その毒を、いつか君に飲ませようとずっと思っていたんだよ。毒の入手にはかなり手間取ったが、毒を飲ませて聖女の力を無くせば、君はこの国には必要がなくなる。禁じられた飲酒をして聖女の力を失ったのだから、国としては君を罰せなければいけないだろう。王都から追放され、どこか遠い土地で暮らすことになるだろうな。ガイザーとも顔を合わせることは無くなり、誰も君たちが兄妹かもしれないと思うことはないだろう」

「そんなことのために、あなたは禁忌の毒に手を出したのですか?それに、私に毒を飲ませたとしても私があなたを告発すれば……」

「そんなことのため?はっ!何を言うか。へインドル家にとっては一大事なのだよ。それに、禁忌の毒のことは王家の人間と貴族の限られた人間しか知らないことだ。なにより、禁忌の毒など本当にあるわけがないと皆思っているさ。どういう理由であれ、聖女の力を失った君は追放される、それだけだ」


 この男は、本当に父親なのだろうか。捨てた娘とはいえ、実の娘に毒を飲ませ、聖女の力を失わせ王都から追放させようとしている。どこまで身勝手で、残酷なのだろう。


(きっと無理やりにでも毒を飲ませるつもりよね。でも、あの毒を飲むわけにはいかない。どうしたらいい?この拘束を解くことができれば……)


「一つ忠告しておこう。君は聖女として有能だ。そんな君相手だから、魔法を打ち消す上級魔法具をこの部屋に施している。君はどうあがいてもここから逃げることはできない」


 前へインドル卿の言葉に、セドゥクのリリアを拘束する力が強まる。


「くっ!」


(魔法を打ち消す?そんなこと言われたからって、私が諦めるとでも!?)


 リリアは前へインドル卿をキッと睨みつけると、意識を集中する。すると、リリアの体が光輝きだした。


「な……?どういうことだ?魔法は打ち消しているはず……!?」


 前へインドル卿が驚いて目を大きく見開くと、セドゥクの背後にあるドアがドンッ!!と大きな音を立てて打ち破られた。


「リリア!」


 壊されたドアからセルが現れるのと、リリアの体から稲妻が発せられたのはほぼ同時だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ