33 騎士の我慢
セルの口づけは次第に激しくなり、リリアは戸惑いながらもそれをなんとか受け返していた。だが、次第に体は熱くなり、頭がぼーっとして力が抜けてくる。
(ああ、どうしよう、気持ちよくておかしくなりそう)
リリアがぼんやりとそんなことを思っていると、スルリ、とセルの手がリリアの寝間着の中に入って来た。この日もお酒を飲む前に湯浴みを済ませ、お酒を飲んだら寝るだけの状態だった。セルのすこしかさついた手はあたたかく、その感触に思わずリリアの体がビクッと動く。セルは優しくリリアの体を撫でながら、リリアの唇から頬、そして首筋へとキスを移動させていく。
手と唇、どちらの動きにも翻弄されてリリアはキャパオーバーしそうだった。どこもかしこも熱くてくすぐったいのにむずかゆく、どうしていいのかわからない。
「……今日はここまでにしたほうがよさそうだな」
顔を真っ赤にしてくったりとしているリリアを見て、セルは小さく微笑むとリリアから体を離し、よしよしと優しく撫でた。撫でられるのでさえ、リリアにとってはなんだか体がゾクリとして不思議な気持ちになってしまう。
(これ以上は無理ってわかっているのに、終わってしまうのが寂しいだなんて……どうしたらいいの)
リリアは頬を赤らめながら潤んだ瞳でセルを見つめ、そんなリリアを見てセルは、ふはっと困ったような嬉しそうな笑顔になる。
「そんな顔してくれるのは嬉しいけど、今のリリアにはこれ以上は無理だろう?今日はここまでにして、もう寝よう。酒やグラスの片付けは明日で良いだろう」
よいしょっと言いながらセルは軽々とリリアを横抱きにして持ち上げ、ベッドへと運んで行った。
「セ、セル、一人で歩けます!重いでしょう」
「いんや、軽すぎて驚くよ。リリアの飲酒を初めて見つけた日もリリアをこうして運んだけど、あまりの軽さに心配になるくらいだった。もう少し太ってもいいくらいだ」
そう言って、リリアを優しくベッドの中へ置く。
「今日はここで一緒に寝よう。大丈夫、何もしない。ただ添い寝するだけだ」
そう言って、セルはリリアの隣に滑り込むと、リリアをそっと抱きしめた。ベッドの中で密着し、セルの体温とお酒の混ざった香りにまたクラクラしてしまう。
「……セルは、それでいいのですか?私がいつまでもこんなで、その……嫌になったりしません?」
「嫌になる?どうして?そんなことなるわけがない。俺のことを、体を重ねられないからってリリアのことを嫌になるような、そんな軽薄な男だと思っているのか。悲しいな」
はあ、とわざと大げさにため息をつき悲しそうな顔をするセルに、リリアは慌てて顔を上げた。
「そ、そんな風には思ってないです!思ってないですけど、なんだか申し訳なくて……本当は私だってもっとセルに触れて欲しいって思ってるんです。でも、もういっぱいいっぱいで……」
「わかってるよ。わかってるからこそ、リリアのペースで進みたいって思っているんだ。それに、俺はずっとリリアを思っていた。思っているだけで幸せだったし、こうして触れることなんて絶対にできないと思っていたんだよ。その相手が、こうして今は腕の中にいるんだ。どれだけの奇跡だと思う?リリアのために我慢するなんてなんてことない。いつまでだって待って見せるさ」
そう言って、リリアのおでこに軽いキスをする。セルはリリアのためならどんな我慢もいとわない。ただ、これだけ我慢したあと、いざその時が来てあまりの嬉しさに理性がぶっ飛んでしまわないかどうかだけは自分でも不安ではある。
楽しみな気持ちと不安な気持ちを隠したままフッと微笑み、セルはリリアを優しく抱きしめ、目を閉じた。
「おやすみ、リリア。良い夢を」




