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30 果実酒

 ガイザーに妹としての気持ちを吐き出したその日の夜。リリアはセルの部屋に呼ばれていた。帰ってから存分に甘やかすと宣言されていたリリアは、昼間のセルとのやり取りを思い出して顔が熱くなっていくのを感じていた。


(まさか、本当に昼間の続きを……?いやでもセルとはまだキスしかしてないし、それ以上なんてとてもじゃないけど心臓がもたない!)


 セルの部屋の前でうんうんと唸っていると、突然ドアが内側から開いてセルが顔をのぞかせた。


「気配がすると思ったらやっぱりリリアか。どうしたんだ?ほら」

「うっ、はい……」


 セルに促され、リリアは意を決して部屋に入る。そして、目の前の光景に一瞬驚き、目を輝かせた。


「セル、これは……!?」


 テーブルの上に並べられているのは、色とりどりの瓶とたくさんのグラスだ。瓶のラベルを見ると、どうやら様々な果実酒らしい。炭酸水の瓶や保冷箱もあり、リリアはほうっとため息をつく。しかも、テーブルにはクラッカーやナッツ、生ハムやチーズまで置かれている。


「すごい……こんなにお酒がいっぱい!リンゴにベリーにオレンジ、桃、それから果実酒とハーブのブレンドも?どれもこれも色が綺麗!」


 瓶を眺めながらゴクリ、とリリアの喉が鳴る。いつも隠れて飲んでいた森に行けなくなり、セルの部屋で高いお酒を飲ませてもらったその日に気絶してしまい、翌朝目が覚めたらセルと同衾していたというハプニングがあって以来、飲酒は控えていた。


 またお酒で粗相をしてセルに迷惑をかけてしまったらという心配と、同じようなハプニングがまた起きたらどうしようというドキドキがあってまだお酒を本当に飲んでいいのだろうかという思いもある。だが、目の前の光景にリリアの飲みたいという思いは止められない。


「あの、もしかして今日は飲んでも良いのですか?」

「ああ、昼間リリアが頑張って馬鹿兄貴に自分の気持ちをきちんと伝えたご褒美だよ。それに、最近飲酒はおあずけだっただろう。森の調査もまだ終わっていないし、そろそろリリアも飲みたい頃だろうと思っていたんだ」


 どうしてセルはこうも全てをわかったようなんだろうか。リリアはセルを見ながら目を丸くし、口をパクパクさせてからはうっと息を吐いた。


「セルはすごいですね、どうして私の気持ちがわかるんですか?まさか、読心魔法まで使えるとか?」


 読心魔法はこの国では禁忌に近い魔法として位置づけられており、使える人間は限られている。聖女のリリアでさえ、その魔法は使うことができない。もしセルが使えるとしたら恐ろしすぎる。


「まさか!俺にとってリリアはわかりやすいんだよ。それだけリリアのことを見ているってことだ」


 そう言ってセルはリリアの手を取って軽くキスを落す。その仕草はあまりにも自然なのに色気があってリリアは一瞬で顔が真っ赤になった。そして、そんなリリアを見てセルは嬉しそうにくつくつと笑う。


「この間は高いお酒を急に飲んですぐに潰れてしまっただろう?だからリリアにはお酒の良い飲み方を教えておこうと思ったんだ。さ、最初はどのお酒がいい?全部果実酒だが味も度数も違うから好きなのを選んで」

「えっ、と……それじゃ、リンゴがいいです」


 リリアがそう言うと、セルは頷いて瓶を取ると、グラスの半分くらいまで入れてから炭酸水を入れた。


「炭酸で割る時は1:1がおすすめだ。最初はスタンダードな割り方で飲んでみて、少しずつ配合を変えて自分の好みを知っていけばいい」


 そう言って、セルはリリアにグラスを渡した。


「きれい……!」


 グラスの中でしゅわしゅわと気泡が上がっていく。光に当てるとキラキラと輝いてとても美しい。リリアは目を輝かせてグラスを口元に近づけると、リンゴのフルーティな香りがふわっと漂ってきて思わず微笑む。そのまま一口飲むと、リンゴの甘みと酸味が口の中に広がり、炭酸のシュワシュワがはじけている。


「美味しい!」

「それはよかった。炭酸割りはすっきりとした味わいになるから飲みやすいんだ。おつまみもあるから少し食べながら飲むといい」


 セルも自分用に作ったグラスを飲む。セルに促されてリリアはナッツを口に含んだ。セルに出会う前、リリアは飲酒をする時いつも一人で隠れるように飲んでいた。飲酒は抑え込んでいる自分を解放するための時間だったのでおつまみなんてものもない。おつまみを食べながら飲むお酒がこんなに美味しいものだったなんて、リリアにとっては驚きだった。


「他の果実酒も選んでいいぞ。色々なものを飲んでもらうために用意したんだから」

「……でしたら、ベリーも飲んでみたいです。色がとてもきれいだし、色々なベリーが混ざってるんですよね」

「ああ、この果実酒はストロベリーにブルーベリー、ラズベリーなど色々混ざっている。そうだな、ベリーだったら割って飲むのもいいが、これにかけて食べるのもいいだろう」


 そう言って、セルは保冷箱を開けて何かを取り出す。それは、すでにアイス用の食器に取り分けられているアイスクリームだった。


「えっ、アイス?」

「ああ、ベリーの果実酒はアイスやヨーグルトにかけてもいい。とろみのある桃のお酒も向いているな」


 そう言ってセルがアイスに果実酒をかけると、白いバニラアイスにベリーの色が生える。


「さ、召し上がれ」


 リリアは渡されたアイスを一口すくい、ぱくっと頬張った。


「!」


 バニラアイスの甘さにベリーの甘酸っぱさがマッチしていてとても美味しい。リリアがぱあっと顔を輝かせると、セルは満足そうに微笑んだ。


 

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