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26 兄の心配

 セルの屋敷から帰ってきたガイザーは、ずっと疑問を抱えたまま執務室の椅子に座り腕を組んでいた。


(なぜリリアはあんなにも怒っていたのだろう?わからない、何に対して怒っていた?)


 聖女の仕事についてだろうか。帰り際、セルはもう一度聖女の仕事について学び直せと言っていた。だが、聖女の仕事については事前に調べていたことだ。


 聖女の仕事は主に会議や式典への出席、聖女の祈りを行うことだ。特別なことではなく、聖女の祈り以外はリリアでなくても可能だろう。


 そもそも、リリアがセルと婚約していることが腑に落ちない。なぜリリアはあんなに年の離れた気怠げな騎士団長と一緒にいるのか。きっとセルに何か弱みを握られているに違いない。もしかしたら、リリアの過去を何らかの形で知ったセルが、公表されたくなければ一緒になれと言ってリリアを脅しているのかもしれない。


 セルの女性関係については誤解だとリリアは言っていたが、果たして本当にそうなのか。リリアがセルの味方のように振舞うのも気に食わない。


「もう一度きちんと調べる必要があるのか……?いや、そんなことよりも一刻も早くリリアと一緒に暮らしたい」


 リリアと離れ離れになってから、この時をどれだけ望んできたことか。自分が突然いなくなったことで、リリアはきっと相当苦労したに違いない。


 離れていた時間を埋めて、リリアに尽くしたい。リリアが今まで苦労した分、じゅうぶんに労り、楽をさせてあげたい。


 それが、自分にできる唯一の罪滅ぼしだと、ガイザーは思っているのだ。


「騎士団長といるより、俺と一緒にいる方がリリアにとってずっと幸せだ。それをわからせてあけないと」


 ガイザーは真剣な顔で呟いた。





「聖女リリアを騎士団の任務に同行させる?」


 会議室内にガイザーの疑問の声が鳴り響いた。ガイザーがセルの屋敷から追い出されて一週間後。この日、国の有力貴族の議員たちと騎士団長であるセル、そして聖女リリアが参加する会議が王城内でひられていた。


「ああ、へインドル卿は父上から聖女の仕事について詳しくお聞きしていないのですかな?聖女の仕事は会議や式典への出席、聖女の祈りを行うと国民には周知していますが、実際はそれだけではないのです。リリア様には騎士団の任務に同行していただくことも多々ありましてな。今回は国境沿いの一部の結界が弱まっているため、それの修復と強化のためにリリア様にも現地へ行ってもらう必要がある。魔物の多い場所なので、今回は騎士団の任務に同行させるというよりも騎士団にリリア様の護衛を頼む、というのが正しいでしょう」


 議員の一人の言葉に、ガイザーは信じられないというような顔で絶句していた。そんなガイザーへ、セルは冷ややかな視線を送る。


「待ってください、聖女リリアをそんな危険な場所へ行かせるのですか!?聖女に何かあったらどうするのです!?こんなこと、国民は許さないでしょう。結界は聖女の祈りで強化できるはず。現地へ赴かなくても……」

「だからこそ、国民には聖女は安全な仕事しかしていないと思わせているのです。それに、今回の結界の弱まりは故意的にされた可能性が高い。自然な弱まりであれば遠隔での祈りで強化は可能ですが、故意に壊されたとなれば、現地へ赴き実際に見て確認しなければ直しようがないと」


 議員がそう言ってリリアをみると、リリアは真剣な顔で頷いた。


「そんな……故意に壊された可能性があるのならなおさら危ないでしょう!そんな危険な場所に聖女を向かわせるだなんてあり得ない」

「だからこそ、騎士団にリリア様の護衛を頼むのです。騎士団長のセルはリリア様の婚約者だ。何があっても守り通すでしょう」

「当然です」


 セルが真剣な顔でそう答えると、ガイザーは奥歯をグッと噛みしめてセルを睨みつける。


「それに、へインドル卿もご存じの通り今回の場所はあなたの領地内だ。へインドル卿も同行するのですから、そんなに心配なら騎士団と共に貴殿がリリア様をお守りすればいい」


 議員にそう言われ、ガイザーは黙って目を閉じ、真剣に考えこんでいる。そして、目を開いてしっかりとリリアを見つめた。


「わかりました、リリア様のことは何があっても領主として俺がお守りします」




 その後他の議題についても話し合いが行われ会議がつつがなく終わり、リリアとセルは王城内にある、リリアが聖女として使っている執務室の前にやってきた。


「セル、送っていただいてありがとうございました」

「いや、会議が終わった後も一秒でも長くリリアと一緒にいたいからな。このあとまだ仕事が残っているのが悔やまれる」

「仕方ないですよ。私も頑張りますので、セルも頑張ってくださいね」


 リリアがそう言うと、セルは優しい微笑みを浮かべてリリアの頬を静かに撫でた。リリアが嬉しそうにその手に頬を摺り寄せていると、ふと足音が聞こえてくる。二人は体勢を整えて少し距離を取ってから足音のする方へ目をむけた。


「リリア」

「……へインドル卿」


 足音の主は、ガイザーだった。


「どうかしましたか。――二度とリリアに近づくなと言ったはずだが?」


 セルがリリアを守るようにして立ちはだかり、牽制するように睨みを効かせる。だが、ガイザーはひるむことなく、セルを睨み返した。


「二人に話がある」



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