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25 止まらない愛

 聖女としてでしか価値がない。国に、国民に認められなければ意味がない。それは、もはやリリアにとって完璧な聖女としてあることに縛られる呪いのようなものだった。


 セルはリリアの腕に手を添えて優しく撫でると、そっとリリアの顔を覗き込む。セルのルビー色の瞳に映るリリアの顔は、頼りなく悲しげだ。その呪縛から一刻も解放してあげたい。セルの胸にはリリアへの思いが溢れ出してくる。


「リリア、俺はリリアが聖女になってからずっとリリアを見てきた。初めて聖女リリアと出会った時、きっと右も左もわからないだろうにそれでも聖女としてしっかり振る舞おうとするその姿に純粋に驚いたよ。そして会議や任務で会うたびに、聖女としての立ち振る舞いが洗練されているのを見て、リリアはきっとものすごく努力をしているんだろうと思った。その努力は並大抵のものじゃないはずだ。誰も気にしていないが、俺はずっとリリアの頑張りをすごいと思っていたし、陰ながら応援していた」


(セル……!)


 会議や任務の時にしか会わない騎士団長。飲酒のことがバレるまでは、すごく仲が良かったわけでもないし、特別目をかけてもらっていた覚えもない。

 いつも気怠げで覇気のない瞳の騎士団長だが、ここぞという時には頼りになるこの国になくてはならない存在。そんなセルに、ずっと見守られ、応援されていたと知って、リリアの冷え切った心はどんどんとあたたかくなっていく。


「俺は、聖女として完璧であろうと頑張るリリアも、おっちょこちょいでダメダメで隠れて酒を飲んでしまうリリアもどっちも大切で愛おしいと思っている。俺にとっては、どんなリリアも愛するたった一人の人だ。俺はリリアの唯一の理解者だと思っている。そして、リリアにはどんな時でも俺を頼ってほしい、そう思っているよ」


 フッと微笑むセルの顔は、リリアを愛おしくてたまらないと言わんばかりの顔だ。そんなセルに見つめられ、リリアの心臓はどんどん高鳴っていく。


「セル、どうしてそんなに優しいのですか?こんな私を……」

「こんな私、は禁止だ。俺にとっては最愛の人なんだから。それにどうしてって、俺はリリアに出会ってからずっとリリアを見守ってきた。そしてリリアという人を知って、どうしようもなく惹かれた。それだけだ。それだけでは不満?」

「……不満では、ない、です」


 顔を赤らめながら、リリアは小さく首を振る。そんなリリアを見て、セルは嬉しそうに微笑み、顔をそっと近づけた。

 頬を擦り寄せると、リリアは照れながらも目を瞑りくすぐったそうにしている。そんなリリアを見てセルは心底可愛らしくいじらしいと思った。


 鼻先をくっつけると、リリアはフフッとまた照れたように微笑む。そんなリリアの唇に、セルは小さくキスを落とした。リリアは少し驚きながらも、嫌がる様子はない。セルはそのままリリアの唇を優しく食むようにして何度もキスをした。


(セルのキスは、優しくて柔らかくて、あたたかい……)


 想いのこもったキスに、リリアの心はどんどんとほぐれていく。そして同時に、なんだか気持ち良くなってきて思考がぼんやりしてきてしまうのだ。優しく何度も食まれてようやく唇が離れると、セルの顔が離れていく。

 セルの顔をぼーっとしながら見つめると、セルの顔は何かを堪えるような顔に変わっていた。


「……リリア、このままここにいると襲ってしまいそうになるから、今日はもうこの辺で終わりにしよう。俺がちゃんとリリアの頑張りを知っているから安心してもらえれば、今はそれでいい」


 小さく息を吐いてからセルはそう言って、優しく微笑む。セルはその場から立ちあがろうとするが、リリアは急に寂しくなって思わずセルの腕の裾を引っ張った。


「っ、リリア?」

「……襲っては、くれないの?」


 その場に沈黙が流れた。そして、リリアは思わずハッとする。


(えっ、私、何を言ってるの!?)


 自分で自分の言った言葉に驚き、目を泳がせてアワアワとしてしまう。そんなリリアを見て、セルは思わず片手で顔を覆い、盛大にため息をついた。


(ああっ、セルが呆れてる!?)


「ご、ごめんなさい、あの、私……」

「あのな、そんなこと言われたら大抵の男は歯止めが効かなくなる。そう言ってくれるのは嬉しいが、……かなり嬉しいが、でも、今この勢いでリリアを抱くのは違う。リリアだって、言ってから慌てているだろ」

「そ、それはそうですけど、えっと、なんて言いますか……」

「大丈夫、リリアが自分からそう思ってくれるようになったのは嬉しい。それに、そのうち嫌でもリリアのことは抱き潰すつもりだから」


(へえっ!?だ、抱き潰す?とは!?)


「だから、慌てなくていいんだよ。今日はいろんな事があって心身共に大変だっただろう。とにかく休んだほうがいい」

「うっ……わかりました」


 セルはリリアの頭を優しく撫でてから立ち上がり、ドアへ歩き出した。


「あの、セル」


 セルがドアを開けて部屋を出ようとしたその時、リリアがそっと声をかける。セルはどうしたという顔でリリアを見た。


「本当に、ありがとうございました。セルが婚約者で……夫になる人で本当によかった」

「……そうか、それならよかった」


 セルは嬉しそうに微笑んで、ゆっくりお休み、と言って部屋を出ていった。



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