14 酔っ払い聖女
「セル~!このおさけ、おいしいですねぇ~」
顔を赤くし、へらへらと笑いながらリリアはセルに絡んでいた。
(これは完全に酔っぱらってるな)
いつもは自分からセルに近づいてくることのないリリアが、今は自分からセルに密着している。夜になり、お互い湯浴みも済ませてあとはもう寝るだけという状態でお酒を飲み始めたので、リリアからは湯上りのいい香りがしている。そのせいもあって、セルはついドキリとしてしまった。
(ジュースみたいで美味しいと言ってぐいぐい飲んでいたからな。高い酒だけあって確かに飲みやすくはあるが、度数が低いわけじゃない。あっという間に酔いが回ったんだろう)
「セル~!わたしのはなし、きいてますかぁ?」
「はいはい、聞いていますよ聖女様。ほら、酒はこのくらいにして、水を飲みなさい、水を」
「ああ~わたしのおさけえ~!」
リリアから酒の入ったグラスを奪い取り水の入ったグラスを持たせようとすると、リリアは悲し気に酒の入ったグラスへ手を伸ばしている。
「全く、普段はたしなむ程度と言っていたけど、本当にたいして強くはないんだな。まあ、自由に飲ませていた俺も悪いが」
「セルはなにもわるくありませんよ!むしろとてもよいひとです!わたしにこんなおいしいおさけをのませてくれて……ほんとうに、ほんとうにおいしいです!こんなおいしいおさけのんだのはじめて!」
「それは良かった」
キャッキャッと両手を上げて嬉しそうに万歳するリリアを、セルは優しい眼差しで見つめて微笑んだ。
「セルはほんとうにやさしくて、りっぱで、すてきなひとですよ!きしだんちょうとしてもいつもすごくて、こんなにすごいひとがわたしのこんやくしゃだなんていまでもおどろきです。こんなだめだめなわたしに、かんぺきじゃないわたしにやさしくしてくれて、ほんとうにセルはいいひとです!ありがとうございます、セル」
そう言って、ふにゃっと嬉しそうに笑うリリアを見て、セルの胸はドンッと大きく高鳴った。
(あー、これは、ヤバいな)
セルはうつ向き片手で顔を覆うと、ふーっと大きく息を吐いた。リリアは不思議そうな顔でセルを眺めていると、セルは顔を上げてリリアをジッと見つめる。その瞳の奥は、メラメラと何か熱いものが燃えている。
「可愛すぎるリリアが悪い」
そう言って、セルはリリアの後頭部にそっと手を回すと、リリアにキスをした。リリアは驚いて離れようとするが、セルは逃がさないというようにさらにキスをする。何度も何度も執拗にキスを繰り返すうちに、リリアの体がくったりとしてきた。
セルは静かに顔を離してリリアを見ると、リリアは顔を赤くして蕩けたような顔でセルを見ている。その顔を見て、セルの中で何かが小さくぷちり、とはじけ飛んだ音がした。
(あー、この顔はまずい。まずいだろ。くっそ、このまま押し倒してぇ。だがリリアは酔っぱらってる。酔っぱらったリリアに手を出すとかありえないだろ)
セルが理性と欲望の間でもだえていると、リリアは首をかしげて口をパクパクとしはじめた。
「あるえ?なんか、ゆらゆらする……」
「あ、おい、リリア?リリア!」
ぐらり、とリリアの体が後ろに倒れそうになり、咄嗟にセルはリリアを抱きしめた。
(あっぶねぇ)
セルはホッとして腕の中を確かめると、リリアは目を瞑ってスースーと寝息を立て始めていた。
*
ベッドの中で、リリアがもぞりと動く。瞼が少し動いて、眉間に皺が寄るとゆっくりと目が開いた。
(あれ?私、寝てた?いつの間に……って)
目の前の光景にリリアは絶句する。リリアの綺麗な紫水晶のような瞳には、静かに寝息をたてて寝ているセルの姿が映っていた。
(なっ……んでっ!?セルが寝てるの!?えっ?ええっ?)
リリアは驚いてセルの体を見た。服は着ている。自分の体も確認すると、ちゃんと寝間着を着ていた。
(ああ、よかった……って、でもなんでセルが隣に寝てるの?)
胸をドキマギさせながら、リリアはじっとセルの寝顔を見つめた。いつもは気怠そうで覇気のない瞳は閉じられ、ふわりとした茶髪がすこし目元にかかっている。
(こうしてみると、やっぱりセルはイケメンね。目を閉じててもわかるわ。わあ、まつげ、結構長いんだ)
セルの寝顔なんてなかなか見る機会がない。ドキドキしながらもここぞとばかりにリリアはジーッとセルの顔を眺めていた。
「……俺の顔を見るのはそんなに楽しいか?」
「えっ!?」
急に声がして、赤い目がリリアを見つめ返す。リリアが驚いて声を上げると、セルはにやりと微笑んだ。
「おはよう、リリア」
(わわっ、寝起きのセル、色気がすごい……!)
「お、おはよう、ございます」
あまりの色気にセルを直視できなくなったリリアは、くるりとセルに背中を向けた。だが、すぐにふわりとリリアをあたたかい温もりが包み込む。
(う、わ……セルに、後ろから抱きしめられてる!?)




