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第五十七話 再会に向けて

 九月十二日。

 チャーリーは東京行きの日程をウエバヤシから詳しく聞いた。

 今月の二十九日に外務省主催で浜離宮の延遼館における祝賀会が開催される。そして来月の二日にはハナブサ公使の個人的関係者による祝宴が向島の遊就館で開催される。

 この東京の二つのパーティーに、サイモン夫妻は出席を求められている。

 ということは、今月の二十九日までに夫のジャンと再会できる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 チャーリーはたずねた。

「いつ、私は私の夫に会えるのですか?」

 ウエバヤシは言う。

「私たちの考えでは、今月の二十九日の祝賀会で、貴女たちに【感動の再会】をしてもらいたいのです」

「はい」

「そのため、一週間ほど前から、二人に練習していただきます。【感動の再会】の場面を盛り上げるために。ですから、二十二日には、サイモン氏は東京に到着しています」

 チャーリーは首を傾げた。

「二十二日までに私は彼と再会できるということですか?」

 はい、とウエバヤシはうなずいた。。

「ナマの事実としてはそうです。しかし、二十八日に【感動の再会】です、公的な事実としては」

「公的な事実として?」

「見ている人たちに感銘を与える最高の場面の演出を日本の外務省は希望しています。そのために、最大限の努力をしたい。

 貴方たちご夫妻にも協力していただいて、事前に打ち合わせと練習を行う時間をしっかり取りたいと考えています」

「ナマの事実として一週間前から私はジャンと顔を合わせて、ずっと練習して、本番の祝賀会で【感動の再会】を行う、公的な事実として」

「ご理解がお早い」

「ありがとうございます」

 外交関係者の家庭に生まれたチャーリーにとって、その程度の虚偽のドラマの演出は驚くにあたらない。

 驚いたのは、ウエバヤシがこの場で堂々と語ったことだ。

 チャーリーは注意する。

「今日は学生のバイトの少年がおります。そういう舞台裏の話を彼に聞かせたくありません」

 ウエバヤシは言った。

「これは機密だぞ」

「はい」

 モトキは大真面目な表情でうなずいた。


 我慢できなくなったようで久サガが口を挟んだ。

「モトキは席を外した方がよいのでは?」

 ウエバヤシは首を横に振った。

「彼は、もはや私たちのチームの一員だろう?」

「はい」

 モトキは明るい声で答えた。

 久佐賀は苦笑した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ウエバヤシは言う。

「二十九日の【感動の再会】を行うまでに、チャーリー・サイモンが東京で顔を売るための記者会見をセッティングいたします」

 記者会見。

 チャーリーの頭の中を何かが引っ搔いた。

 たずねる。

「どれぐらいの規模の記者会見をやります?」

 ウエバヤシは答えた。

「帝国ホテルの一室を借りることを予定しています」

「それでは大して顔を売ることにならないのではないですか?」

 困ったように、ウエバヤシは首をかしげた。

「では、どうしろと?」

 チャーリーの提案。

「先日にクサガを通してうかがいました。東京や横浜でも、私のことを大きな劇場で使ってみたいというプロモーターがいらっしゃるそうですね? 記者会見の前に、東京でステージを一つこなしておきたいです」

「なぜ?」

「もっと東京の人々の注目を集めましょう」

 ウエバヤシは首を横に振った。

「ちょっと待ってください。

 記者たちは、真面目な記事の材料として、貴女とツルメの組み合わせを求めています。

 プロモーターは、エンターテイメントショウとして、貴女とカネの組み合わせを求めています」

 だったら、とチャーリーは言った。

「カネも東京に連れて行く必要がありますね?。

 私はしっかり東京の人々の注目を集めたいと思います。

 もはや私は今の長崎で相当な顔だと思っています。東京で私の存在が軽く扱われたら、長崎の人たちに悪いと思います。

 記者会見の前日ぐらいに私とカネのステージを東京のどこかの劇場にねじこんでください」


 自己アピールに目のないカネにとって歓迎するべき流れであった。

 彼女は勢い込んで言った。

「花房公使の朝鮮脱出行についての台本を私は新しく用意しています。三日もあれば、東京のお客様の前でエンターテイメントとして演って恥ずかしくないものを仕上げます。どうか私も東京に連れて行ってください」

 やる気があふれている。

「東京の劇場だって父の商売のツテで早急にご用意できると思います。東京にも父の商売相手の友人がいますから」

 その言葉が決定打であった。

 ウエバヤシは大きく頷いた。

「わかりました。カネの雇い止めは取り消します。来月も東京で活躍してもらいます。しかし、お父上に相談しなくてよいのですか?」

「これぐらいのことは父は私に任せてくれます」

 ウエバヤシはもう一度深く頷いた。

「来月もよろしく」

「こちらこそ」

 二人は握手を交わした。

 しかし、とウエバヤシは愚痴った

「二十九日の【感動の再会】の準備と記者会見のセッティングに平行して、東京のプロモーターとの交渉までしなければならない。これから僕も忙しくなりそうだ」

延遼館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%B6%E9%81%BC%E9%A4%A8

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