エピソード 8
「……痛っ」
どこから現れたのかわからぬピンクのスリッパが頬に直撃したミカエルは大げさに声を上げる。
それが気に入らなかったのか、さらに勢いがついたピンクのスリッパが再びミカエルの顔に直撃する。
「おかしいな。これくらいのものなら軽く避けられるはずなのに」
というより、避けたはずだった。
それなのに直撃している。
その理由はもう少し経ったところでわかるわけなのだが、とりあえずそれは脇に置き、ミカエルがまず片付けなければならない問題はもちろん……。
「なぜ僕は殴られているのかな?」
そう。
腑に落ちない根本は理由もなく暴力を振るわれていることだった。
「僕は君の希望通りおいしい朝食をつくりテーブルに並べ、そして、ふたりで楽しく食べようとした。このどこに僕が殴られる要素があった?」
「これ」
自分がいかに理不尽な暴力を受けたかを説明したミカエルの言葉の直後、薫子が指さしたのはミカエルの皿にあったソーセージだった。
「これが?」
「自称天使に聞きます。あなたの皿にはソーセージは何本ありますか?」
「四本だね」
「では、こちらには?」
そう言って薫子が指さしたのはもちろん自分の皿である。
「二本だね。でも、さっきまでは三本あった」
「そう。私が三本であなたが四本。おかしいでしょう」
「だって、袋には七本しか入っていないのだから仕方がないでしょう。イダっ」
言い終わった瞬間に、再びのスリッパ直撃である。
「そういう時はわたしが五本。あなたが二本でしょう」
そして、もう一撃。
「理不尽だ。これはあまりにも理不尽だ」




