エピソード 6
「こんにちは。いや、おはようございますか」
ドアを開けず、もちろんノックをせずに玄関に立つその男を眼鏡少女が眺める。
そして、ひとこと。
「私はあなたに特別用事はないのだけど」
つまり、出ていけ。
そういうことである。
その男ミカエルはこの少女の態度に少し驚く。
それとともに興味を持つ。
「僕がここにいることに驚くことはないのだね。なぜ?」
そう。
男は彼女が見ている前でドアのすり抜けをやってみせたのだ。
自分が天使であることを理解させるために。
もちろん理解はするだろうが、驚いて腰を抜かすかもしれない。
まあ、それでも手間をかけて言葉で説明するよりも手っ取り早い。
だが、その副作用的ものはなかったが、肝心の部分に悪影響が及ぼしそうな状況なのだ。
……仕方がない。
ミカエルは作戦を変更する。
「一応説明するけど、今、僕はドアをすり抜けて来た」
「そうね。見ていたから知っている」
……おいおい。それだけかい。
ミカエルはいよいよ焦る。
「すごいことだと思わない?」
「さあ。私はできないけど、できる人はいるかもしれないから」
……決まりだ。
ミカエルは心の中で叫ぶ。
……彼女はアホだ。
……そして、こんなアホが次の神であるはずがない。
……つまり、これはアリシア様の冗談。
……ということで帰ることにするが……。
……このまま帰るのも釈に障る。
「実は僕は天使だ。だから、ドアのする抜けができたのだよ」
「なるほど。でも、天使って羽が生えて、頭に丸い何かを乗っけていると思ったのだけど」
「あれはそういうことにしているだけ」
「怪しいわね」
「怪しくないでしょう」
「いやいや十分に怪しい。あなた実は悪魔でしょう」
「それだけはない」
「じゃあ、証拠を見せて」
「証拠?証拠というのは僕が天使である証拠ということ?」
「それ以外に何があるの。あなた馬鹿でしょう」
やれやれという顔をしたミカエルは大きなため息をつく。
「ちなみに何をしたら僕が天使と認めてくれるのかな?」
「まあ、とりあえずこの部屋の片づけ。それから何かおいしいものをつくって頂戴」
「……天使である僕を便利な家政夫扱いとは」
「できないの?」
「できるさ。簡単に」
そう言ってミカエルは指を鳴らす。
掃除という作業はおこなわれたことがないのではと疑いたくなるような部屋が一瞬でかわいさが充満した女子高生が住む場所へと生まれかわる。
だが……。
「失格」
「そんなペテンを使わず。自分の力でやって」
「それをやって天使と認められるなら、この世界は天使だらけになるじゃないの」
「ゴチャゴチャうるさい。天使と認められたいのでしょう。え~と。名前は?」
「ミカエル」
その瞬間、少女は相手を罠に嵌めたときの詐欺師のようなどす黒い笑みを浮かべるものの、すぐにそれを消す。
そして、何もなかったかのように問う。
「ミカエル。天使ぽい名前ね。ちなみに私は四季乃薫子。よろしく。自称天使さん」
「だから、僕は本当に天使だから」
「はい、はい、わかりました」
「それよりも早く掃除始めて」




