エピソード 5
それから数時間後。
高校生とおぼしき少年が眺めていたのは、豪華とは程遠い、というより、ボロアパートと言ったほうがいい二階建ての建物だった。
「……本当にこんなところに住んでいるのか?」
「というより、こんなところに住んでいるのが候補者なのか」
「アリシア様の言葉を疑うとはさすが悪魔というところか」
少年のひとりごとを遮るように背後からやってきたのはもちろん聞き覚えのあるあの男の声である。
「軽薄な貴様にだけは言われたくない。ミカエル」
「何とでも言ってくれ。だが、もう一度言う。今回も僕らの勝ち。つまり、君たちはまた地獄の番人をやるのだよ」
「うるさい」
「それで……」
「確認したのか?ターゲットを」
「もちろん」
「四季乃薫子は、二階の右端に住んでいる。ひとりで」
「両親はすでに死亡。あれは唯一の遺産。そして、あのアパートの家賃で彼女は生活している」
「高校には入学したが、あまり行っていないようだ。いわゆる引きこもりの真正ニートに向かってまっしぐらというところだ」
「収入があるのならニートではないだろう」
「だから、君はダメなのだよ。ルシファー」
そう言ってミカエルと呼ばれた若い男はわざとらしく首を振る。
「こういうものは雰囲気を大事にしなければならないのだよ」
「せっかくだ。かわいそうな君にとっておきの重要情報も教えてやろう。彼女はメガネをかけたまあまあの美人。ただし、貧乳だ。つまり、胸の大きな女性が好きな僕の守備範囲外」
「それはいらん情報だ。それに貴様に守備範囲外などないだろう。女性なら年齢、既婚未婚問わず誰でも声をかけているだろうが。この前、大勢の前で蹴り飛ばされる醜態を演じた時の相手は貴様の言う胸の大きい女性だったとは思えないだが」
「そういう失礼なことを言うのかい。君は。彼女に言いつけるよ」
「まあ、そういうことでそろそろ開始時間になるので行くことにするよ。彼女にオーケーを貰ったら正式に紹介するから楽しみにしていてくれ」
どこまでも軽い言葉で少年を鼻白ませた若い男はその言葉とともに、歩き出した。
そのアパートへ。