エピソード 4
翌日の早朝、というより昨日と今日の境がほんの少しだけ過ぎた頃。
二十代前半のハーフ系イケメン男子。
ただし、そのオーラは軽さ全開。
年頃の娘を持つ親が一番嫌いな要素をてんこ盛りにしたようなその男ミカエルはターゲットが住むというアパート近くのコンビニに姿を現わした。
雑誌を読み漁り、最後に菓子パンと缶コーヒーを買って外に出たところで、彼を待っていたらしい三人の若者が立っていた。
もちろん彼はとっくに気づいていた。
だが、素知らぬ顔でこうのたまう。
「もしかして、僕に用事?」
どこまでも軽さ全開のその男に三人組のひとりが応じる。
「そういうこと。当然要件はわかるよな」
「所謂カツアゲという奴?」
「正解」
「ということで、出せ」
そう言って手を差し出す。
だが……。
ミカエルはニッコリ笑うとその手を握る。
そう。
これはいわゆる握手。
当然相手は怒り出す。
「ふざけるな。おまえの手など要らない。さっさと金を出せ」
もちろん残るふたりも素早く戦闘態勢になる。
だが、ミカエルは余裕綽々。
というより、状況がわかっていないようにさえ見える。
ただし、本当にそうかと言えば違う。
わかったうえでやっている。
つまり、三人をからかい、弄んでいるのだ。
「やめたほうがいいよ」
「今なら、有り金全部で許してあげるから」
「それはこっちのセリフだ」
そう言って三人の中で一番体格のいいゴリラのような男がパンチを繰り出す。
……もらった。
ゴリラ男は心の中で呟く。
だが、ほんの少しのところで軽薄男は躱す。
そして、態勢が崩れたゴリラ男の足を軽く払う。
いや。
軽く払ったはずだが、男の足は不快な音を立てる。
間違いなく折れた。
というより、潰れた。
情けない声を上げるゴリラ男の仇を取ろうと今度はふたりがかりで襲いかかる。
だが……。
「そもそも君たちみたいなのが僕の相手をしてはいけないのだよ」
自分たちに何が起こったのかわからないまま、激しい痛みとともに地面に叩きつけられたふたりの男に声をかけた軽薄男はひとりの男の顔を踏みつける。
「これ以上痛い思いをしたくかければ、お金を出して」
「財布ごと」
「返事がないよ」
その声とともに足に少しだけ力を込めると、足もとから悲鳴が上がる。
そして、少しだけ時間が過ぎた同じ場所。
三人分の財布を巻き上げた軽薄は最後にこうつけ加えた。
「僕は物覚えがいい。次に顔を見た時は両手両足すべてを潰すからね。そうなりたくなければこの周辺を歩かないことだ」
「……せっかくだ。軍資金稼ぎを兼ねて、もう少しこの町の清掃作業をしようかな」
とても天使とは言えないセリフを残してその天使は歩き出した。
次なる獲物を求めて。