エピソード 3
「ふたり揃ってやってくるとは相変わらず仲が良いことで結構です」
それが天使と悪魔を迎えた神が口にした最初の言葉だった。
見た目だけでいえば、美魔女と表現できそうな美しいアラフォー女性のようなその神は自らの前に跪くふたりを眺めながら言葉を続ける。
「まあ、ルシファーが時間に正確なのはいつもどおりですが、遅刻魔のミカエルまで時間通りにやってくるとは思いませんでした」
「これは明日雨が降るのではないでしょうか」
「まあ、降るのは下界のことですし、どこかでは降るでしょうが」
出来の悪い冗談に含まれた真実に、一方は黒い笑みを浮かべ、もう一方は焦り恐縮する。
その様子を楽しんだところで、アラフォー女神の言葉はいよいよ本題に入る。
「さて、すでに伝えていることではありますが、私の跡を継ぐ者が決まりました」
「名前は四季乃薫子。日本人。十六歳。女性」
「年齢から考えれば女子高校生ですか?」
「まあ、それにイエスと言っていいのかは微妙ですが、一応そういうことになります。まあ、会えばその辺のことはわかります」
「はあ」
「そして、ふたりにとって最も重要なこと……」
「今回の勝負の方法ですが……」
「今回はいたってシンプル」
「自分たちの身分を明かしたうえ、神になることを承知させ、この天上界に彼女を連れてくること。それが出来た方を勝者とします」
「ただし、神になるということを彼女に納得させる。これは絶対条件です。拉致や、騙して連れてきたりする行為は禁止。おこなった場合、その時点でそちら側が敗者になるだけではなく、今後二回の戦いも不戦敗とします」
「よろしいですか?」
よろしいも何もこれは命令であるのだから、承知するしかない。
ふたりが大きく頷いたところで、アラフォー女神はさらに言葉を加える。
「では、スタートと言いたいところですが、天使と悪魔が山ほど押しかけては先方も困るでしょう。ですから、先行後攻を決めることにしましょう」
「そして、先行が交渉開始した翌日からに後攻の者が彼女のもとを訪れ交渉するということにしましょう」
「もちろんその時点で先行の者が彼女の『イエス』を手に入れていれば後攻の者は出かける前に敗者となるわけです」
「では、先行後攻を決めましょうか」
そして……。
「悪いな。ルシファー。今回も僕の勝ちだ」
「悪党の分際で運だけには恵まれている」
意気揚々と勝利宣言をおこなう軽薄天使と項垂れる堅物悪魔。
「では、明後日の午前六時を開始時刻にします」
「承知しました」
対照的な姿で退室するふたりを見送ったアラフォー女神が独り言を呟く。
「ミカエルはすでに勝った気でいるみたいですが。彼女はなかなかの曲者。そう簡単にいきませんよ」
「そして、それは後攻のルシファーにも言えること」
「まあ、眺めている分には楽しいですが」
「とりあえず頑張ってください」