エピソード 25
その笑みに何やら不気味なものを感じながらもその恐ろしさに気づかない悪魔がその部屋を見渡す。
……ベッド。まあ、これは四季乃薫子ものだ。
……ということは昨晩この三人は床で雑魚寝ということか。
……まあ、普段身分不相応な環境で生活しているこいつらがそれを嫌がるのは十分理解できるが、我々悪魔はいつも地獄の岩場で寝ている。つまり、鍛え方が違うのだ。
これからやってくる大惨事など想像もしていないルシファーはニヤリと笑う。
……それよりも問題はこの四季乃薫子をどうやったら満足させられるかということだ。
……そうなった場合、三対一はさすがに分が悪い。
……弟のルシフェルを呼ぶか。それとも智の悪魔アマイモンを呼ぶか。
……どちらにしてもその内容を聞き出してからだ。
「四季乃薫子。我々の勝負はおまえを満足させた方ということだが、具体的にはどのようなものなのだ?」
「もちろんそれはその言葉どおり。私のためにどれだけ働いたかということになるわね」
「なるほど」
「ルシファー。言っておくが、食食事係は僕に決まっている。君に出番はない。もっとも君に料理の才がないのはすでに証明されているけど」
「うるさい」
「だが、そうなると、掃除とか洗濯とか雑用か……ん?」
「まさかとは思うが、夜伽とかではあるまいな」
「この破廉恥悪魔」
その瞬間、例のピンクのスリッパがやってくるが、ルシファーはそれを躱す。
彼に代わって被害を受けたのはミカエル。
「なぜ避ける?」
「普通避けるだろう」
「というより、この程度のものを避けられないというのはどういうことか?」
ルシファーとミカエルの噛み合わない会話を聞き流しながら薫子はピンクのスリッパを眺め、こう呟く。
「……やはり対天使用スリッパは悪魔には通用しないのね」
「では、こちらを」
今度はなぜかもうひとつ用意されたカエルの絵のついた緑色のスリッパを手にする。
「では、改めて……」
「この破廉恥悪魔」
「グヒャ~」
むろんその声の主はルシファー。
踏みつけられたカエルが上げるような叫び声とともに倒れ込み、同時に三人分の歓声と拍手が起こった。